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一章 本編
23 不安
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教室の手前で志崎君が振り向いたので、私は頷いた。
私たちは手を離して教室へ入った。
中にいたクラスメイトたちに視線を注がれているように思ったけど、今日はそれ程気にならない。
咲月ちゃんと目が合う。
「……おはよ」
「……おはよう」
挨拶を交わすけど、彼女も先週の女子会で大泣きした事を気恥ずかしく感じているのかもしれない。お互い苦笑いした。
黒板の上に掛けてある時計を確認する。まだ遅刻ではない時間で胸を撫で下ろす。
自分の席に着く時、前の席の沢野君と目が合った。椅子に座ったまま上半身をこちらへ向け、目を見開いていた。
「おはよう、沢野君」
そう微笑んで挨拶した。
あれ? そういえば沢野君って……。
先週の川北さんとの内緒話を思い出す。
沢野君は私の顔と、その隣で席に着く為椅子を引いた志崎君の顔を交互に見た。そしてまた私の顔を見て儚げに微笑んだ。
「おはよう、笹木さん」
少し高めの綺麗な声。
挨拶を返してくれた後、すぐ前を向いた彼は机に突っ伏した。
その横の席では川北さんがオロオロした様子で沢野君を見ている。
そんな彼女よりも奥……、前方の席からこちらを見つめる雪絵ちゃんと目が合う。彼女はニコッと笑いかけてきた。
……そうだったあ! こっちの問題もまだ片付いていない!
先週、川北さんから沢野君が私の事を好きなのだと告げられたけど、その話を雪絵ちゃんに聞かれてしまった。
あの時は他の子に言いふらしそうな雪絵ちゃんを止める事ができたんだけど……。
彼女は言った。
『今日は黙っててあげる』と。
『今日は』って事は……それ以降の日に言いふらす可能性を示している。何という危険人物。目が離せないではないか。
ドキドキしながら前に向き直る雪絵ちゃんを見つめる。そしてあっと気が付いて座ったまま後ろを見た。
前を向いていた龍君と瞳が合った。彼は一瞬目を大きくし、その視線を彷徨わせた。
「おはよう、鈴谷君」
……笑いかけたけど、返事はない。どうしたんだろう?
俯いた彼の顔を下から窺おうとした。
「……だ」
「え?」
彼がボソッと何か呟いたので、聞き取れなかった私は気になり聞き返した。
「嫌いだ」
下を向いたままの彼は、そう言って机に突っ伏した。
「……え?」
二度目の人生ではケンカした事のなかった龍君から放たれた思ってもいなかった言葉に、思考が停止する。
彼の後頭部……少しクセ毛のフサフサした黒髪を見つめながら、その衝撃に唇が震え出す。
先生らしき足音が廊下に響いてる。
ぎゅっと苦しくなった胸を押さえて、前に向き直る。
どうしよう。
二度目の人生でも、彼を失ってしまったらどうしよう。
私たちは手を離して教室へ入った。
中にいたクラスメイトたちに視線を注がれているように思ったけど、今日はそれ程気にならない。
咲月ちゃんと目が合う。
「……おはよ」
「……おはよう」
挨拶を交わすけど、彼女も先週の女子会で大泣きした事を気恥ずかしく感じているのかもしれない。お互い苦笑いした。
黒板の上に掛けてある時計を確認する。まだ遅刻ではない時間で胸を撫で下ろす。
自分の席に着く時、前の席の沢野君と目が合った。椅子に座ったまま上半身をこちらへ向け、目を見開いていた。
「おはよう、沢野君」
そう微笑んで挨拶した。
あれ? そういえば沢野君って……。
先週の川北さんとの内緒話を思い出す。
沢野君は私の顔と、その隣で席に着く為椅子を引いた志崎君の顔を交互に見た。そしてまた私の顔を見て儚げに微笑んだ。
「おはよう、笹木さん」
少し高めの綺麗な声。
挨拶を返してくれた後、すぐ前を向いた彼は机に突っ伏した。
その横の席では川北さんがオロオロした様子で沢野君を見ている。
そんな彼女よりも奥……、前方の席からこちらを見つめる雪絵ちゃんと目が合う。彼女はニコッと笑いかけてきた。
……そうだったあ! こっちの問題もまだ片付いていない!
先週、川北さんから沢野君が私の事を好きなのだと告げられたけど、その話を雪絵ちゃんに聞かれてしまった。
あの時は他の子に言いふらしそうな雪絵ちゃんを止める事ができたんだけど……。
彼女は言った。
『今日は黙っててあげる』と。
『今日は』って事は……それ以降の日に言いふらす可能性を示している。何という危険人物。目が離せないではないか。
ドキドキしながら前に向き直る雪絵ちゃんを見つめる。そしてあっと気が付いて座ったまま後ろを見た。
前を向いていた龍君と瞳が合った。彼は一瞬目を大きくし、その視線を彷徨わせた。
「おはよう、鈴谷君」
……笑いかけたけど、返事はない。どうしたんだろう?
俯いた彼の顔を下から窺おうとした。
「……だ」
「え?」
彼がボソッと何か呟いたので、聞き取れなかった私は気になり聞き返した。
「嫌いだ」
下を向いたままの彼は、そう言って机に突っ伏した。
「……え?」
二度目の人生ではケンカした事のなかった龍君から放たれた思ってもいなかった言葉に、思考が停止する。
彼の後頭部……少しクセ毛のフサフサした黒髪を見つめながら、その衝撃に唇が震え出す。
先生らしき足音が廊下に響いてる。
ぎゅっと苦しくなった胸を押さえて、前に向き直る。
どうしよう。
二度目の人生でも、彼を失ってしまったらどうしよう。
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