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二章 復讐のその後

52 クリスマスパーティー

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 クリスマスイブ当日になった。予約していたカラオケルームに入った後、クリスマスパーティーが始まった。

 ここに来るまで各自丈の長いコートや上着やロングスカート等で隠していたクリスマス仕様のコスチューム姿にチェンジした。

「姫莉ちゃん、可愛い~!」

 佳耶さんが姫莉ちゃんを見て目を輝かせている。

「そうでしょ? だって姫莉だもん!」

 姫莉ちゃんが得意げに胸を張った。姫莉ちゃんが着ているのはトナカイのコスチューム。黄土色のモコモコした生地でおなかのところは楕円形に白い。袖は短くパフスリーブの形で同じようにモコモコしたパンツとセットになっている。極め付きは彼女の被っているフードで、トナカイの可愛い顔と丸っこい角が付いている。

「くっ! 私も着たかった……!」

 姫莉ちゃんの隣でありすちゃんが悔しがっている。

「あっ、ありすちゃん?」

 思わず声を上げた。ありすちゃんの格好をまじまじと見回す。

「……っ。やっぱり私には似合わないよね? こんな可愛い服」

 ありすちゃんはそう言ったけど。これは……。

「もの凄く似合ってるよ! めちゃくちゃ可愛いね、巫女サンタ!」

「でしょう? 私の今回一番の力作なの!」

 興奮気味に讃えた私の隣でほとりちゃんがニヤリと自慢してきた。

「ありすちゃんを見た時閃いたの! 凛とした佇まいと見事な黒髪……。この巫女サンタ服を一番輝かせられるのは彼女だって!」

 ほとりちゃんの言う通りだと感心し、もう一度ありすちゃんを見た。

 姫莉ちゃんの着ているトナカイコスチュームと同じようなモコモコした生地で作られているから巫女っぽい和風の形でもクリスマスのコスチュームだって分かる。膝くらいまでの赤いキュロットスカート、白タイツ、白い上着の襟元と袖は着物っぽくて腰の辺りの左側と結んだ髪に赤いリボンが付いている。そして赤と白のサンタさんの帽子を被っていた。

「あ、ありがとう……」

 ありすちゃんが照れたように被っていた帽子で顔を隠した。

「明ちゃんとほとりちゃんも凄く可愛い」

 ありすちゃんに言われてどぎまぎしてしまった。何と言えばいいか惑ってありすちゃんと同じ文言で返事する。

「あ、ありがとう……」

「えへへ。照れちゃうなぁ」

 ほとりちゃんも少し恥ずかしそうに笑っている。

 ほとりちゃんはワンピースのサンタさんで厚めの生地が暖かそう。ややタイトな作りで丈は膝下まである。このメンバーの中で一番普通のコスチュームだ。小さめのサンタ帽をやや斜めに被っていてサンタ帽に付いている丸いふわふわの飾りの垂れ具合が絶妙に可愛い。

 私が着ているのも普通のサンタコスチューム。赤い長袖上着の襟と袖口付近が白い生地になっている。赤いスカートの裾付近も白い生地で丈は膝の少し上くらいなんだけど……ちょっと短いよね? 黒タイツを穿いているって言っても気になる。

 このコスチュームは以前試着会でさりあちゃんが断念したものだ。さりあちゃんは背が高いから上着の丈も少し短くてお腹がチラリと見えるセクシーなサンタさんになりそうだった。

 セクシーと言えば。佳耶さんに目を向ける。佳耶さんも普通のサンタ服の筈だったのに。しかも私のとちがってスカート丈が膝下まである。何と表現すればいいのか。彼女はただ普通に着用しているだけなのに。どうしても視線が胸部に吸い寄せられる。今まで気付きにくかったのはきっと分かりにくい服を着ていたんだと思う。それなのに腰が細くて羨ましい。

