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59 フィリップの覚醒
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「俺に触れるな化け物!」
レイモンドは飛びかかる吸血鬼の顔面に強力な蹴りをヒットさせた。
吸血鬼の顔が変形する、が、その目には不気味な笑みを浮かべたままだ。
「余裕こいてんじゃないわよ!」
私は鎌を振り下ろした。
吸血鬼は片手でそれを受けると、あろう事か私ごと鎌を投げ飛ばした。
柱に叩きつけられた私はショックで呼吸困難におちいった。
(なんて事だ、コイツ、思ったより強い…)
吸血鬼はレイモンドの首を締め上げる。意識を失わせてから血を吸うつもりだろう。
(レイモンド…なんかゴメン)私は取りあえず心の中で謝っておいた。
「うわあああああ…レイモンドを離せえええええ!」
(え、フィリップ?)いつの間にか祭壇から聖剣を抜き取ったフィリップが、その剣をブンブンと振り回しながら吸血鬼に向かっていった。
聖剣と言ってもアトラクション用のオモチャだ、この謎に強い吸血鬼に通用するとは思えない。
「フィリップやめとき、ケガするわよ!」
吸血鬼はドサリとレイモンドを地面に下すと、フィリップに向き直った。
『男の血はいらん…引き裂いてやる…』
吸血鬼が余裕の笑みを見せた次の瞬間、私は信じがたい光景を目にする。
片腕を失った吸血鬼と、聖剣を構えるフィリップ、その前にポトリと落ちる吸血鬼の腕…目にも止まらぬ早業だった。
「レイモンド、大丈夫?」
「フィリップ様…」
レイモンドはキツネにつままれたような顔でフィリップを見ていた。
吸血鬼はフィリップの背後の空間を睨んだ。
『お前…悪魔だろ…なぜ俺様の邪魔をする…』
『ヘッヘッヘ、血を吸う誘惑に負けて、役目を忘れた段階でお前は終わってんだよ』
ゾディアックは人間に聞こえない声で答えた。
『なぜだ…オメガデビル様は、こいつらを葬ればここの呪縛から解放してくれると…』
吸血鬼も人間に聞き取れない声で応じた。
『ヘッヘッヘ、とっとと殺しちまえばいいものを、お前が余計な時間をかけている間に、フィリップに妙な正義感が芽生えちまった。
オメガデビル様の狙いは、保護者のようなパテックとレイモンドを排除する事でフィリップの成長を阻害する事だったが、こうなったらもう、二人を殺してもフィリップの闘争心を煽るだけで逆効果なんだよ』
『だから俺様を殺すというのか…同じ魔族の仲間を…』
『ヘッ、もうじきここに特級天使が来る。陰謀の痕跡は消去しないとな』
『この裏切者が…』
『裏切者…ヘッヘッヘ、人間に飼われて考え方まで人間くさくなったか?目的の為なら仲間も犠牲にする、それが魔界の掟だ…』「…フィリップ、斬れ!」
フィリップはゾディアックに操られるように聖剣を薙いだ。
『覚えていろ…悪魔め…』
呪いの言葉を残して吸血鬼は霧散した。
「痛ててて…」
私は柱に打ち付けた背中をさすりながらフィリップに近づいた。
「やればできんじゃん!」
からかうように肩を小突くと、フィリップはヘナヘナとその場に座り込んだ。
「わーん、怖かったよー」
堰を切ったように泣き出すフィリップ。
「ありがとうございます、フィリップ様…」
レイモンドはフィリップを抱きしめた。
今回の事で二人の距離は確実に縮まっていた、これは結果オーライと言えるだろう。
『ゾディアック、何だかんだ言って私たちを助けてくれたわね…』
私は心の中でゾディアックに話しかけてみた。
『ヘッヘッヘ、なんの事だ、俺は何もしてないぜ』
ゾディアックの声が心に直接聞こえてくる。
『心の声が聞こえるの?』
『まあ、長い付き合いだからな』
『あんた、オモチャの聖剣を魔法で強化したでしょ?』
『ヘッ、フィリップが吸血鬼と戦うなんて言い出すから仕方なくな。俺は危険な事はやめとけって言ったんだが』
『まあ、理由はどうであれ、一応ありがとうって言っておくわ』
