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二章 続編 未完成な運命は仮初の星で出逢う
80 プロローグ
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「……っう……龍君っ!」
手を天井に向けて突き出した状態で目が覚めた。白っぽい色の天井には朝の光が差し込んでいる。
ドキドキする胸を押さえて身を起こした。ここは私の住む部屋。屋根裏部屋らしく天井が斜めになっている。窓辺に余り水分を与えなくても大丈夫な植物の小さな鉢を置いている。今日はたくさんお水をあげなきゃ。
白い部屋着のまま近くへ行き、その奥の窓を開ける。がやがやとした活気に満ちた音が三階のこの部屋に届く。
窓から町並みを見下ろす。家々や露店のカラフルな屋根が目に鮮やかで、どこかでお肉の焼ける匂いが鼻をくすぐる。お腹空いたな。
街の先には山を土台のように建つ城がある。細長い塔の集合体みたいな濃い灰色の城で、結構な高さがある。
どこからか黄色い蝶が飛んで来て窓辺の植物に留まった。由利花の世界で言うところのサボテンに似たその植物には、いつの間にか白い花が咲いていた。小さくて可愛い。
蝶は少しだけ翅を休めた後、また窓の外へ飛んで行った。可愛らしいお客さんに心がほっこりして自然と口元を綻ばせていた。さあ、私も飛び立つ準備をしなきゃ。
古ぼけた棚から今日着る服を取り出し袖を通す。焦げ茶色の三面鏡を開ける。服装を確認し髪を整える。
中の方に着ているのは由利花の国にあった「着物」のような襟元の、紫色のワンピース。その上に着用しているジャンパースカート風の衣装はスリットが深くチャイナドレスの裾みたいになっている。スリットから中に着ているワンピースのスカートが出るデザイン。一番上から半透明で黄緑色の丈の長い上着を羽織っている。それらをジャンパースカート風衣装と同じ濃い青色の布で腰に括っていた。
髪に星のカチューシャを付ける。星形の部分は私の瞳と同じ深いピンク色で真珠に似ている白い珠を連ねて垂らし何とも可愛い髪飾りとなっている。
月の色のような温かみのある薄黄色の髪は毛量が多くてふわっふわだ。クセ毛を気にしていた由利花も彼女の本体がこんな髪質だと知ったらびっくりするだろうな。
鏡の中の女の子がルビー色の瞳を細めて微笑んでいる。
「人間」の分類で創られた私の身体。今の外見は由利花たちの暦で十七歳くらいに見える。実際は三十七歳なのだけど。
「ワズ」を始めてから知った……地球人と私たちとでは年を取るスピードも違うようだ。多分、私たちの方が本物の人間の三倍くらい長寿なんだと思う。
古くから人間は邪悪な存在として有名な伝説上の生き物だった。狡賢く、都合の悪い事を忘れて生きる。だが近年……人間の可能性に期待する高まりが起こり、あるプロジェクトが進められた。それにより創造されたのが人間を模して創られた私たち。
宇宙と呼んでいいのかは分からないけど、人間用の星域だけでも色々な星・世界がある。
私たちを創った存在は恐らく私たちを眺めて何か思考を巡らせているんだろう。そう考えると愛玩動物として生まれた気分。
今朝、目覚める直前まで「ワズ」にいた。由利花の見る夢を見ていた。まだその余韻が残っている。本を読み終わった後、その物語で味わったイメージが抜けないあの感覚に近い。
「龍君……」
少し悲しくなって独り言ちた。こんなのって残酷だ。彼と将来結婚する約束もしたのに。
今人気の復元された星を利用した記憶体験型シミュレーション星域「ワズ」。古代地球語の「worlds」や「waz」から作られた名称だと何かで聞いた気がする。
人間になりきって地球での人生を疑似体験できる。登録を行って仮初の身体「アバター」を手に入れた私は「笹木由利花」という女性になって人間の生を経験していた。
眠る時間を利用してワズへ誘われる仕様だ。
そこで知り合った、とある人物に恋をした。
ただでさえ人間の命は儚く、ワズの星域内でしか逢えない人なのに……。
恋人である私の事を忘れてしまったかのように振る舞う彼に由利花はとても動揺していた。
鏡の前にいる私は由利花の本体。今の私の名前は「エスティ・ティナ・ティテ」。
私は旅をする。
龍君を必ず見つけるよ。
九月には修学旅行があった。大変な事もあったけど友達と思い出を作れた。その後、お休みの日に友人らも誘って釣りに行った。
修学旅行の辺りから……幼馴染であり前の人生での夫だった鈴谷龍君の様子が変だ。以前と違い、彼から冷めた目付きを向けられるようになった。
前々回の人生での夫、透がこの世界について色々知っている「マスター」と呼ばれる役柄だったので相談した。どうやら友人たちの中にもう一人「マスター」がいて、その人物が龍君に何かした可能性があるらしい。
釣りに行った日、龍君のしているミサンガが目に付いた。赤い石の付いたそのアクセサリーに何故か不吉な予感を覚えた。
