上 下
63 / 120
海の都 ラグーノニア

我がパーティの頭は真っ黒です

しおりを挟む

<タイトルの”頭”は――あたま、かしら、ヘッド――お好きな読み方でどうぞ!>


 朝だ――
 寝起きでぼんやりしたままうつぶせになり、枕に顔をうずめる。思い返すは昨日の夜のこと。あれは……反則やってお兄さん。

(手とか……大きかったし、耳元、耳元ぉぉぉぉぉ!! )

 唸りながら足をバタつかせる。また耳まで赤くなっているのが熱を持った感覚でわかる。
 結局目当てのお酒は一滴も飲めなかったのに、アルに酔っぱらってしまった。不覚だ。

(アルが起きないうちに、さっさと準備して部屋を出よう。)

 ふーっと大きく息を吐いて自分を落ち着かせる。アルはお寝坊さんだからまだ寝ているはずだ。チラッと隣のベッドに視線を向けた。

「――っ!?!? 」

 肘をついて横向きになり、こちらをじっと見つめる鋭く熱い眼差し。え!? いつから見られていたんだろう。

「お前は、朝から面白いんだな。」

 愉快そうにニヤってアルが笑う。気怠げな寝起きの様子とその微笑みのダブルパンチで朝から凄まじい破壊力だ。どうした!? まだアルコール抜けてないのか!!

「――ぅっ!?! お、俺顔洗ってくる!! 」

 あれはアカン!! ミコトはすぐさま逃げ出した。

「おう、おはようミコト~。」

「おはよっ!! 」

 リビングでパンをかじっていたニッキーに適当な挨拶を交わして洗面所へと逃げ込む。

(ううっ……心臓が痛いよ……)

 昨日のことをなかったフリをして――うまく男の子としてふるまっていかなきゃ。女神はなんでこんなミッションを課したんだろう。せめて理由がわかればいいのに。

(オカマのおバカ~!!!! )

 心の中で罵るくらいは勘弁してくれ。こっちだって非常事態だ。


 ***

「なんだ~あれ。ミコトどうしたんだ。」

 顔を真っ赤にして猛ダッシュで逃げていきやがった。腹でも壊したのか?

「……大方アルが何かしたんじゃないのかい? 」

 不思議そうにミコトが消え去った方向を見ていたニッキーにジークが返事をする。

「あぁ~昨日のあれか……お前相変わらずえげつない作戦考えるよな。」

 涼しい顔して紅茶を飲むジークをジト目で見る。フフフッとジークが照れたように笑う。いや、褒めてねぇし!! 

 そのときガチャリとドアが開いてアルが出てきた。

「おはよ~アル。ミコトのあの感じだとうまくいったの? 」

「……いや、まだだ。逃げられた。」

「ふ~ん、そう。出来るだけ早くしてくれよ。」

「――っ。わかってるよ。」

 困ったようにガシガシとアルは頭を掻いた。赤獅子の旦那――ご愁傷さまです!!
 そしてミコトにも陰ながらエールを送り、優秀な影は朝食の続きに戻った。2日後の祭典に向けてやることは山積みだ。

 ***


「みんなそろったところで――今回の至宝について話してもいいかな? 」

 どうせ昨日も遅くまで起きて研究をしていたのだろう。中々起きてこないユキちゃんを叩き起こして全員が集まったところでジークが話し出す。

「来週から海絆祭ラウトアンカーが行われることはみんな知ってるよね――? 」

 昨日アルが言っていたお祭りだ。ミコトは頷く。

「古来からの守護神への感謝の気持ちを込めた豊穣祈願・無病息災を願う祭り……巫女と戦士がお礼を献上しに海底都市へと向かう……昔はね、海底都市を模した小島に船で向かい、そこに供物を捧げるだけだったんだよ。」

(あれ? でも確か昨日のアルの説明では海底都市に巫女と戦士は行くって……)

「それがいつのころからか、海底都市の神殿内に捧げるようになった。めちゃくちゃきな臭いだろう? 」

(それはそれは、これまでのパターン通りで――至宝臭がプンプンするじゃないか!!)

「そこで海底都市に向かう方法を領主に聞きに行ったんだけど、神聖な海底都市にそんなたやすく踏み込めると思うなって怒られて……ちょっとくらいいいのにね。頭でっかちで困っちゃうよ。」

(私たちが勝手に踏み込んでいって神の怒りを買ったらラグーノニア大変だもんね~、それは慎重になりますわ……あれ? でもそうしたらどうすれば……)

「海底都市へ行く資格があるのは、闘技大会で優勝した戦士と選ばれた巫女のみ……」

 ジークが今世紀最大の黒い笑みを浮かべた。

「というわけで、俺らで祭りを乗っ取ろうと思います!! 」

「えぇーっ!! 」

 なんですと!? 由緒正しき儀式の乗っ取り!? 何てこと思いつくんだこの腹黒王子!? 

「供物を持った巫女2人と、戦士3人……ちょうど5人で俺らパーティと一緒じゃん? この機会逃すと大変だな~と思って。というわけで、俺、アル、ニッキーは2日後の闘技大会で優勝するのが大前提です!! 」

 アルとニッキーが遠い目をして明後日の方を見る。国中からの強者どもが集まる大会で優勝――なんてこと考えるんだこの腹黒王子!?

