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1章

魔法にトライ

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 俺と凛音はトラバサミに導かれてダンジョンを進んで行く。

 ダンジョンの廊下には刻まれた鉄のマネキンや剣や杖、盾に鎧など、明らかに俺たちの世界では使わない古い道具が落ちている。

「どこに案内してくれるのか?」
 俺が尋ねるとトラバサミは自信たっぷりに答える。

「このダンジョンの町に行く! 流れ着いた人々の町、そして擬人化した道具の町だ」

「このダンジョンはそんなに広いのか?」

「これでも狭い方だと町の人は言っていた。だが俺もここを踏破してないくらいだ!」

「他にもダンジョンがあるのか?」

「探せばいくらでも、この世界には有るようだ!」

 安全を確保しながら探索を進めようと決意た俺、凛音は周りに落ちているものに興味津々。下に有る鉄のマネキンや武器に触っている。

「止めとけ凛音、罠があるかもしれない」

「でも、せっかくのトライだから」

「トライってなに?」

「試すことだよ、何でもね」

「罠は試すなよ」

「これとかどう?」

 凛音が落ちている道具の中から、一本の木の棒を取り出す。片方は複雑に絡み合った根っこ、もう片方は鋭く尖っている。

「魔法の杖だったりして」

「いくらなんでもそれは……」

 先ほど虎と話した魔力と言う力の存在。でも俺たちの世界には魔法や魔力等は、マジシャンや占い師の言葉だろう。ここが俺の知る現実であるならばだが。

 ブンブンと隣から音がして俺は凛音を見た、杖を振り上げていろんな方向に振っている所だ。

「止めとけって!」

「そうだ、止めなさい」

 またもやどこかから声。見れば杖の絡み合った根っこからギョロっと目が一つ現れる。

「喋った!」
 
「そうだ、喋るのだ」

 この杖も擬人化した道具だったようだ。

「杖の人もかわいそうだから止めろよ凛音」

「いいや、喋ってくれ。呪文を喋れば使える」

「まじ! じゃあ杖、火を出して」

 凛音が声を出して杖を振ると杖から赤い光がほとばしり、火の玉を廊下の奥へと放った。

「スゴい!」

「待てって、こっち向けてたらヤバかったぞ!」

「いや、そっちもヤバかったみたいだ!」
 トラバサミが身構えた。廊下の奥から足音が聞こえる、俺がヘッドライトで照らすと頭が煤だらけになっている男たちがこちらへ走って来るのが見えた。

 彼らが口を開くと、聞きなれない発音が聞こえた。

「何て言ってる?」

「私に任せて、今までトライした言語は全部できる」

 凛音が耳を澄ませて彼らに近づく。二言聞いて戻ってきた。

「分からない事は分かったよ!」

「分かってないじゃん!」

 近づいてくる彼らは杖や剣と鎧を装備している。そして一人が剣を抜き放つ。

 トラバサミは俺たちの前に立ち声をあげた。

「逃げろ、スゴい怒ってる!」

 彼らは剣を持つ鎧姿の冒険者、ローブを纏った魔法使い、斧を持った小柄な人、そして見たこともない鎧を身にまとった若者の冒険者。
 四人ほどの男女の組み合わせは、現実世界では見かけない集団。コスプレかもと疑うが、虎とかいる場所でコスプレはしないな。

 彼らは明らかに怒っている様子で、何かを発言しながら俺と凛音に向かって走ってくる。

「凛音、今度はもっと安全な場所でトライしてくれ!」

「大丈夫。この場所では学習したから」

「とにかく逃げよう、攻撃したからやり返されるぞ」

「大丈夫よ、そんな蛮族じゃ有るまいし」

「剣を抜いてるけどな!」

 俺たちはダンジョンの廊下を走った。冒険者に追われてているのは、凛音が魔法を誤射したことが原因だ。どちらかと言えば俺たちが悪い。不可抗力だとしても、弁明出来ない言語の壁がある。