「朔菜たち遅いわね」

 さりあちゃんがドアの方を見ながら言った。今日のコスチュームの中で一番異質だったのがさりあちゃんが着ているものだ。丈の長い紺色の生地で作られたシスター風ワンピース。ベールのような被り物が彼女の髪色に映えて凄く綺麗だ。でもほかの子の着ている服と色味が違ってとても目立っている。ほとりちゃん曰く、ハロウィン用に作っていたけどその頃は皆忙しくて集まれなかったからお蔵入りしたものとの事だった。

「思った通り。さりあちゃん神秘的な美しさだよ」

 ほとりちゃんが満足げにさりあちゃんを眺めている。

 そんな時ドアが勢いよく開けられた。

「見て見て! 朔菜の!」

 部屋に入ってきたのは晴菜ちゃんだった。彼女は白い縁取りの赤いポンチョが可愛いサンタコスチュームで、スカートがタイトなのものをチョイスしたのが晴菜ちゃんっぽい気がした。だけど裾の部分はヒラヒラしていてマーメイドスカートにも見える。そしてほとりちゃんと同じく小さめのサンタ帽。とにかく可愛い。

「はやくう! 何恥ずかしがってんの!」

 中々部屋へ入ろうとしない朔菜ちゃんに晴菜ちゃんが痺れを切らして腕を引っ張っている。おずおずと俯きがちに朔菜ちゃんも部屋へ入った。部屋にいた皆がどよめいた。

「ユララだ! ユララのクリスマスバージョン! わー! 姫莉もやりたかった!」

「朔菜ちゃん、凄い似合ってる可愛い!」

「えっ? まさか? ここまでユララそっくりなコスプレ見たことないよ!」

「朔菜……! 私もしたかったわ……」

「ふふん。でしょでしょ。クリスマスバージョンもいいよね!」

 羨ましがっている姫莉ちゃん、ニコニコ楽しそうな佳耶さん、驚いているありすちゃん、悔しがっているさりあちゃん、功労者のほとりちゃんが口々に喋り出すから室内が更に賑やかになった。

 朔菜ちゃんは晴菜ちゃんのコスチュームと似た作りのサンタ服を着ていた。だけどスカート部分はふんわりした印象のフレアスカートで裾の端が白いふわふわで縁取られている。メイクや髪や瞳の色もユララ仕様で小さめの羽もポンチョの後ろ側に付いていた。

 ……これ、花織君が見たら喜ぶんだろうなー。

 考えて気の毒に思った。今日のクリスマス女子会は男子禁制という掟があった。女子だけならコスプレしてもいいという子もいるからだ。私もそうだ。してみたいけど何か恥ずかしいこの気持ち。だから参加者は花織君のほか春夜君や理お兄さんといった男子組には情報を洩らさないよう朔菜ちゃんたちから言い含められていた。

 ――だが。思いも寄らない物事は水面下で進行しているのだった。



 皆で和気あいあいとカラオケしていた。大きなクリスマスケーキを切り分けて食べた。姫莉ちゃんとありすちゃんの好みの曲が被っていて、どちらが上手いか勝負が始まり全員を巻き込んだ歌合戦に発展した。

 最中お腹が痛くなるまで笑ったし、しんみりした曲を情感たっぷりに歌われて涙が出た時もあった。しかもそれは私の対戦相手だった。

 そんな楽しい時間もあと僅かで終わる頃……唐突に部屋のドアが開いた。

 直前まで騒がしかった皆が水を打ったようにしんと静まった。出入り口に立つ彼らを見ていた。彼らも私たちを見て目を大きくしていた。

 彼らの一番前に立っていた花織君が呆然とした様子で口を開いた。

「え? ユララのサンタ? ヤベーよ。オレ、一生分の運を使い果たした気がする……。知らない間に死期が迫ってたりしないよな?」

「落ち着け。まずは状況を見ろ。アウェー感半端ねぇぞ」

 前髪のもっさりした男子が花織君に助言している。花織君の後方には彼のほかに理お兄さんや岸谷君や……春夜君もいる。



「この中に裏切り者がいます」

 変な空気が漂っていた中、強めの語気を孕んだ声が響いた。立ち上がったさりあちゃんは険しい眼差しで私たちを見渡した。問われる。

「誰? このクリスマス女子会を密告したのは」
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