(ダンジョンでもどうにかなったし……この3人なら大丈夫か? あれ? でもそうなると……残された私たちは……まさか!? )

「ミコトとユキちゃんは、華麗でキュートな巫女ちゃんになってもらいます! あ、心配しないで。そっちは買収済みだから特にやることないよ。」

「えぇ~~~っ!?」

 そんな綺麗な笑顔で微笑まれても困ります!! 買収!? 何をしてきた!? そして男装して、女装!? アルの前で!? アカン……気が遠くなってきた。

「僕、嫌だよ。女装なんてしたくない!! 」

「お、俺もだ!! 」

 ユキちゃんの反論に乗っかる。無理だ、この気持ち抱えたまま女の子になんて戻れない!! 

「戦士枠でもいいけど……今回の闘技って魔法禁止よ? 純粋な武力での勝負よ? ユキちゃん出来るの? まぁ俺は別に構わないけどさ~海底都市でのすっごぉい魔導具、ユキちゃんが見れなくなったとしても……」

「ぐぅ――っ!! 」

「どうする……? 」

 またニヤリと黒い笑みでジークがユキちゃんに微笑みかける。あぁ、この流れは駄目だ。

「わかったよ。やればいいんだろ、やれば!! 」

「違うでしょ。“わかりました。やりますわ、私頑張りますわ”でしょ? 」

「……私、頑張りますわ。」

「ん、よろしい。」

 ニコッてジークが笑う。だからさっきから黒すぎるんだよ!! そしてユキちゃん弱すぎ!!

「ミコトは拒否権なし。もちろんやるよね? 」

「……っ……はい。」

 駄目だ、あの笑顔に勝てる自信がない。途方に暮れて天井を仰ぎ見る。どうなっちゃうんだろう、これから。

「女装のやり方や、振る舞いはニッキーに聞いて。趣味だから。」

「んな――っ!? ちげぇよ!! 適当なこと言ってんじゃねぇよてめぇ!! 経験はあるが……任務だ任務。仕方なくだっ!! 」

 ニッキー、きっと今までこうやってジークに振り回されてきたのだろう。ご愁傷さまです。

「ミコトとユキちゃんは、女の子のお勉強、ニッキーは指導役しながらアルから特訓つけてもらって。俺にもよろしくねアル。それから……アルは海底都市に行くために水の特訓もがんばろっか! 」

 アルがテーブルに突っ伏す――ご愁傷さまです。

 げんなりしながら各々、それぞれの目的のために動き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

異世界に転生したら溺愛ロマンスが待っていました! 黒髪&黒目というだけで? 皇太子も騎士もみんなこの世界「好き」のハードル低すぎません?

国府知里
恋愛
 歩道橋から落ちてイケメンだらけ異世界へ!  黒髪、黒目というだけで神聖視され、なにもしていないのに愛される、謎の溺愛まみれ! ちょっと待って「好き」のハードル低すぎませんか!?   無自覚主人公×溺愛王子のハピエン異世界ラブロマンス!  本作品はアプリのほうがスムーズに読めるのでお勧めです。便利な「しおり」機能をご利用いただくとより読みやすいです。さらに本作を「お気に入り」登録して頂くと、最新更新のお知らせが届きますので、こちらもご活用ください。

愛想がないと王子に罵られた大聖女は、婚約破棄、国外追放される。 ~何もしていないと思われていた大聖女の私がいなくなったことで、国は崩壊寸前~

木嶋隆太
恋愛
大聖女として国を護っていた私。大聖女の力を維持するには、異性と「そういう関係」になってはいけない。だが何度説明しても王子は、私と「そういう関係」になろうとしてくる。国を護るために拒否し続けた私は、王子の怒りをかって婚約破棄、国外追放されてしまう。いくらでも触らせてくれる妹のほうがいいんだそうだ。私から王子を奪い取った妹は勝ち誇ってるけど……でも、妹は大聖女としての才能があんまりないみたいですけど、大丈夫ですか? 私がいなくなったら、国に魔物があふれて大変なことになると思いますけど……まあいいですか。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

妹に裏切られて稀代の悪女にされてしまったので、聖女ですけれどこの国から逃げます

辺野夏子
恋愛
聖女アリアが50年に及ぶ世界樹の封印から目覚めると、自分を裏切った妹・シェミナが国の実権を握り聖女としてふるまっており、「アリアこそが聖女シェミナを襲い、自ら封印された愚かな女である」という正反対の内容が真実とされていた。聖女の力を狙うシェミナと親族によって王子の婚約者にしたてあげられ、さらに搾取されようとするアリアはかつての恋人・エディアスの息子だと名乗る神官アルフォンスの助けを得て、腐敗した国からの脱出を試みる。 姉妹格差によりすべてを奪われて時の流れに置き去りにされた主人公が、新しい人生をやり直しておさまるところにおさまる話です。 「小説家になろう」では完結しています。

処理中です...