上 下
17 / 28

第17話

しおりを挟む
ロボットモーターショーTV関係者控え室
新谷ろんりは渋るマネージャーを強引に説き伏せ、今日もトークショーに出演する予定だった。
「なんか胸がぞわぞわする‥あの日と同じ感覚、始まったんだ‥何かは分からないけど、は確かにいる」

    * * *

ロボットモーターショー屋外展示場
冬馬とうま佐伯さえきが話している。
「アメリカからドライバーを呼ぶとか、黒崎の冬馬嫌いも相当なもんね」
佐伯はあきれた様に言った。
「シミュレーションの為には直哉にスキルが近い方がいいんだろ」
冬馬はぶっきら棒に答えた。
「まあ、そういう意味では好都合だったんだけどね」
「ところで、例の準備はして貰えたか?」
一段トーンを落とした声で冬馬が言った。
「したけど、これってどんな意味があるのよ?」
佐伯も声をひそめて答えた。
「ドライバーの勘って言うか‥念の為さ」
「何それ、説明になって無いんだけど‥」

    * * *

イベントホール『ドリーメッセ』 駐車場 TV中継車
章生のもとに氷室から連絡が入る、
『そろそろディープスペース内ではデモンストレーションバトルが始まるよ』
「現実世界のデモンストレーションバトルも予定通り10分後に始まるそうです。
‥あの、事故は本当に起こるんでしょうか?」
『シミュレーションの話をしてるなら、99パーセントの確率で起こるはずさ。
現実の話なら僕の知ったこっちゃないけど、犯人が態度をあらためるか、小久保直哉が犯人だったら起こんないんじゃない、どっちにしろあとは調査官がどうするか次第しだいだと思うよ』
「もちろん現実の事故は防ぎます、に」

    * * *

ディープスペース内でデモンストレーションバトルが始まる。
「さあ始まりました!どちらが勝つんでしょうか、楽しみですね」
女性リポーターの当たり障りのない言葉に対し、ろんりはロボットオタクらしい答えを返す、
「パワーならPD-105、速さなら軽量なTEIMOティーモ、接戦になるんじゃないでしょうか」

    * * *

城杜しろもり大学ロボット研究室
「これって‥」
「ああ、絶対変だよな‥」
ディープスペースでPD-105のシミュレーションをしていた学生達がひそひそと話をしている。
「そこ!何かあったなら、とっとと報告したまえ」
川田教授がイライラした声で問い詰めた。
「PD-105の動きが変なんです」
「どう変なんだ?」
「動きが速すぎるんです。おい‥嘘だろ‥」
律華が学生のPCをのぞき込む。
「‥何これ‥想定速度の‥3倍?」

    * * *

章生は十数台のモニターでシミュレーションと現実、二つのモーターショーをチェックしていた。
『誰か105のパラメータを書き換えたかね?』
モニター越しの川田教授が呼びかける。
『ンな事する訳無いっしょ。PD管理サーバーからダウンロードされた動作パターンのせいじゃない?』
氷室が答える。
「どうかしましたか?」
章生が訊く。
『動きが想定とまるで違う、パラメータかOSが変わったとしか思えん』
『ふーん‥面白いね、調べるからちょっと待ってて』
「やっぱりOSに裏モードが存在した‥」
章生は誰に向けるともなくつぶやいた。

『えーと、分かった事だけ言うよ。105はPD管理サーバーじゃなくて、シミュレーション内のどっかにあるPCを中継して外部のコンピュータと通信してるんだ』
氷室の言葉に章生が疑問を投げる、
「それは事故当日も同じ外部コンピュータにアクセスしていたという事ですか?」
『そだね、つまりそのPCの持ち主が犯人、って言うか外部コンピュータを使って105に何かしたって事になるね。‥調査官、出番が来たんじゃない?』
「はい、ディープスペースにダイブして通信元を調べてきます」
章生はVRゴーグルを装着しながら言った。
『くれぐれもシミュレーションへの干渉は慎重にね』
「了解しています」

    * * *

ディープスペース内のロボットモーターショー会場
物陰ものかげに現れる章生あきお
「これがシミュレーション?現実としか思えないな‥」
『はじめてのダイブで感動しているのは分かるけど、急いだ方がいい、時間は限られてるよ』
イヤホンから氷室の声がする。
「そうでした」

デモンストレーションバトル中の特設ステージに来る章生。PD-105は素早い動きでTEIMOを翻弄ほんろうしていた。
バックヤードでは佐伯さえきがモニターを見ながら指示を出している。

「氷室さん、問題のPCはどこですか?」
章生はイヤホンのマイクに話しかけた。
『待って、今、WiFiワイファイのIPアドレスを追っかけてるから‥分かった、電波の出所でどころは関係者控室3だよ』
「分かりました、すぐに向かいます」

「やりすぎよ、直チン!」
佐伯の声が響いた。ステージではPD-105が TEIMO の腕を引き千切ちぎろうとしているところだった。
「始まったか!」
章生は関係者控室3に向かって走り出した。

関係者控室3の前に来た章生、ドア横のプレートには『ハヤセモーターススタッフルーム』と書かれていた。
(やっぱり‥だったらこの部屋にいるはずなのは‥)
章生はドアを開けようとする、が、ドアにはロックが掛かっていた。
「くそっ鍵が‥」
『しょうがないなあ、サービスですよ』
イヤホンから氷室の声がすると、カチャっと音がしてロックが解除された。

ドアを開けて部屋に飛び込む章生。しかし、そこにいた意外な人物を見て章生の足は止まった。
「君は‥蓼丸たでまる綾可あやかさん?どうして君がここに‥」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

聖女戦士ピュアレディー

ピュア
大衆娯楽
近未来の日本! 汚染物質が突然変異でモンスター化し、人類に襲いかかる事件が多発していた。 そんな敵に立ち向かう為に開発されたピュアスーツ(スリングショット水着とほぼ同じ)を身にまとい、聖水(オシッコ)で戦う美女達がいた! その名を聖女戦士 ピュアレディー‼︎

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...