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50 彼女の正体
しおりを挟む次の日。テストは三日目。放課後、オレの下駄箱に何やら手紙が入っていた。開ける前から誰からの手紙なのか分かっていた。幸いにもこの時、柚佳はトイレに行っていたので手紙は見られていない。
人目を気にしつつ中を確認する。便箋に巷の女の子が書くような可愛らしい丸文字で、この間オレが下駄箱に入れたメッセージの返事が綴られていた。
『海里君へ。お手紙ありがとう。でも残念。下駄箱を間違えたようね。手紙はこちらで回収させてもらったわ。それから、二十六日……木曜日の放課後は四時なら行けそう。書いてあった場所で会いましょう。マキ』
「やっぱりな」
薄く笑って手紙を鞄に仕舞った。
テスト最終日。放課後にはクラスメイトの多くが晴れ晴れした顔をして、その日のテストの出来ばえを語ったり答え合わせをしたりしている。
今日は『マキ』と会う約束をしていた日。落ち合う予定の四時まで時間があるので一旦帰ろうと思う。篤は今日も妹と帰るらしく早々と教室から去った。柚佳、花山さん、和馬、オレといういつものメンバーで学校前の坂を下る。
「じゃな」
「おう、また明日な」
脇道へと入って行く和馬を少しの間見送った後、バス停へ続く坂を再び下る。
「花山さん」
オレが呼ぶと、前を歩く花山さんが足を止め振り返った。彼女は何だかんだでオレより長く和馬を見送っていた。柚佳はもうバス停の近くまで、ずっと先の方を歩いている。柚佳に追いつこうと足を速めている様子の花山さんはオレへ訝しむような目を向けてきた。
オレは何食わぬ顔をしてその表情を読んだ。
午後四時。屋上入口前に立つ。その小さなスペースの奥に置いてある掃除用具入れのロッカーの錆びが「悪霊の顔のように見えるな」とか物思いに耽っている。一旦家に帰ったけど服装は制服のままだ。「これからどうなることやら」と少し気が重い。
二分程遅れて階段下から足音が響いてきた。
姿を現した美少女『マキ』は、オレを見つけて階下の踊り場から微笑んでいる。
「随分と余裕そうだな」
挨拶代わりにニヤリと笑って言うと、相手もニッコリ返してきた。
「海里君がくれた手紙にあった『脅し』に屈した訳じゃないわ。……でも、鈍感なのによく分かったよね。誉めてあげる」
おちょくるような瞳で微笑んだまま、一歩ずつ階段を上って来る。長い黒髪が揺れている。
オレが下駄箱に入れた『マキ』宛ての手紙には『来なければお前の大切な人に秘密をバラす』と書き添えていた。
「ここに来たって事は、やっぱり下駄箱は合ってたんだな?」
マキに問う。手紙に書いた『秘密』とは彼女の正体であり、手紙を入れた下駄箱が本当に間違っていたのならきっとここには来なかっただろう。
彼女はニヤリと口の端を持ち上げた。
『マキ』からの手紙を見て確信していた。丸い特徴的な可愛らしい文字……花山さんの文字にそっくりだった。
そして篤から聞いた『マキ』についての情報。
『彼女の髪を手に取って気付いた。地毛じゃない。ウィッグだろう』
ずっと引っ掛かっていた、花山さんに届いた偽物のラブレター。オレの字をマネできる人物は限られている。ノートを何度も貸したよな。
「まさかお前にそんな才能があったなんてな。役者にでもなるつもりなのか? ……和馬」
呼ばれた美少女はニッコリと笑った。
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