12 / 67
12 本心
しおりを挟む細い階段の続く道で立ち止まったオレたち。周囲には民家や小さな畑がある。いつもなら高台から下る時に見える景色を堪能するけど、今日は景色に目もくれず後方にいる柚佳を注視していた。
オレの方が幾分柚佳より身長が高い。柚佳の身長は女子の平均より少し高い方でオレのいる位置より階段の一段分上にいる彼女と今、目線の高さが同じくらいだ……。
間近で彼女を観察している。授業中使う眼鏡は今はしていない。ポニーテールは短めで、長さが足りなくて結べない部分の髪は黒のヘアピンで留めている。睫が長い。化粧もしていないのにこの可愛さはどういう事だろうか。
そんな彼女が、目を合わせてくれない。
「柚佳、『行かないで』ってもしかして……オレに傍にいてほしいって思ってる?」
繋いでいた手に再びぎゅっと握られる感覚があった。柚佳は視線を上げ、オレの瞳を見つめてきた。苦しげに目を細めた彼女の小さな小さなその声を、オレは確かに拾った。
「うん……」
涙が出そうだった。これって両想いなのではないだろうか。……でも。オレの不安は消えない。彼女は篤ともいい雰囲気だった。意を決して核心を聞いた。
「それって、オレの事が好きって事?」
柚佳の目が大きく瞠られるのを見た。繋ぐ手にさっきよりも強い感触があった。だけど彼女は表情を曇らせるように瞳を下へ逸らした。
「ううん。違うよ」
「嘘だな」
オレは断言した。
「何でお前が嘘ついてるのか知らないけど、オレはもう遠慮しないからな?」
逃げられないように、彼女の両手をしっかりと握った。
「何で今朝、オレにキスしたのかな?」
彼女は返事に困ったように歯噛みした後、オレを睨め付けた。
「……キライ」
「嘘だな」
即断する。もう自信を持って言える。彼女はオレの事が好きだ。
「あ、それと。オレたちの関係を秘密にするって言ってたけど、皆の前でお前を連れ出したから相当怪しまれてると思う。悪いな。本当は篤と帰りたかったんだろう?」
「~~キライ!」
「嘘だよ。お前は篤じゃなくてオレと一緒にいたかったんだよな?」
暫くの間、言葉もなく見つめ合った。
柚佳が降参したと言いたげに溜め息をついて苦笑した。そして白状した。
「嬉しかった」
それはきっと教室から連れ出した時の事を言っているのだろう。
「何で?」
欲張って確実な言質を求めたけど、最後はやっぱりはぐらかされた。
「何でかな……?」
顔と顔が近い。オレの目もまともに見れない程相手は余裕がなさそうだ。恥じらうように頬を染める幼馴染と唇を交わした。
いい雰囲気だったけど散歩中の犬に吠えられて我に返った。
笑い合って階段を下った。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~
みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。
ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。
※この作品は別サイトにも掲載しています。
※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について
塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。
好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。
それはもうモテなかった。
何をどうやってもモテなかった。
呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。
そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて――
モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!?
最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。
これはラブコメじゃない!――と
<追記>
本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる