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44 魔王の呪いと魔王を倒す運命の子供

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玉座の間を出ると、エベルが待っていた。

「フィリップを連れ出す許可は得られましたか?」

「王様の性格は熟知してるからね、チョロいもんよ」

私は胸を張った。

「考えがあると言っていましたが、どうやってフィリップを成長させるつもりですか?」

「あー…あれは言ってみただけ、王家の紋章さえ手に入れば何とかなるっしょ」

「そ、それは詐欺ではないですか…」

「人聞き悪いわね、言葉のあやってやつよ、多分……そっちこそどうなの、フィリップの子供が生まれるって福音は実現できそうなの?」

「方法はあります。私の生まれたル・サンティエ女子修道院には、聖母と呼ばれる男性との関係なしに子を宿した女性がいます」

「それで?」

「世間一般には神の子を宿したとされていますが、実際は違います。大体にして神は人間とそういった関係を持つ事はできませんし」

「それは普通にヤッちゃったて事じゃないの?」

「聖母はずっと修道院にいましたし、修道院は男子禁制です」

「もったいぶってないで教えなさいよ」

「ある人のパーソナリティを決定しているのは、その人の中に組み込まれている設計図の働きです。
そして、男性の設計図と女性の設計図をかけ合わせて新しい設計図を作る事、それが子供を作る事なわけです」

「急に話がややこしくなったけど…」

「要するに、男性から何らかの形で設計図さえコピーしてしまえば、その男性本人とは関係なく子供を作る事ができるという理屈です」

「ル・サンティエにはその技術があるって事?」

「成功率が低い事と、倫理的な問題もあって公にはされていませんが、技術的には可能です」

「ちょっと待って、この方法だとフィリップの呪いはどうなるの?」

「誰かと愛し合ったわけではないので呪いが解ける事はありません。
前にも言ったように優先事項は魔王を倒すフィリップの子供が生まれる事であって、魔王の呪いを解く解かないは全く別の問題なのです」

「なんだ、期待して損したわ…まあいいや、やっぱりフィリップにはレイモンドと本懐を遂げてもらうのが一番よね」

「パテックさんは、なぜそこまでしてフィリップを助けようとしているんですか?」

「そうねえ…犬も三日飼えば情が移るって言うじゃない?八年も一緒にいれば、さすがに情も移ろうってもんよ」

「でもそれは改変前の記憶です、あなたも私も、いずれは忘れてしまいますよ」

「いずれは忘れるにしても、私は今の思いで行動する、それだけよ」

「…不思議です、パテックさんが言うと何とかなってしまいそうな気がします」

呆れたような、それでいて感心したような口調でエベルは言った。

「ちなみに、聖母から生まれた子供はその後どうなったの?」

「どうなったも何も、私がその子供です」

エベルは表情を変えずに答えた。
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