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一章
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しおりを挟む商店街近くの裏道で朔菜ちゃん、さりあちゃん、ほとりちゃんと別れた。私の家は沢西君たちの住んでいるマンションと同じ方面にあるので、もう暫く一緒に乗せてもらう。
大通りを北へと車は進んで行く。運転中の理お兄さんが切り出した。
「お前、あの女子高生の事が好きなのか?」
それまで俯いていた花織君がゆっくり理お兄さんを見た。
「現実の女に興味ないんじゃなかったの? ……佳耶の事は本当に好きじゃなかったんだな?」
「オレは最低だ」
理お兄さんに尋ねられ、花織君は再び俯き絞り出すような声でそう自分を罵った。黙り込んでしまった花織君に沢西君が問い掛ける。
「何が最低なんだ?」
花織君のフッと笑う気配がした。
「あの子にユララの格好で願望を叶えてもらう想像をしてしまった。今のオレはその事で頭がいっぱいだからだ!」
「あー」
花織君の答えに沢西君は「聞かなきゃよかった」と言いたげに肩を落とした。
「じゃあ本当に佳耶の事は何とも思ってないんだな?」
理お兄さんが念押しする。花織君は少しイラッとしたような雰囲気で理お兄さんへ顔を向けた。
「この際だから教えてやるよ。オレは本当は佳耶が好きだった。だけど佳耶の一番近くにはいつもお前がいるから必死に諦めようとしてたんだよ!」
「知ってた」
「知っ……え? 知ってた?」
理お兄さんが事もなげに口にしたので花織君はうろたえている様子だった。理お兄さんは苦笑して言う。
「俺に遠慮してたんだろ?」
「……っ、違うし! オレがお前に敵う筈ないの分かってて言ってんの? スゲー嫌味だな!」
「それは俺たちじゃなくて佳耶が決める事だろ?」
花織君は言葉に詰まったように反論をやめた。理お兄さんは続ける。
「お前が誰を好きでも別に構わないけど佳耶への想いには決着をつけろよ。後々やっぱり佳耶が好きだとか言われても困るから」
「もう好きじゃない」
「嘘だな。後で後悔するぞ……って言っても素直に人の言う事聞かないよな、お前は。だからエサを用意した」
「エサ?」
理お兄さんの言葉に花織君が反応を示した。訝しむように眉を寄せ理お兄さんを睨んでいる。
「ユララの子の写真139枚といくつかの動画を特別に俺のスマホへ送ってもらったんだ。佳耶に告白するなら全部お前のものだ」
花織君の目が見開かれた。
「ひっ、卑怯だぞ! 初対面の女子高生に写真をもらうなんて、お前どんだけコミュ力高いんだよ!」
「お前が低過ぎるだけだろ」
「ぐっ」
理お兄さんの指摘に自覚があるのか、花織君が悔しそうに呻った。
「お前の好きなアニメのキャラだったから頼んだんだ。もしかしたらお前でも興味を持つかなって」
理お兄さんは爽やかに言い切った。
「…………分かった。告白はする。でも急な話でまだ心の準備ができていない。もう少し待ってくれ。先に写真を渡してくれ」
「……。本当にする気があるんだな?」
「ああ」
成り行きをドキドキしながら見守っていたけど、もうすぐ私の家に着きそうだ。
「先輩」
沢西君がちょいちょいと手招きしている。前の席の二人には秘密の話なのかなと耳を寄せる。ごく小さな声で要求があった。
「オレにも後で写真を送って下さい」
「え……っ」と思った。理お兄さんに花織君と沢西君には写真を送らないよう言われていたし、それに――。「沢西君も朔菜ちゃん……もしかしたら、さりあちゃんやほとりちゃんかもしれない。誰かの事が気になって写真を手元に残したいと思ったの?」ともやもやした複雑な心境になった。
「オレ、先輩の写真が欲しいです」
囁かれた内容にハッとした。シートに置いていた右手の甲に沢西君の左手が重なっている。
「先輩の写真だけでいいので……」
「えっと? う、うん」
もやもやは消し飛んだけど、どぎまぎしてしまって沢西君の方も見れなかった。
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