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一章 本編

3 決意と誤算

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 朝目覚めてからすぐ部屋を確認するの、癖になってる……。


 布団から上半身を起こし、未だに信じられない気持ちで狭い和室を見回す。

 本間だからそんなに狭くはない筈なのにタンスが三つと鏡台が置かれているので……しかも空いたスペースに布団を敷いて家族三人川の字で寝ているのでどうしても狭く感じる。未来ではもっと広い家に住んでいるから尚更比べてしまい窮屈だ。
 小さい頃はそこまで狭いとは感じなかったけど成長するにつれて自分の部屋を持っている友達を羨ましく思ったりもした。

 因みにこの家の間取りは六畳和室、四畳半和室、四畳半DK、風呂、トイレ、玄関。



 やっぱり。状況は変わっていない。
 私は過去へ一人タイムスリップしてしまったようだ。

 そんな事ってある? いや、ない。ありえない。

 そのような思考に至っても私の体は幼稚園児のままで、何日も本来の時間に戻れていない。今のところ私の中ではタイムスリップ説が有力なんだけど……。


「何でこうなった?」

 自分の声が高めで発音が心許ないのは、この年齢の体の仕様なのかもしれない。
 慣れない声色の事は今は置いておくとして、この現状に陥った原因を思い出したい。そこに解決の糸口を見出だせるかも……!

 右手を額に当て考えを巡らすが、これといって答えは出ない。最初にここで目覚める前、トラックにぶつかる夢を見たと思ったけど何か関係あるのだろうか?

 まさかここは死後の世界、なんて……。

 背筋が寒くなってブンブン首を振る。


 ダメダメ! そんなの絶対認めない!
 私、まだやりたい事たくさんあるんだから叶えないまま死んだりできない!


 はた、と気付く。


 待って……待てよ?


 時間が巻き戻って私だけ記憶があるのか、はたまた私の意識だけこの時代に戻って来たのか分からない。だけど、私は再び私の人生を繰り返している……。
 という事は、もしかしてこれから起こる事も予測できるし、今まで失敗した事ももう一度やり直したら成功するかもしれない? ずっと後悔していたあの事や、心に仕舞っていたあの事も……やり直せるの?

 そしてもしかしたら……。



「子供……」



 そうだ。早く結婚すれば子供を授かる可能性が高まるかもしれない。もう、ほとんど諦めていたけど。

 やり直してまた私を生きれるのなら今度こそ、きっと……!

 右手をこぶしに握ってそれを見つめている時、母がもぞもぞ起き出した。


「由利花、早起きね」

「お母さん、私きっと今度は大丈夫だから……」

「え?」


 母は手探りで眼鏡を探し当て、それを掛けて私を見た。



「何が大丈夫って言ったの?」



 母の質問には答えずに、私はニヤッと含んだ笑顔を向ける。


「もうすぐ七時だけど、大丈夫かな?」


 すっとぼけて話題をすり替えてみたら案の定、母は目を剥き父を叩き起こした。

「お父さん! 遅刻遅刻!」




 慌ただしく一日が始まる。


 三十七歳の私を心配してくれていた父や母も安心させてあげたかった。叶うなら孫の顔を見せるくらいの親孝行はしたい。



「よっし!」

 私は両手をこぶしに固めて決意した。できるだけ早く結婚して、子供を産む。それが今から、私のこの……やり直しの人生の大きな目標だ。

 その為にはまず……。まず……。あれ?
 夫に会いに行かなきゃって思ってたんだけど私……今、五歳らしいのよね。


 昨日台所の椅子に座ってチラシを見ていた母に「あれ? ど忘れしたー。私は今何歳だったっけ?」と両の人差し指を頬に当て、首を傾げて幼稚園児っぽく(?)尋ねてみたのだ。すると母は笑って「何歳だっけ? 自分で数えてごらん?」とテーブルの上に壁から取って来たカレンダーを置いた。

「由利花が生まれたのは1984年だから……今は1990年だね? お母さんと1985年の5から数えようか」

 一緒に指を折って数える。

 私自身この不可思議なやり直しの日々に混乱している状況なので、母であったら娘からそんな事情を告白された日にはパニクると思う。当分黙っている事にして幼稚園児のフリをする。

「5、6、7、8、9、10……。分かった! 六歳!」

「ブー! ハズレです」

「えー」

 何でハズレなのか分かったけど、それは言わないで母が教えてくれるのを待つ。


「今月は六月だから来月の六歳の誕生日、まだ来てないでしょ」




 そして導き出される結論。
 夫は確か1988年生まれ。現在の時間で彼は二歳くらいの筈なので、幼稚園児にも到達していない。



 …………道程は長いぞ。
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