ゾディアックは照れているのか何も答えなかった。いや、悪魔が照れるわけないか…
レイモンドは飛びかかる吸血鬼の顔面に強力な蹴りをヒットさせた。
吸血鬼の顔が変形する、が、その目には不気味な笑みを浮かべたままだ。
「余裕こいてんじゃないわよ!」
私は鎌を振り下ろした。
吸血鬼は片手でそれを受けると、あろう事か私ごと鎌を投げ飛ばした。
柱に叩きつけられた私はショックで呼吸困難におちいった。
(なんて事だ、コイツ、思ったより強い…)
吸血鬼はレイモンドの首を締め上げる。意識を失わせてから血を吸うつもりだろう。
(レイモンド…なんかゴメン)私は取りあえず心の中で謝っておいた。
「うわあああああ…レイモンドを離せえええええ!」
(え、フィリップ?)いつの間にか祭壇から聖剣を抜き取ったフィリップが、その剣をブンブンと振り回しながら吸血鬼に向かっていった。
聖剣と言ってもアトラクション用のオモチャだ、この謎に強い吸血鬼に通用するとは思えない。
「フィリップやめとき、ケガするわよ!」
吸血鬼はドサリとレイモンドを地面に下すと、フィリップに向き直った。
『男の血はいらん…引き裂いてやる…』
吸血鬼が余裕の笑みを見せた次の瞬間、私は信じがたい光景を目にする。
片腕を失った吸血鬼と、聖剣を構えるフィリップ、その前にポトリと落ちる吸血鬼の腕…目にも止まらぬ早業だった。
「レイモンド、大丈夫?」
「フィリップ様…」
レイモンドはキツネにつままれたような顔でフィリップを見ていた。
吸血鬼はフィリップの背後の空間を睨んだ。
『お前…悪魔だろ…なぜ俺様の邪魔をする…』
『ヘッヘッヘ、血を吸う誘惑に負けて、役目を忘れた段階でお前は終わってんだよ』
ゾディアックは人間に聞こえない声で答えた。
『なぜだ…オメガデビル様は、こいつらを葬ればここの呪縛から解放してくれると…』
吸血鬼も人間に聞き取れない声で応じた。
『ヘッヘッヘ、とっとと殺しちまえばいいものを、お前が余計な時間をかけている間に、フィリップに妙な正義感が芽生えちまった。
オメガデビル様の狙いは、保護者のようなパテックとレイモンドを排除する事でフィリップの成長を阻害する事だったが、こうなったらもう、二人を殺してもフィリップの闘争心を煽るだけで逆効果なんだよ』
『だから俺様を殺すというのか…同じ魔族の仲間を…』
『ヘッ、もうじきここに特級天使が来る。陰謀の痕跡は消去しないとな』
『この裏切者が…』
『裏切者…ヘッヘッヘ、人間に飼われて考え方まで人間くさくなったか?目的の為なら仲間も犠牲にする、それが魔界の掟だ…』「…フィリップ、斬れ!」
フィリップはゾディアックに操られるように聖剣を薙いだ。
『覚えていろ…悪魔め…』
呪いの言葉を残して吸血鬼は霧散した。
「痛ててて…」
私は柱に打ち付けた背中をさすりながらフィリップに近づいた。
「やればできんじゃん!」
からかうように肩を小突くと、フィリップはヘナヘナとその場に座り込んだ。
「わーん、怖かったよー」
堰を切ったように泣き出すフィリップ。
「ありがとうございます、フィリップ様…」
レイモンドはフィリップを抱きしめた。
今回の事で二人の距離は確実に縮まっていた、これは結果オーライと言えるだろう。
『ゾディアック、何だかんだ言って私たちを助けてくれたわね…』
私は心の中でゾディアックに話しかけてみた。
『ヘッヘッヘ、なんの事だ、俺は何もしてないぜ』
ゾディアックの声が心に直接聞こえてくる。
『心の声が聞こえるの?』
『まあ、長い付き合いだからな』
『あんた、オモチャの聖剣を魔法で強化したでしょ?』
『ヘッ、フィリップが吸血鬼と戦うなんて言い出すから仕方なくな。俺は危険な事はやめとけって言ったんだが』
『まあ、理由はどうであれ、一応ありがとうって言っておくわ』
ゾディアックは照れているのか何も答えなかった。いや、悪魔が照れるわけないか…
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