妖精が奏でる恋のアリア

花野拓海

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序章

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「いや、ちょっと待て」

 リンがギルドに所属して解決。とは、ならなかった。

「どうしたんだい?」

 リンの突然の静止にクロムも動きを止めてしまう。いや、これはわざとだ。リンがなぜ静止したのかを理解して、クロムは質問してきている。

「歩くプライバシーの侵害とまで自虐したあんたならわかってるはずだ。なぜ」

「なぜ、君に裁きを与えないか、かい?」

「………そうだ」

 リンは、罪に問われるべきだと思っている。
 衛兵に話しても信じられないであろう荒唐無稽な話。だが、もし信じてくれる人物が現れたのならば、そいつに裁いてもらいたいと、そう思っていた。

「俺は、咎人だ………」

 リンは、吐き捨てるように言う。

「そうかな?僕は、そうは思えないな」

 だが、クロムはそれを真正面から否定した。

「何故だ!?他人の人生を奪った俺は!殺人鬼となにも変わらな」

「変わるよ。少なくとも、僕はそう思う」

「!?なんで………」

 クロムは断言した。リンは自分を殺人鬼となんら変わらないと、自分のことを咎人だと言ったのに、クロムはそれを否定する。

「言ってしまえば、君が知っているリン・メイルトは、物語の序盤だけの、形だけの主人公だ。もしかしたら、君が抱いている人物像とは全く違う可能性もある」

「ッ!そんなものは」

「ああ、関係ない。だが、僕や君と関わった人達が本来のリン・メイルトを知らないのも、また事実だ」

「!?」

 そうなのだ。リンは、裁いて欲しいと願っていた。だが、

「君は、裁かれる必要なんて、ないんだ………」

 だが、リンはそれでも納得しない。

「でも、俺は………」

 たとえ周りが本来のリン・メイルトを知らなくても、■■がリンの肉体を、本来歩むはずだった人生を、奪ってしまったのも事実だから。

「なら、君を裁くのは僕の仕事じゃ、ない」

「………じゃあ、一体誰が………」

 この世界で、正しくリンを裁けるのは、真実を理解できるものだけ。なのに、クロムが裁けないなら他に誰が………

「そもそも、君を裁く必要がないんだけどね。そうだなぁ………敢えて言うなら、君を裁けるのは、あくまでも君だけだ」

「俺、だけ………?」

「そうだ。君はまだ若い。そんな人生を、贖罪のためだけに生きるのは勿体ないじゃないか。それに、結局君の問題なんだ。君が許せるかどうか、じゃないかな」

「そんなもの………」

 自分が許せるかどうか。きっと、リンの体を乗っ取ったのは偶然の産物なんだろう。でも、それでも。

「俺はまだ、自分を許せそうにないな………」

「なら、これから探していけばいい。幸いにも、うちのギルドには人が多いからね。君の悩みの種の相談くらいは、乗ってくれるだろう」

 クロムはリンの肩に手を置いて言った。

「それに、グチグチ悩んでる時間が勿体ないとは思わないかい?」

「………そうか。………そうだな」

 それも、そうだ。それに、その言葉は■■がかつて親友にも言ったことがある言葉だったからだ。

「さあ、行こうか。君の物語は、まだ序章でしかないだろ?」

「ああ………」

 リンはまだ、自分を許せない。だけど、少しだけ前向きに生きてみるのもいいかもしれないと、そう感じたのだった。

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物語的に、ここまでが序章
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