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一章 本編
66 隣
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結局、透に色々聞きたかった事は聞けるタイミングのないまま修学旅行当日になった。
学校前の道路に並ぶうちの、先生に指示されたバスに乗った。
「えーと? ……あっここだ!」
座席番号を見ながら中央の通路を歩き、自分の席を発見した。バスの前方を向いた時に左側になる、ちょうど真ん中辺りの席で窓側だ。
薄紫色のリュックサックを肩から下ろして、その席に座った。着替え等の入った大きい荷物はバスに乗る前に運転手さんに渡してバスの下に積んでもらっていた。
「由利花ちゃん」
突然、後ろから呼びかけられて振り向いた。背もたれの上から咲月ちゃんが顔を出している。意外と近かった私たちの席。
「今日もよろしくね」
咲月ちゃんにニコッと微笑みかけられ、私も釣られて笑った。
「うん! よろしく」
修学旅行中は、咲月ちゃん、雪絵ちゃん、川北さん、棚村さん、龍君、望君、陽介君、志崎君、沢野君と同じ班だ。これらの班を決める時に先生が「男子五人、女子五人くらいでグループを作って」と言っていたので自然とこのメンバーになった。気心の知れた友達と一緒なのが嬉しい。
バスの後方に志崎君の姿を見つけた。周囲の男子たちと楽しそうに喋っている。
私の視線は気付かれてしまったようで、目が合った。
気まずく思い「へへっ」と笑って前を向き、椅子に座り直した。
私が「龍君が好きなんだ」と自覚して志崎君と別れる事になった経緯(いきさつ)があり、彼を傷付けてしまったと思った。
その後、傍目には明るいいつも通りの志崎君に少しホッとしていた。けど本当のところなんて本人にしか分からないし、それを尋ねる事も私には許されない。
私たちは過去、両想いだったのに……その恋を育てる事はできなかった。
「おはよう」
俯いていた私の頭上で、聞き慣れた声がした。顔を上げると龍君が私の隣の座席へ腰を下ろしたところだった。
「えっ……へ? あ、あれっ?」
確か隣の席は望君じゃなかったかな? 何で龍君が座ってるの?
困惑している私に、悪戯が成功した子供のようにニヤッと笑う龍君。こちらに少し上半身を寄せた彼は、声を潜めた。
「望と替わってもらったんだ」
「そうなんだ……」
え? それって私と隣の席になる為に? ……嬉し過ぎるんですけど。
照れてしまう自分の顔が恥ずかしくて俯いていると、何を思ったのか龍君がとんでもない事を言い出した。
「望の方がよかった?」
急いで龍君の顔を見た。彼は冗談半分といった様子で笑顔だ。
「ううん」
私は首を横に振った。彼がどこにも行かないように、その左腕の上着の布を掴んだ。
「……龍君がいい」
一瞬、龍君の顔から笑みが消えた。彼の上着を掴んでいた私の右手が、龍君の右手に上から包まれるように握られた。身を屈めた彼の顔が、私の顔のすぐ左横へ近付く。
「知ってる」
そう囁かれた。今度は正面から見つめられてどぎまぎしていると、掴まえていた私の右手が彼の右手によって外された。
内心「馴れ馴れしくし過ぎたかな?」とショックを受けていたら、その手が彼の左手と繋がれた。いつぞやにした事のある『恋人繋ぎ』というやつで、しかも腕を組むような感じに密着している。
「どこにも行かないで」と思って彼を捕まえていた筈なのに、逆に捕まってしまった気がする。
龍君は声を抑えて悪戯っぽく笑った。
「ここじゃキスもできないし、これくらいいいでしょ?」
彼の後方、通路の反対側の席に座る雪絵ちゃんのげんなりした視線がこちらに向けられているのに気付いた。
「目にも耳にも毒だわ……」
学校前の道路に並ぶうちの、先生に指示されたバスに乗った。
「えーと? ……あっここだ!」
座席番号を見ながら中央の通路を歩き、自分の席を発見した。バスの前方を向いた時に左側になる、ちょうど真ん中辺りの席で窓側だ。
薄紫色のリュックサックを肩から下ろして、その席に座った。着替え等の入った大きい荷物はバスに乗る前に運転手さんに渡してバスの下に積んでもらっていた。
「由利花ちゃん」
突然、後ろから呼びかけられて振り向いた。背もたれの上から咲月ちゃんが顔を出している。意外と近かった私たちの席。
「今日もよろしくね」
咲月ちゃんにニコッと微笑みかけられ、私も釣られて笑った。
「うん! よろしく」
修学旅行中は、咲月ちゃん、雪絵ちゃん、川北さん、棚村さん、龍君、望君、陽介君、志崎君、沢野君と同じ班だ。これらの班を決める時に先生が「男子五人、女子五人くらいでグループを作って」と言っていたので自然とこのメンバーになった。気心の知れた友達と一緒なのが嬉しい。
バスの後方に志崎君の姿を見つけた。周囲の男子たちと楽しそうに喋っている。
私の視線は気付かれてしまったようで、目が合った。
気まずく思い「へへっ」と笑って前を向き、椅子に座り直した。
私が「龍君が好きなんだ」と自覚して志崎君と別れる事になった経緯(いきさつ)があり、彼を傷付けてしまったと思った。
その後、傍目には明るいいつも通りの志崎君に少しホッとしていた。けど本当のところなんて本人にしか分からないし、それを尋ねる事も私には許されない。
私たちは過去、両想いだったのに……その恋を育てる事はできなかった。
「おはよう」
俯いていた私の頭上で、聞き慣れた声がした。顔を上げると龍君が私の隣の座席へ腰を下ろしたところだった。
「えっ……へ? あ、あれっ?」
確か隣の席は望君じゃなかったかな? 何で龍君が座ってるの?
困惑している私に、悪戯が成功した子供のようにニヤッと笑う龍君。こちらに少し上半身を寄せた彼は、声を潜めた。
「望と替わってもらったんだ」
「そうなんだ……」
え? それって私と隣の席になる為に? ……嬉し過ぎるんですけど。
照れてしまう自分の顔が恥ずかしくて俯いていると、何を思ったのか龍君がとんでもない事を言い出した。
「望の方がよかった?」
急いで龍君の顔を見た。彼は冗談半分といった様子で笑顔だ。
「ううん」
私は首を横に振った。彼がどこにも行かないように、その左腕の上着の布を掴んだ。
「……龍君がいい」
一瞬、龍君の顔から笑みが消えた。彼の上着を掴んでいた私の右手が、龍君の右手に上から包まれるように握られた。身を屈めた彼の顔が、私の顔のすぐ左横へ近付く。
「知ってる」
そう囁かれた。今度は正面から見つめられてどぎまぎしていると、掴まえていた私の右手が彼の右手によって外された。
内心「馴れ馴れしくし過ぎたかな?」とショックを受けていたら、その手が彼の左手と繋がれた。いつぞやにした事のある『恋人繋ぎ』というやつで、しかも腕を組むような感じに密着している。
「どこにも行かないで」と思って彼を捕まえていた筈なのに、逆に捕まってしまった気がする。
龍君は声を抑えて悪戯っぽく笑った。
「ここじゃキスもできないし、これくらいいいでしょ?」
彼の後方、通路の反対側の席に座る雪絵ちゃんのげんなりした視線がこちらに向けられているのに気付いた。
「目にも耳にも毒だわ……」
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