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22 反撃

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「柚佳、来て……」

 繋いだ彼女の左手を引く。靴を脱いだ柚佳を奥の居間へと連れて来た。立ったまま彼女と向かい合った。その右手も左手と繋いだ。

「どうしてオレと花山さんが両想いだって思ったの?」

 視線を合わせ真剣に問いかける。瞳を逸らされた。でも今聞かないと。柚佳との溝がこれ以上深まらないうちに。


「柚佳!」

「~~~っ!」


 彼女は唇を噛んで言うのを迷っているような素振りをした後、ぽつりぽつりと教えてくれた。


「一週間くらい前、美南ちゃんに聞いたの。………………海里からラブレターもらったって」

「はっ? ラブレター?」

「う、うん」

 驚いて聞き返すと柚佳もそんなオレの様子に驚いたように目を瞠っている。


「オレ、書いてないけど」

「私も最初はそう思ったけど……。手紙を見せてもらって分からなくなった。海里の字と似てたから」

「でもさ、それ……オレに直接聞けばよかっただろ?」

 呆れて溜め息をつく。

「美南ちゃんに口止めされたの。その手紙にも、恥ずかしいから誰にも言わないでほしいって書いてあったし。海里に聞いたら美南ちゃんが私に教えたのバレバレでしょ?」

「手紙には他に何て書いてあった?」


「あー、えーと……『ただ好きなのを知ってほしかった。オレにとって花山さんは到底手の届かない人だから、この想いは心に秘めている』とかだったかな」

「クサい文面だな」

「えと、本当に海里じゃないの……?」

 柚佳が目を丸くしてオレを見ている。心底呆れて、細めた目で見返した。


「……まだ信じてないの?」


 握っていた彼女の左手を放した。その代わり自由になった右手で短めのポニーテールを弄ぶ。


「ねぇ、何で家と学校で髪型変えるようになったの? 前はずっとポニーテールだったのに」

 柚佳はオレを見たまま黙っている。

「オレが前、下ろしてるの似合ってるって言ったから?」

 指を引っかけて結んであったヘアゴムを外した。解けた髪が彼女の肩に落ちる。

「凄く可愛いんだけど」

 繋いでいた方の手の指を絡めた。滑らかな髪の間に差し込んだ右手で後頭部を押さえて、息さえ奪うように深く追及した。


「ごめっ……んううたがっ……て」

「許さない」


 合間に涙目で許しを請われたけど、オレはまだ怒っていた。


「柚佳はさ、オレと花山さんが付き合ってもいいと思ってたんだ?」


 彼女の顔に掛かった髪の毛の房を右手で整えながら気になっていた事を聞いた。柚佳は右に視線を逸らして少しむくれているような表情だ。


「本当は嫌だったけど。一番でないのも海里にとってただ一人の人になれないのも気が狂いそうになるくらい嫌だったけど。綺麗に諦めきれなくて、美南ちゃんに内緒で海里とキスしてる自分も汚いし嫌いだった。……ずっと海里が好きだったから。『私を好きになって』っていつも念じてた」


 オレは思わず笑って言った。


「知ってる」


 彼女に見つめられる事が何度もあって、きっとその時そう思ってくれていたのだろう。やっと納得した。







「海里。今日の朝くれた告白の返事は、まだ間に合いますか?」


 つないでいる方の柚佳の手に緊張したように力が入ったのを感じた。まっすぐオレの目を見て、彼女はその言葉を口にした。


「私、ずっとずっと海里と恋人になりたかった。どうか私と付き合って下さい」


 泣きそうになる程の感動と抱きしめたくなる衝動を抑えて皮肉を込めて笑った。




「でもさぁオレ、キスの上手い子が好きだったんだよね確か」




 今までオレの気持ちを信じてくれなかった反撃を始めようと思う。


 ニコニコしていると彼女も過去の言動を思い出したようで慌てた顔をした。

「ごめんってば!」

 柚佳の口調から誤解が解けた事を確認した。

 やっとオレの想いが通じたみたいだけど簡単には許さない。それ相応に『誠意』を見せてもらう。


「ははは。柚佳のキスが上手ければ何も問題ないじゃん。今まで練習したんだし。オレをイチコロにできるよね?」


 我ながら何て事言ってんだと思うが、もうこの際何でもいい。彼女がどのくらいオレの事を好きなのか知りたい。ただ調子に乗っているだけとも言える。


「海里~~っ」


 凄く睨まれたけど強がって必死な彼女も物凄く可愛い。

 オレに相当な余裕が生まれたのは、柚佳の心が既にこちらの手の内と分かってしまったから。

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