62 / 83
一章 本編
62 それは虫除けの為に
しおりを挟む
「由利ちゃん!」
お昼休みに私たちの教室へ透がやって来た。私の机に手を添えて、ニコニコと笑顔を向けてくる。
この光景も私の中で大分見慣れたものになっていた。
九月。新学期が始まって少し経った頃。
席替えで教室の真ん中辺りの席になった私。すぐ後ろが龍君の席、そしてすぐ前が志崎君の席という少しだけ気まずい席順だった。
透が来た時ちょうど咲月ちゃん、雪絵ちゃんと喋っていたんだけど……私たち三人は顔を見合わせた。椅子に座る私の側に立っていた咲月ちゃんは、私たちから少し離れた窓の側まで移動した。「どうしたのだろう?」と見ていると彼女は振り返ってこちらに手を翳し、カメラを覗くポーズをした。
「すごい絵面だわ!」
……。
何も言えず、取り敢えず苦笑いした。
彼女が言いたい事は分かる。私の周囲に元彼・元夫・今彼が集合しているのだから。
斜め後ろの席に座る雪絵ちゃんは大きな溜め息をついている。
「年齢的にないとは思ってたけど、まさかこんなダークホースだったとはね」
そう言ってしらーっとした視線を透に向けている彼女。
透は笑顔のままとぼけたように首を傾げる仕草をしている。
「何の事? 雪絵お姉ちゃん。余計な事は口に出さない方が得策だよ、お互いに」
二人とも笑顔だけど、睨み合っているように見えるのは私だけだろうか?
「よく教室に来てるのを見かけるけど、笹木さんの弟?」
こちらを向いた志崎君が聞いてくる。
「あ……」
私は言葉に詰まる。何て言ったらいいのかな?
「弟……」
透が志崎君の口にした単語を繰り返している。その口調がやけに静かで、私は不穏な気配を察知してしまう。
「由利ちゃん、このお兄さん誰? あぁ。まさかこのお兄さんが『志崎君』なの? へぇー」
値踏みするように透の目が細まる。志崎君へ不躾な視線が送られているのを見ていた。
「えっ、何? 笹木さん、オレの事この子に何て言ったの?」
「えっ? 何も言ってない……と思うけど……」
私は顎に手を当て考える。私を見ていた透は悪戯を思い付いた子供のように含み笑う。
「隣で寝てた時にたまにぶつぶつ言ってたよ? あ、ボクもお兄さんの事『志崎君』って呼んでいいですか? 因みにボクは由利ちゃんの弟ではありませんので。誤解しないで下さいね?」
透は志崎君に屈託のない笑顔でそう宣言した。
ひと時、教室が静まり嫌な予感が背中を走った。多分噂の中で私の評判は最悪のものとなっただろう。
「あの……透……いえ、透様? 『弟』って言われてお怒りなのは分かりますが、どうか私の世間体の事も考えていただきますよう……変な事を言わないでいただきたくお願い申し上げます?」
下手に出て透を宥めようとした。テンパっておかしな言動になったけど。
それなのに透は止めを刺すかの如く言い放つ。
「え? 本当の事なのに。何で言っちゃダメなの?」
あどけなく首を傾げる小二の中に悪魔のようなあざとさを感じた。
お昼休みに私たちの教室へ透がやって来た。私の机に手を添えて、ニコニコと笑顔を向けてくる。
この光景も私の中で大分見慣れたものになっていた。
九月。新学期が始まって少し経った頃。
席替えで教室の真ん中辺りの席になった私。すぐ後ろが龍君の席、そしてすぐ前が志崎君の席という少しだけ気まずい席順だった。
透が来た時ちょうど咲月ちゃん、雪絵ちゃんと喋っていたんだけど……私たち三人は顔を見合わせた。椅子に座る私の側に立っていた咲月ちゃんは、私たちから少し離れた窓の側まで移動した。「どうしたのだろう?」と見ていると彼女は振り返ってこちらに手を翳し、カメラを覗くポーズをした。
「すごい絵面だわ!」
……。
何も言えず、取り敢えず苦笑いした。
彼女が言いたい事は分かる。私の周囲に元彼・元夫・今彼が集合しているのだから。
斜め後ろの席に座る雪絵ちゃんは大きな溜め息をついている。
「年齢的にないとは思ってたけど、まさかこんなダークホースだったとはね」
そう言ってしらーっとした視線を透に向けている彼女。
透は笑顔のままとぼけたように首を傾げる仕草をしている。
「何の事? 雪絵お姉ちゃん。余計な事は口に出さない方が得策だよ、お互いに」
二人とも笑顔だけど、睨み合っているように見えるのは私だけだろうか?
「よく教室に来てるのを見かけるけど、笹木さんの弟?」
こちらを向いた志崎君が聞いてくる。
「あ……」
私は言葉に詰まる。何て言ったらいいのかな?
「弟……」
透が志崎君の口にした単語を繰り返している。その口調がやけに静かで、私は不穏な気配を察知してしまう。
「由利ちゃん、このお兄さん誰? あぁ。まさかこのお兄さんが『志崎君』なの? へぇー」
値踏みするように透の目が細まる。志崎君へ不躾な視線が送られているのを見ていた。
「えっ、何? 笹木さん、オレの事この子に何て言ったの?」
「えっ? 何も言ってない……と思うけど……」
私は顎に手を当て考える。私を見ていた透は悪戯を思い付いた子供のように含み笑う。
「隣で寝てた時にたまにぶつぶつ言ってたよ? あ、ボクもお兄さんの事『志崎君』って呼んでいいですか? 因みにボクは由利ちゃんの弟ではありませんので。誤解しないで下さいね?」
透は志崎君に屈託のない笑顔でそう宣言した。
ひと時、教室が静まり嫌な予感が背中を走った。多分噂の中で私の評判は最悪のものとなっただろう。
「あの……透……いえ、透様? 『弟』って言われてお怒りなのは分かりますが、どうか私の世間体の事も考えていただきますよう……変な事を言わないでいただきたくお願い申し上げます?」
下手に出て透を宥めようとした。テンパっておかしな言動になったけど。
それなのに透は止めを刺すかの如く言い放つ。
「え? 本当の事なのに。何で言っちゃダメなの?」
あどけなく首を傾げる小二の中に悪魔のようなあざとさを感じた。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~
ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ
以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ
唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活
かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる