【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】

猫都299

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「美南ちゃん。俺、腹減ったー。こうやって美南ちゃんとずっと喋っていたいのは山々なんだけど、そろそろ帰って飯食いてえ」

 和馬が自らの腹を押さえて花山さんに提案している。

 和馬は痩せている割にはよく食べる。痩せているからか普段厚着している事が多い。特に冬は骨身に染みるらしく制服の内側に着膨れする程インナーを着込んでいる。

「……そうね。ここでアンタに文句言っても時間のムダだわ。早く帰って勉強したいし」

 花山さんも和馬に同意してオレたちは解散した。





「柚佳、一緒に帰ろう?」

 自分の席に戻って帰り支度をした柚佳に声をかける。彼女の机の側に立って、その反応を見定めようと見つめる。顔を上げた彼女は微笑んでいた。でもどこか無理して笑っているようなぎこちなさがあった。

「うん、もちろん……」

 柚佳の返事に……誘いを断られなかった事に安堵したけど、俯いている姿に不安を掻き立てられる。
 やはり、昨日のわだかまりが残っているのだと思った。







 花山さんたちより先に教室を出て、いつものバス停までの坂を下った。


「柚佳、昨日はごめん。オレのせいで、そんな顔してるんだよな?」

 隣を歩く柚佳の顔を窺いながら尋ねた。彼女は俯きがちに、眉をひそめて少し曇った表情をしていた。オレが話しかけるとパッと顔を上げてこちらを見た。

「ううん。違うの! ちが……っ」

 柚佳はそう言って鞄を持っていない方の手と顔を横にブンブン振って否定していたが、言葉の途中で黙ってしまった。悲しげな瞳は下を向いている。彼女は口元だけに少し笑みを作った。告げられた。


「……違わない。そうだよ。海里のせいだよ」


 視線を上げてオレを見た彼女の目が、泣き出しそうに細められた。


「昨日も今日もずっと海里の事ばかり考えてた。桜場君の事を話せない私が悪いのは分かってるけど……。話したら海里は……っ!」


 何か言いかけた柚佳はしかし、途中で口を噤んだ。


「……海里はきっと、私を選ばない。私は本当に狡いから、だから絶対に言わない」


 暫く経って彼女は力なく笑い、やっとそう言うと再び下を向いた。

 オレは色々と衝撃を受けていた。柚佳もオレの事を考えてくれていたという嬉しいような気持ちと、彼女と篤の関係は絶対に言えない程深いものなのかという絶望に似た感情。後者が前者を少し上回って、内心激しく狼狽えている。

「そ、そうか……」

 何とも言葉が浮かばなくて、それだけ口にした。


 二人して無言でバス停まで歩き、バスを待った。
 程なく到着したバスに乗り座席に腰を下ろした。窓側だったので外をぼーっと眺めていた。頭の中にさっきの柚佳の台詞が反芻している。
 窓の外には昨日、和馬や花山さん……篤も一緒に下っていた坂の歩道が続いている。同じ高校の男女が仲良さそうに並んで歩いている。今は柚佳と微妙な雰囲気なので少し妬ましく感じた。……んん?

 バスが信号で止まった。オレは窓に貼り付くように歩道を歩く二人を凝視した。二人はこちらには気付かず何か話したり笑ったりしながら坂を下って行く。


 一方は……間違いない。篤だ。


 その横を歩いているのは知らない女子。小柄で淡い色の髪はウェーブが掛かっていて肩までの長さがある。人懐こそうな顔で、楽しげに笑っている。



「どういう事だ……?」

 呟いて考える。篤は柚佳の為に期間限定で付き合っていた彼女を振っていた。柚佳のほかには目を向けていないと思っていたのに。


「どうしたの?」

 隣に座っていた柚佳が訝しむようにオレに尋ねた。
 その時にはもうバスは動き出していて、窓から篤たちを確認する事はできなかった。
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