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一章
25 企み
しおりを挟むコンビニの裏の通り、短い橋を渡った先に小さな公園があり私と岸谷君はブランコに座って話を始めた。日も落ちて既に街灯が点いている。公園にはほかに誰もいなくて貸切みたいだ。
「さっきの子たちは友達?」
岸谷君の問いに少し考えて「うん」と頷いた。
「そっか」
岸谷君は少し嬉しそうな雰囲気で頬を綻ばせた。
「あいつとは上手くいってんの?」
「あいつ? ああ。沢西君の事? ……うん」
「本当に? ……オレさ、今でも坂上の事が好きなんだ」
「え?」
俯かせていた顔を上げ岸谷君を見た。一週間程前まで何年も……遠くから目で追っていた人の瞳が私を映している。だけどすぐに晴菜ちゃんと彼のキスシーンが思い浮かび胸が苦しくなる。
「岸谷君の事好きだったよ。でも岸谷君には晴菜ちゃんがいるよね? 私、今はもう沢西君が好きだから」
伝えると岸谷君の目が大きく開かれた。私は続け様に「もう行くね。舞花ちゃんを待たせてるから」と言い置いて立ち上がった。
大事な話って言っていたから「もしかして晴菜ちゃんが少し元気なさそうだったのと関係ある?」って思って付いて来たのに。
帰ろうと歩き出した時、手首を掴まれた。
「待って! 話を聞いてほしい。俺、嵌められたんだ」
「えっ?」
驚いて振り返った。
「詳しくは言えないけど……あの『聖女』には気を付けて」
岸谷君の言動に、自分の眉間に皺が寄るのが分かる。思わず聞き返した。
「どういう事?」
岸谷君は私を心配してくれているような目で諭してくる。
「信じない方がいい。あの子、裏表がありそうだ」
……確かに。凄い裏表があったよ。だけどそこまでは岸谷君も知らないだろう。
「そうだね。でも大丈夫だよ」
言い切る。微笑んで見せた。
「バイバイ」
「待って!」
別れを告げたのに猶も私の手首を放してくれない。口を結んで思い詰めたような深刻な表情の彼を虚ろに眺めていた。
もう私を苦しめないでよ。つらい気持ちを思い出したくないよ。
「一度だけ……俺の願いを叶えてくれないか? 俺の夢、知ってるだろ?」
泣きそうな目をして私にそう言った。
絶句した。
暫く経ってやっと言葉を出せた。
「あの約束は私だけしか覚えてないと思ってたよ」
泣き顔を見られたくなかったので手を振り払ってその場から逃げた。
かつて宝物だった思い出……小さい頃にした純粋な将来の約束は真実を知った日に穢れた。
次の日の放課後、第二図書室に誰もいないのをいい事に奥にある椅子に座って泣いていた。長年の片想いがまだ尾を引いていた。虚しくなる。独り言ちる。
「私を馬鹿にしてるの?」
思い起こしては腹立たしくて泣けてくる。昨日も逃げ帰ってしまったし。上手くやり返せない自分にも腹が立つ。
その時戸の開く音がした。誰かがこっちへ来る足音も。
「先輩、ここにいたんですか。先に帰ったのかと思って焦りましたよ」
あ。さっきからスマホが震えているのは知っていたけど、やっぱり沢西君だったんだ。こんなみっともない顔で会えないから応答しなかった。「先に帰って」とかメッセージを打っておけばよかった。
「……先輩は何で泣いてるんです?」
「ちょっと昨日悔しい事があって」
「全部話して下さい」
沢西君が聞いてくれると言うので甘える事にする。話したら気持ちも幾分晴れるかもしれない。舞花ちゃんの正体については伏せて昨日あった事を話した。岸谷君と幼い頃した約束についても。その間ずっと、沢西君は私の頭を撫でてくれていた。
岸谷君から逃げて帰ったところまで話した時、沢西君が言った。
「先輩。その告白ОKして下さい」
「はい?」
とんでもない内容だった気がして耳を疑った。沢西君は真面目な顔で言い切った。
「オレに考えがあります」
そして私たちは手短に復讐の計画を共有したのだった。
「岸谷君と付き合う事になったよ」
次の日の塾の帰り、沢西君へ報告した。沢西君はニマッと笑った。
「それはよかったです。おめでとう」
「ありがとう」
私も笑い返した。正直、今更岸谷君と付き合うなんて考えられなかったけど。沢西君の事は信じているので企みに乗った。
「計画通りだね」
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