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一章 本編
52 ラブレター?
しおりを挟むそんな衝撃的だった透との再会を果たした日からずっと……、私は透に付きまとわれている。
彼は朝から学校の入口に立って私が来るのを待っているし、昼休み等の長めの休み時間にも教室に訪ねて来るし、放課後も私の帰る時間には必ずいてしかも家の側まで付いて来るし。
さすが前の人生で自らをストーカーと認めただけある。
一度目の人生で仕事に疲れ果てて家ではほとんど『風呂、食事、睡眠』だけだった彼からは想像もできないバイタリティ溢れる姿。
透が私の周囲を頻繁にうろうろしている為、龍君と二人で過ごす機会もほぼないまま七月になった。
帰り道。咲月ちゃん、龍君、透、私でいつもの道を歩いていた。
透が一緒に帰るようになってから半月は経つので、咲月ちゃんも透もお互いの存在に慣れたようだった。
右隣を歩いていた透が私を見上げて尋ねてくる。
「そういえば、今日は由利ちゃんの誕生日だよね? お祝いしたいから家に寄ってもいい?」
ニコッと無邪気な笑顔を向けられて胸がちくっと痛む。
透の家は沢野君のお家の方向にある。だから当然私たちとは通学路が違った。いつも私の家の側の道で別れた後、途中まで龍君と一緒の道を通ってその先に繋がっている元の通学路に戻り、家へと帰宅しているらしかった。
つまり彼は、大きく遠回りしているのだ。
それなのに、私は彼をまだ一回も家へ招いていない。透が家に来たいと言ったのも初めてだった。
「ごめんね、透。今日は用事があって……。今度またの機会にね!」
笑って誤魔化したけど嘘はついていない。
毎年誕生日には龍君の家に呼ばれて龍君のお母さんの手作りケーキを頂くという恒例行事があったのだ。二度目の人生から。
「ちぇー」
透はほっぺたを膨らませて地面に落ちていた小石を蹴る素振りをしたけど、その足は空振りした。
「あれ?」
本人は何故当たらなかったんだろうと不思議そうに首を傾げていたが一度目の人生同様、運動神経が微妙に鈍いのはそのままのようである。
細い路地に、階段のある更に細い道が見えてきた。咲月ちゃんとはここでお別れだ。
面白そうに含み笑いして「じゃあねー」と手を振る咲月ちゃん。
「また明日!」私も振り返す。
咲月ちゃんは私が龍君の家に行く予定なのも知っている。毎年の事なので。
何で彼女が含み笑いしていたのかというと多分、私と龍君が付き合っているからだろう。……付き合ってるよね? 告白して想いが通じ合っているので付き合ってる筈。どちらからも付き合おうとか言ってないけど、きっと付き合ってるに違いない。
今の人生では龍君と初めて付き合った訳で、今までは幼馴染みだったけどそれとは少し違った誕生日になるかもしれない。つまりは「明日、その話聞かせなさいよ」という含み笑いだったのだと理解している。
私と龍君の間を歩く透。透は前を向き次なる石を探して下を見ていたので気付いていなかったと思うけど、彼の頭上で私の視線と龍君の視線が重なっていた。
私は龍君に頷いて見せた。
分かっている。透に悟られてはいけない。絶対龍君の家まで付いて来るから。
我ながら自分が薄情な奴だと思う。でもこの人生でも透に深入りしてしまったら私は龍君と一緒にいられなくなる。一度目の人生での情があるから尚更近付いてはいけないと感じている。
私の家の側の分かれ道。龍君と透に手を振った。
「またね」
帰ろうとする私のランドセルが引っ張られて、私は足を止めた。
「どうしたの? 透」
「ちょっと待ってて」
透は自分の肩からランドセルを下ろし、その中を手でゴソゴソ探っている。
「あった!」
彼は一通の手紙を取り出した。封筒は白くて縁取りが茶色。右下にクマの絵柄が入っていて可愛らしい。
ランドセルを背負い直した透はそれを両手で差し出してきた。
「これ、一応誕生日プレゼント! 今日の夜、寝る前に読んで」
「あ、ありがとう」
透からの手紙を受け取る。彼の後ろにいる龍君の目付きから不穏な気配を感じた。私の顔色で察したのか、透が「あー」と苦笑いした。
「鈴谷さんってそんなに余裕ない人だったんですね。安心してください。ラブレターではありませんから」
龍君の方に振り返った透は明るく茶化すような物言いだったけど、彼が最後に低く呟いた独り言を私の耳は拾ってしまった。
「そんな軽いもんじゃないよ」
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