龍君に近付こうとする程、心に傷を負う。元の彼を取り戻したいと頑張るけど、つらく苦しく時々甘い日常を送っていた。
きっと約束を叶えるから。諦めないよ。
手を天井に向けて突き出した状態で目が覚めた。白っぽい色の天井には朝の光が差し込んでいる。
ドキドキする胸を押さえて身を起こした。ここは私の住む部屋。屋根裏部屋らしく天井が斜めになっている。窓辺に余り水分を与えなくても大丈夫な植物の小さな鉢を置いている。今日はたくさんお水をあげなきゃ。
白い部屋着のまま近くへ行き、その奥の窓を開ける。がやがやとした活気に満ちた音が三階のこの部屋に届く。
窓から町並みを見下ろす。家々や露店のカラフルな屋根が目に鮮やかで、どこかでお肉の焼ける匂いが鼻をくすぐる。お腹空いたな。
街の先には山を土台のように建つ城がある。細長い塔の集合体みたいな濃い灰色の城で、結構な高さがある。
どこからか黄色い蝶が飛んで来て窓辺の植物に留まった。由利花の世界で言うところのサボテンに似たその植物には、いつの間にか白い花が咲いていた。小さくて可愛い。
蝶は少しだけ翅を休めた後、また窓の外へ飛んで行った。可愛らしいお客さんに心がほっこりして自然と口元を綻ばせていた。さあ、私も飛び立つ準備をしなきゃ。
古ぼけた棚から今日着る服を取り出し袖を通す。焦げ茶色の三面鏡を開ける。服装を確認し髪を整える。
中の方に着ているのは由利花の国にあった「着物」のような襟元の、紫色のワンピース。その上に着用しているジャンパースカート風の衣装はスリットが深くチャイナドレスの裾みたいになっている。スリットから中に着ているワンピースのスカートが出るデザイン。一番上から半透明で黄緑色の丈の長い上着を羽織っている。それらをジャンパースカート風衣装と同じ濃い青色の布で腰に括っていた。
髪に星のカチューシャを付ける。星形の部分は私の瞳と同じ深いピンク色で真珠に似ている白い珠を連ねて垂らし何とも可愛い髪飾りとなっている。
月の色のような温かみのある薄黄色の髪は毛量が多くてふわっふわだ。クセ毛を気にしていた由利花も彼女の本体がこんな髪質だと知ったらびっくりするだろうな。
鏡の中の女の子がルビー色の瞳を細めて微笑んでいる。
「人間」の分類で創られた私の身体。今の外見は由利花たちの暦で十七歳くらいに見える。実際は三十七歳なのだけど。
「ワズ」を始めてから知った……地球人と私たちとでは年を取るスピードも違うようだ。多分、私たちの方が本物の人間の三倍くらい長寿なんだと思う。
古くから人間は邪悪な存在として有名な伝説上の生き物だった。狡賢く、都合の悪い事を忘れて生きる。だが近年……人間の可能性に期待する高まりが起こり、あるプロジェクトが進められた。それにより創造されたのが人間を模して創られた私たち。
宇宙と呼んでいいのかは分からないけど、人間用の星域だけでも色々な星・世界がある。
私たちを創った存在は恐らく私たちを眺めて何か思考を巡らせているんだろう。そう考えると愛玩動物として生まれた気分。
今朝、目覚める直前まで「ワズ」にいた。由利花の見る夢を見ていた。まだその余韻が残っている。本を読み終わった後、その物語で味わったイメージが抜けないあの感覚に近い。
「龍君……」
少し悲しくなって独り言ちた。こんなのって残酷だ。彼と将来結婚する約束もしたのに。
今人気の復元された星を利用した記憶体験型シミュレーション星域「ワズ」。古代地球語の「worlds」や「waz」から作られた名称だと何かで聞いた気がする。
人間になりきって地球での人生を疑似体験できる。登録を行って仮初の身体「アバター」を手に入れた私は「笹木由利花」という女性になって人間の生を経験していた。
眠る時間を利用してワズへ誘われる仕様だ。
そこで知り合った、とある人物に恋をした。
ただでさえ人間の命は儚く、ワズの星域内でしか逢えない人なのに……。
恋人である私の事を忘れてしまったかのように振る舞う彼に由利花はとても動揺していた。
鏡の前にいる私は由利花の本体。今の私の名前は「エスティ・ティナ・ティテ」。
私は旅をする。
龍君を必ず見つけるよ。
九月には修学旅行があった。大変な事もあったけど友達と思い出を作れた。その後、お休みの日に友人らも誘って釣りに行った。
修学旅行の辺りから……幼馴染であり前の人生での夫だった鈴谷龍君の様子が変だ。以前と違い、彼から冷めた目付きを向けられるようになった。
前々回の人生での夫、透がこの世界について色々知っている「マスター」と呼ばれる役柄だったので相談した。どうやら友人たちの中にもう一人「マスター」がいて、その人物が龍君に何かした可能性があるらしい。
釣りに行った日、龍君のしているミサンガが目に付いた。赤い石の付いたそのアクセサリーに何故か不吉な予感を覚えた。
龍君に近付こうとする程、心に傷を負う。元の彼を取り戻したいと頑張るけど、つらく苦しく時々甘い日常を送っていた。
きっと約束を叶えるから。諦めないよ。
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