上 下
52 / 83
一章 本編

52 ラブレター?

しおりを挟む

 そんな衝撃的だった透との再会を果たした日からずっと……、私は透に付きまとわれている。

 彼は朝から学校の入口に立って私が来るのを待っているし、昼休み等の長めの休み時間にも教室に訪ねて来るし、放課後も私の帰る時間には必ずいてしかも家の側まで付いて来るし。

 さすが前の人生で自らをストーカーと認めただけある。

 一度目の人生で仕事に疲れ果てて家ではほとんど『風呂、食事、睡眠』だけだった彼からは想像もできないバイタリティ溢れる姿。

 透が私の周囲を頻繁にうろうろしている為、龍君と二人で過ごす機会もほぼないまま七月になった。




 帰り道。咲月ちゃん、龍君、透、私でいつもの道を歩いていた。

 透が一緒に帰るようになってから半月は経つので、咲月ちゃんも透もお互いの存在に慣れたようだった。

 右隣を歩いていた透が私を見上げて尋ねてくる。

「そういえば、今日は由利ちゃんの誕生日だよね? お祝いしたいから家に寄ってもいい?」

 ニコッと無邪気な笑顔を向けられて胸がちくっと痛む。

 透の家は沢野君のお家の方向にある。だから当然私たちとは通学路が違った。いつも私の家の側の道で別れた後、途中まで龍君と一緒の道を通ってその先に繋がっている元の通学路に戻り、家へと帰宅しているらしかった。
 つまり彼は、大きく遠回りしているのだ。

 それなのに、私は彼をまだ一回も家へ招いていない。透が家に来たいと言ったのも初めてだった。


「ごめんね、透。今日は用事があって……。今度またの機会にね!」

 笑って誤魔化したけど嘘はついていない。
 毎年誕生日には龍君の家に呼ばれて龍君のお母さんの手作りケーキを頂くという恒例行事があったのだ。二度目の人生から。


「ちぇー」

 透はほっぺたを膨らませて地面に落ちていた小石を蹴る素振りをしたけど、その足は空振りした。

「あれ?」

 本人は何故当たらなかったんだろうと不思議そうに首を傾げていたが一度目の人生同様、運動神経が微妙に鈍いのはそのままのようである。




 細い路地に、階段のある更に細い道が見えてきた。咲月ちゃんとはここでお別れだ。

 面白そうに含み笑いして「じゃあねー」と手を振る咲月ちゃん。
 「また明日!」私も振り返す。


 咲月ちゃんは私が龍君の家に行く予定なのも知っている。毎年の事なので。

 何で彼女が含み笑いしていたのかというと多分、私と龍君が付き合っているからだろう。……付き合ってるよね? 告白して想いが通じ合っているので付き合ってる筈。どちらからも付き合おうとか言ってないけど、きっと付き合ってるに違いない。

 今の人生では龍君と初めて付き合った訳で、今までは幼馴染みだったけどそれとは少し違った誕生日になるかもしれない。つまりは「明日、その話聞かせなさいよ」という含み笑いだったのだと理解している。


 私と龍君の間を歩く透。透は前を向き次なる石を探して下を見ていたので気付いていなかったと思うけど、彼の頭上で私の視線と龍君の視線が重なっていた。

 私は龍君に頷いて見せた。

 分かっている。透に悟られてはいけない。絶対龍君の家まで付いて来るから。

 我ながら自分が薄情な奴だと思う。でもこの人生でも透に深入りしてしまったら私は龍君と一緒にいられなくなる。一度目の人生での情があるから尚更近付いてはいけないと感じている。




 私の家の側の分かれ道。龍君と透に手を振った。


「またね」


 帰ろうとする私のランドセルが引っ張られて、私は足を止めた。


「どうしたの? 透」

「ちょっと待ってて」


 透は自分の肩からランドセルを下ろし、その中を手でゴソゴソ探っている。



「あった!」



 彼は一通の手紙を取り出した。封筒は白くて縁取りが茶色。右下にクマの絵柄が入っていて可愛らしい。
 ランドセルを背負い直した透はそれを両手で差し出してきた。


「これ、一応誕生日プレゼント! 今日の夜、寝る前に読んで」

「あ、ありがとう」


 透からの手紙を受け取る。彼の後ろにいる龍君の目付きから不穏な気配を感じた。私の顔色で察したのか、透が「あー」と苦笑いした。


「鈴谷さんってそんなに余裕ない人だったんですね。安心してください。ラブレターではありませんから」


 龍君の方に振り返った透は明るく茶化すような物言いだったけど、彼が最後に低く呟いた独り言を私の耳は拾ってしまった。


「そんな軽いもんじゃないよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】

猫都299
青春
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。 「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」 秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。 ※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記) ※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記) ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベルに投稿しています。

【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~

テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。 なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった―― 学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ! *この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

犬猿の仲だけど一緒にいるのが当たり前な二人の話

ありきた
青春
犬山歌恋と猿川彩愛は、家族よりも長く同じ時間を過ごしてきた幼なじみ。 顔を合わせれば二言目にはケンカを始め、時には取っ組み合いにまで発展する。 そんな二人だが、絆の強さは比類ない。 ケンカップルの日常を描いた百合コメディです! カクヨム、ノベルアップ+、小説家になろうにも掲載しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

曙光ーキミとまた会えたからー

桜花音
青春
高校生活はきっとキラキラ輝いていると思っていた。 夢に向かって突き進む未来しかみていなかった。 でも夢から覚める瞬間が訪れる。 子供の頃の夢が砕け散った時、私にはその先の光が何もなかった。 見かねたおじいちゃんに誘われて始めた喫茶店のバイト。 穏やかな空間で過ごす、静かな時間。 私はきっとこのままなにもなく、高校生活を終えるんだ。 そう思っていたところに、小学生時代のミニバス仲間である直哉と再会した。 会いたくなかった。今の私を知られたくなかった。 逃げたかったのに直哉はそれを許してくれない。 そうして少しずつ現実を直視する日々により、閉じた世界に光がさしこむ。 弱い自分は大嫌い。だけど、弱い自分だからこそ、気づくこともあるんだ。

昨日屋 本当の過去

なべのすけ
青春
あの時に戻ってやり直したい、そんな過去はありませんか? そんなあなたは昨日屋に行って、過去に戻りましょう。お代はいただきません。ただし対価として今日を払っていただきます。さぁやり直したい過去に帰りましょう。 昨日を売って、今日を支払う。その先に待っているのはバラ色の過去か?それとも……。

悩みの夏は小さな謎とともに

渋川宙
青春
お盆前に親戚の家を訪れた高校二年の蓮井悠人。この機会に普段は東京の大学で大学院生をしている従兄の新井和臣に進路相談をしとうと決意する。  そんな悠人と和臣に、祖母の志津が不思議な話を持ってきた。なんでも町はずれにある廃校舎を勝手に利用している人がいるという話で…

処理中です...