 冒険者たちは俺たちとは言葉が通じず、しかも彼らは武器を手にしている。彼らは鎧姿で戦うことを想定しているのに、俺たちはほぼ丸腰。廊下を駆け抜け彼らから逃げるしかない。

 その時、前方に別の人間が現れた。少年と少女の二人組だ。少年は豪華なローブを纏い、巨大なリュックと金銀の装飾品を身につけ、手には大きな木製の杖が握られている。少女は簡素な服を着ていた。

 少年の耳だけやけに長くとがっている。ここが俺たちのいた世界と違うどこかであることが実感できた。

「回り込まれた!」

「これじゃ、突破するしかない、私の剣道で!」

「剣持ってるのか?」

「忘れた!」

「意味ないじゃん!」

 前方にいる豪華なローブの少年が杖を構えた。そして、彼は何かを呟き杖を振る。すると檻が現れた。俺たちの背後に。

 会話ができない中、彼らの行動により最初に出てきた冒険者は足止めを受けた。俺は混乱する。

 後から来た二人がどうやら何かを話し合っているようで互いに耳打ちをした。

 すると少年は俺たちに杖を向けた。そこから光線が放たれて俺と凛音に当たる。何やら暖かい光の感触が伝わってきた。

「聞こえるか?」

 声を出したのは俺でも凛音でもない、目の前の少年だ。

「聞こえる。何をしたんだ?」

「言葉を話せるようになる魔法を使った。初級の魔法なんだが。それも使えないようでは冒険者にはなれない」

「なにおー!」

 凛音が少年に詰め寄り、彼を睨み付ける。凛音が近づくと少年は後退りした。顔もやけに赤いのは、凛音の美しい容姿に気圧されたのか。

「人の夢をあなたが勝手に諦めないで、これから出来るようになればいいじゃない!」

「それは、そうだな。悪かった」

「いいよー。そして、ありがとう」

「その前に魔法ぶつけたの謝っとこうよ、凛音」

「そうだった」

 檻の方に踵を返した凛音は、追ってきた冒険者たちに謝罪した。
 凛音は理由も素直に話して、謝罪を述べると鞄から板チョコを人数分取り出した上に食べ方までレクチャーした。相手も勢いに飲まれていつの間にか受け取ったチョコを食べ感謝して去っていった。

「今日も板チョコは冒険者を救ったわ。彼ら食料が尽きていたから気が立っていたみたい」

「助かったのは俺たちも一緒だがな」

 追ってきていた冒険者に頭を下げてから、俺は助けてくれた二人に向き直る。

「ありがとう。あんた達のお陰で助かった」

「なんて事はない。僕たちも追われていたからついでのついでだった」
 
「さっきの人達にか?」

「いや、別の奴らに」

「それって……」

 助けてくれた二人にお礼を述べたが、その喜びも束の間。俺たちと助けてくれた二人は、フードの付いたローブの集団に囲まれていた。

 彼ら集団は統一されたデザインのローブを着ている。彼らが何かしらの組織であると分かる。

 俺たちは一難去ってまた一難を迎えることになった。状況は分からないが、さらに事態が悪化した。

「僕はリュセラ。偉大なるエルフであり人気者だ、主に悪の組織に人気があるのだが」

「それは敵対だよな!」

 俺はスカーフに手を掛ける。このスカーフは頑丈なタクティカルスカーフ、主に武器を巻き取る戦法に扱う。

 リュセラと凛音は杖を構えた。そして、リュセラと一緒にいた少女が構えたのは厚めのフライパン?

 リュセラという少年と共に、謎のローブの集団に囲まれてしまった俺たちはピンチに立たされた。

 戦うしかない状況だが、俺は妹のために治療方法を持って帰らねばならない。凛音も連れて行ってみせる。それはそうとトラバサミかいないと、どこへ進めばいいか分からないのだが。
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