やり直しの人生では我が子を抱きしめたい!後悔していた過去を変えていったら片想いしていた人たちと両想いになりそうな気配だけど夫の事が気がかり

猫都299

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一章 本編

62 それは虫除けの為に

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「由利ちゃん!」


 お昼休みに私たちの教室へ透がやって来た。私の机に手を添えて、ニコニコと笑顔を向けてくる。

 この光景も私の中で大分見慣れたものになっていた。



 九月。新学期が始まって少し経った頃。

 席替えで教室の真ん中辺りの席になった私。すぐ後ろが龍君の席、そしてすぐ前が志崎君の席という少しだけ気まずい席順だった。

 透が来た時ちょうど咲月ちゃん、雪絵ちゃんと喋っていたんだけど……私たち三人は顔を見合わせた。椅子に座る私の側に立っていた咲月ちゃんは、私たちから少し離れた窓の側まで移動した。「どうしたのだろう?」と見ていると彼女は振り返ってこちらに手を翳し、カメラを覗くポーズをした。


「すごい絵面だわ!」



 ……。


 何も言えず、取り敢えず苦笑いした。
 彼女が言いたい事は分かる。私の周囲に元彼・元夫・今彼が集合しているのだから。

 斜め後ろの席に座る雪絵ちゃんは大きな溜め息をついている。


「年齢的にないとは思ってたけど、まさかこんなダークホースだったとはね」


 そう言ってしらーっとした視線を透に向けている彼女。
 透は笑顔のままとぼけたように首を傾げる仕草をしている。


「何の事? 雪絵お姉ちゃん。余計な事は口に出さない方が得策だよ、お互いに」


 二人とも笑顔だけど、睨み合っているように見えるのは私だけだろうか?




「よく教室に来てるのを見かけるけど、笹木さんの弟?」

 こちらを向いた志崎君が聞いてくる。

「あ……」

 私は言葉に詰まる。何て言ったらいいのかな?


「弟……」

 透が志崎君の口にした単語を繰り返している。その口調がやけに静かで、私は不穏な気配を察知してしまう。


「由利ちゃん、このお兄さん誰? あぁ。まさかこのお兄さんが『志崎君』なの? へぇー」


 値踏みするように透の目が細まる。志崎君へ不躾な視線が送られているのを見ていた。


「えっ、何? 笹木さん、オレの事この子に何て言ったの?」

「えっ? 何も言ってない……と思うけど……」


 私は顎に手を当て考える。私を見ていた透は悪戯を思い付いた子供のように含み笑う。


「隣で寝てた時にたまにぶつぶつ言ってたよ? あ、ボクもお兄さんの事『志崎君』って呼んでいいですか? 因みにボクは由利ちゃんの弟ではありませんので。誤解しないで下さいね?」


 透は志崎君に屈託のない笑顔でそう宣言した。

 ひと時、教室が静まり嫌な予感が背中を走った。多分噂の中で私の評判は最悪のものとなっただろう。


「あの……透……いえ、透様? 『弟』って言われてお怒りなのは分かりますが、どうか私の世間体の事も考えていただきますよう……変な事を言わないでいただきたくお願い申し上げます?」

 下手に出て透を宥めようとした。テンパっておかしな言動になったけど。
 それなのに透は止めを刺すかの如く言い放つ。

「え? 本当の事なのに。何で言っちゃダメなの?」



 あどけなく首を傾げる小二の中に悪魔のようなあざとさを感じた。

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