22 / 67
22 反撃
しおりを挟む「柚佳、来て……」
繋いだ彼女の左手を引く。靴を脱いだ柚佳を奥の居間へと連れて来た。立ったまま彼女と向かい合った。その右手も左手と繋いだ。
「どうしてオレと花山さんが両想いだって思ったの?」
視線を合わせ真剣に問いかける。瞳を逸らされた。でも今聞かないと。柚佳との溝がこれ以上深まらないうちに。
「柚佳!」
「~~~っ!」
彼女は唇を噛んで言うのを迷っているような素振りをした後、ぽつりぽつりと教えてくれた。
「一週間くらい前、美南ちゃんに聞いたの。………………海里からラブレターもらったって」
「はっ? ラブレター?」
「う、うん」
驚いて聞き返すと柚佳もそんなオレの様子に驚いたように目を瞠っている。
「オレ、書いてないけど」
「私も最初はそう思ったけど……。手紙を見せてもらって分からなくなった。海里の字と似てたから」
「でもさ、それ……オレに直接聞けばよかっただろ?」
呆れて溜め息をつく。
「美南ちゃんに口止めされたの。その手紙にも、恥ずかしいから誰にも言わないでほしいって書いてあったし。海里に聞いたら美南ちゃんが私に教えたのバレバレでしょ?」
「手紙には他に何て書いてあった?」
「あー、えーと……『ただ好きなのを知ってほしかった。オレにとって花山さんは到底手の届かない人だから、この想いは心に秘めている』とかだったかな」
「クサい文面だな」
「えと、本当に海里じゃないの……?」
柚佳が目を丸くしてオレを見ている。心底呆れて、細めた目で見返した。
「……まだ信じてないの?」
握っていた彼女の左手を放した。その代わり自由になった右手で短めのポニーテールを弄ぶ。
「ねぇ、何で家と学校で髪型変えるようになったの? 前はずっとポニーテールだったのに」
柚佳はオレを見たまま黙っている。
「オレが前、下ろしてるの似合ってるって言ったから?」
指を引っかけて結んであったヘアゴムを外した。解けた髪が彼女の肩に落ちる。
「凄く可愛いんだけど」
繋いでいた方の手の指を絡めた。滑らかな髪の間に差し込んだ右手で後頭部を押さえて、息さえ奪うように深く追及した。
「ごめっ……んううたがっ……て」
「許さない」
合間に涙目で許しを請われたけど、オレはまだ怒っていた。
「柚佳はさ、オレと花山さんが付き合ってもいいと思ってたんだ?」
彼女の顔に掛かった髪の毛の房を右手で整えながら気になっていた事を聞いた。柚佳は右に視線を逸らして少しむくれているような表情だ。
「本当は嫌だったけど。一番でないのも海里にとってただ一人の人になれないのも気が狂いそうになるくらい嫌だったけど。綺麗に諦めきれなくて、美南ちゃんに内緒で海里とキスしてる自分も汚いし嫌いだった。……ずっと海里が好きだったから。『私を好きになって』っていつも念じてた」
オレは思わず笑って言った。
「知ってる」
彼女に見つめられる事が何度もあって、きっとその時そう思ってくれていたのだろう。やっと納得した。
「海里。今日の朝くれた告白の返事は、まだ間に合いますか?」
つないでいる方の柚佳の手に緊張したように力が入ったのを感じた。まっすぐオレの目を見て、彼女はその言葉を口にした。
「私、ずっとずっと海里と恋人になりたかった。どうか私と付き合って下さい」
泣きそうになる程の感動と抱きしめたくなる衝動を抑えて皮肉を込めて笑った。
「でもさぁオレ、キスの上手い子が好きだったんだよね確か」
今までオレの気持ちを信じてくれなかった反撃を始めようと思う。
ニコニコしていると彼女も過去の言動を思い出したようで慌てた顔をした。
「ごめんってば!」
柚佳の口調から誤解が解けた事を確認した。
やっとオレの想いが通じたみたいだけど簡単には許さない。それ相応に『誠意』を見せてもらう。
「ははは。柚佳のキスが上手ければ何も問題ないじゃん。今まで練習したんだし。オレをイチコロにできるよね?」
我ながら何て事言ってんだと思うが、もうこの際何でもいい。彼女がどのくらいオレの事を好きなのか知りたい。ただ調子に乗っているだけとも言える。
「海里~~っ」
凄く睨まれたけど強がって必死な彼女も物凄く可愛い。
オレに相当な余裕が生まれたのは、柚佳の心が既にこちらの手の内と分かってしまったから。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~
テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。
なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった――
学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ!
*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
青春
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
イラスト部(仮)の雨宮さんはペンが持てない!~スキンシップ多めの美少女幽霊と部活を立ち上げる話~
川上とむ
青春
内川護は高校の空き教室で、元気な幽霊の少女と出会う。
その幽霊少女は雨宮と名乗り、自分の代わりにイラスト部を復活させてほしいと頼み込んでくる。
彼女の押しに負けた護は部員の勧誘をはじめるが、入部してくるのは霊感持ちのクラス委員長や、ゆるふわな先輩といった一風変わった女生徒たち。
その一方で、雨宮はことあるごとに護と行動をともにするようになり、二人の距離は自然と近づいていく。
――スキンシップ過多の幽霊さんとスクールライフ、ここに開幕!
恋とは落ちるもの。
藍沢咲良
青春
恋なんて、他人事だった。
毎日平和に過ごして、部活に打ち込められればそれで良かった。
なのに。
恋なんて、どうしたらいいのかわからない。
⭐︎素敵な表紙をポリン先生が描いてくださいました。ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
この作品は小説家になろう、エブリスタでも連載しています。
※エブリスタにてスター特典で優輝side「電車の君」、春樹side「春樹も恋に落ちる」を公開しております。
こじらせ男子は好きですか?
星名柚花
青春
「好きです」「すみません。二次元に彼女がいるので」
衝撃的な文句で女子の告白を断った逸話を持つ男子、天坂千影。
良家の子女が集う五桜学園の特待生・園田菜乃花は彼のことが気になっていた。
ある日、菜乃花は千影に土下座される。
毎週水曜日限定販売のカレーパンを買うために階段を駆け下りてきた彼と接触し、転落して利き手を捻挫したからだ。
利き腕が使えないと日常生活も不便だろうと、千影は怪我が治るまでメイド付きの特別豪華な学生寮、0号館で暮らさないかと提案してきて――?
てんどん 天辺でもどん底でもない中学生日記
あおみなみ
青春
2011年3月11日金曜日14時46分、中学1年生だった
2011年3月11日14時46分、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)
その地震津波に起因する原発事故が変えてしまったものは、何より「人のこころ」だったと思う。
桐野まつり、F県中央部にある片山市の市立第九中学校在学中。完璧超人みたいな美形の幼馴染・斉木怜[レイ]のおかげで、楽しくも気苦労の多い中学校生活を送っている。
みんなから奇異な目で見られる部活に入り、わいわい楽しくやっていたら、大地震が起きて、優しかったレイの母親が不安定になったり、気になる転校生「日高君」がやってきたり。
てっぺんでもどん底でもない普通の毎日を過ごしているだけなのに、やれ放射能だ自主避難だとウルサイ他県のおっさんおばさんおにーさんおねーさん方にもうんざり。
大体そんな感じのお話です。
田中天狼のシリアスな日常
朽縄咲良
青春
とある県の平凡な県立高校「東総倉高等学校」に通う、名前以外は平凡な少年が、個性的な人間たちに翻弄され、振り回され続ける学園コメディ!
彼は、ごくごく平凡な男子高校生である。…名前を除けば。
田中天狼と書いてタナカシリウス、それが彼の名前。
この奇妙な名前のせいで、今までの人生に余計な気苦労が耐えなかった彼は、せめて、高校生になったら、平凡で平和な日常を送りたいとするのだが、高校入学後の初動に失敗。
ぼっちとなってしまった彼に話しかけてきたのは、春夏秋冬水と名乗る、一人の少女だった。
そして彼らは、二年生の矢的杏途龍、そして撫子という変人……もとい、独特な先輩達に、珍しい名を持つ者たちが集まる「奇名部」という部活への起ち上げを誘われるのだった……。
・表紙画像は、紅蓮のたまり醤油様から頂きました!
・小説家になろうにて投稿したものと同じです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる