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ハヤマサトルの留守録
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会社上がりに久々に街を歩く。至る所の店のディスプレイがオレンジ系統の色目になっていて、目をチカチカさせる。街灯に照らされた街路樹も赤や黄色に模様替え。ああ、秋だ。それに少し肌寒い。近くのカフェにでも入って、一度体を温めよう。
窓際の席を陣取り、カフェラテを飲みながら、バッグの中からスマホを取り出す。電話のアイコンを見て、思わず目を丸くする。着信30件。
慌ててタップし確認すると、留守録も入っている。だだ、全く知らない番号からだ。
スマホの留守録は15秒以内。いかにスピーディーにわかりやすく伝えるかが肝心だ。その留守録が、私のスマホに30件入っている。掛けることの15秒、最大7.5分の超大作。
間違いなく、この留守録を残した奴は馬鹿だということだけはハッキリしている。折り返しを待てよ。まあ、マナーモードにしたままバッグに放り込んで気づかなかった私も悪いが。
相手にとってはさぞ重要な案件なんだろうと思いつつ、1つ聞いて、セールス電話ならジェノサイドすることに決め、再生ボタンを押す。
「もしもし、はやまです。こちらは準備完了です。何か他にあればやっときますよ。結構余裕でした。では折り返しお待ちしています」
「はやまです。もう少しで始まりますけど、大丈夫そうですか?電話に出られなさそうなら、ラインかショートメールでもいいので返事願います」
「はやまです。どこにいます?渋滞にハマってるなら、先に連絡した方がいいですよ。怒らせるとマズイですし。いざとなったら、電車移動に切り替えてくださいね」
「もしもーし!残業発生ですか?だとしたら、時間変更しますか?このままだと、お金ももったいないし。どうしますか?返事お願いしまーす」
ここまで聞いて、こいつはホンマもんのアホだということがわかった。お前こそ、ラインかショートメールを入れろ。相手が電話に出られない状況でも、折を見て隙を見て画面で確認できるだろうが。
続きを聞いてみると、同じような内容がさらに6件。ここまでで、2.5分。しつこく留守録を入れているのだから、よほど重要で、かなりこの日のために準備をしてきたのだろう。誕生日のサプライズだろうか。金も無駄になるということだし。
改めて、続きを聞いてみる。
「は、や、ま、でーす!はっやっまっでーすっ!おかしいなあ、もしかして番号間違えてんのかな。すみませーん、マジもうすぐ始まりますって!本気で怒られますよ。返事、よろしくです」
「すみません、この番号●●●ー●●●●ー●●●●で合ってますよね?間違ってたら、折り返しください。あの、怪しい者ではありません。よろしくお願いします」
「もしもし、自分、はやまさとるって言います。●●●株式会社に勤めてまして、この電話番号を知り合いのスマホだと思ってかけてます。間違いなら返答ください。ショートメールでもいいです」
「はやまさとるです。お掛けになった電話番号は間違いですか?今、こっちに誰もいなくて番号確かめられないので、どーにもならないんですけど。返事願います!」
11件目で間違い電話の可能性に気づいたハヤマサトルだか、それから同じ内容を5件入れている。お前、周りに誰もいないなら、それこそ他の誰かに電話なりラインなりして、相手の番号を確かめろよ。全く知らない相手からフルネームを名乗られて、全く知らない勤め先の会社名を出されても、怪しい怪しくないを判断できるわけないだろう。
ここまでで16件、4分弱。残り3.5分。最後の留守録の着信が20時00分。今、20時40分だから、既に約束の時間は過ぎているのだろう。ハヤマサトルはどうしたのか。こうなると、どんなに馬鹿馬鹿しくても結末が気になる。
「あのー、はやまです。今、マジで誰もいなくて、誰に電話しても出なくて、四面楚歌です。どうしたらいいですかね、もう時間になりそうですし。」
「あのー、はやまなんですけど、これ、間違い電話ですよね?もう、間違い電話でもいいんで、出てくれませんか?ちょっと、この状況がいたたまれません」
「間違い電話の人!今から、ここに来ません?いや、いきなりですみません。でも、このままいくとマジで金もったいないし、これ・・・どうすればいいかわかんないし」
「はやまさとるくんです。このまま、始まるんですかね。あと5分しかないんですけど。つーか、誰もいないっておかしいですよね?え?俺、日にち間違えた系?」
20件目にして、日程誤認の可能性まで出てきたハヤマサトル。何か知らないが、かなり準備して待ってたんだろう?そこ、一番最初に確認しないか?こいつ、納期を平気で間違える系だな。
「はあ。傷心のはやまです。誰にも連絡つきません。間違い電話の人、あと5分ぐらい付き合ってくれませんか?あ!もちろん、ここに来てもらってもOKです」
「はあ。どうしよう、みんなから集めた金でこんなことしちゃって・・・怒られるの、自分っすよ。電話番号は間違えてるかもだし、日にち間違えてるかもだし」
「今、はやまがお伝えしています。ここ、結構有名な所で、●●●って知ってます?中央区の●●沿いにあって・・・って、来ないですもんね・・・。いや、いい所なんですよ。どうですか?」
「さとるはやまがお送りする留守録です。とうとう、時間です。一人です。今、世界の中心で間違い電話をかけてます。誰か助けてください」
24件目、ハヤマサトルは留守録をせめてドラマティックにしようと試み始めていた。涙ぐましいが、怪しさ満載だから行くことはないよ。
ここではない、何処かのハヤマサトルです。
あとは哀しみを持て余すハヤマサトルです。
走り出せ!走り出せ!明日を迎えに行くハヤマサトルです。
ありのままの自分、ハヤマサトルです。
いつでもいつでも彼は、ハヤマサトルです。
これで29件、ラスイチだ。お前、一体幾つだよと思わせるフレーズもあるが、なかなかどうして、気が効いた自己紹介じゃないか。
ハヤマサトルは、もう留守録の文学者と化している。パーティー、残念だったな。
さて、その思いの丈が最後の1件に詰まってるんだろう?心して聞こうではないか。
ゴクリと喉を鳴らし、最後の1件を再生する。
「あー!もう時間です!終わったーーーえっ!?何か仮装した人がなだれ込んできた!えーい!間違いでも何でもいいや!ありがとう!ハッピーハロウィン!トリックオアトリート!」
私はくすりと笑い、30件の留守録を順に消していった。ハヤマサトルは、どうやらホンマもんのアホだが皆からは愛されているようだ。
ハヤマくん、自分へのサプライズパーティーを自分で準備していたみたいだよ。
ちらりと窓越しに夜の街を盗み見る。
ああ、秋だね。
窓際の席を陣取り、カフェラテを飲みながら、バッグの中からスマホを取り出す。電話のアイコンを見て、思わず目を丸くする。着信30件。
慌ててタップし確認すると、留守録も入っている。だだ、全く知らない番号からだ。
スマホの留守録は15秒以内。いかにスピーディーにわかりやすく伝えるかが肝心だ。その留守録が、私のスマホに30件入っている。掛けることの15秒、最大7.5分の超大作。
間違いなく、この留守録を残した奴は馬鹿だということだけはハッキリしている。折り返しを待てよ。まあ、マナーモードにしたままバッグに放り込んで気づかなかった私も悪いが。
相手にとってはさぞ重要な案件なんだろうと思いつつ、1つ聞いて、セールス電話ならジェノサイドすることに決め、再生ボタンを押す。
「もしもし、はやまです。こちらは準備完了です。何か他にあればやっときますよ。結構余裕でした。では折り返しお待ちしています」
「はやまです。もう少しで始まりますけど、大丈夫そうですか?電話に出られなさそうなら、ラインかショートメールでもいいので返事願います」
「はやまです。どこにいます?渋滞にハマってるなら、先に連絡した方がいいですよ。怒らせるとマズイですし。いざとなったら、電車移動に切り替えてくださいね」
「もしもーし!残業発生ですか?だとしたら、時間変更しますか?このままだと、お金ももったいないし。どうしますか?返事お願いしまーす」
ここまで聞いて、こいつはホンマもんのアホだということがわかった。お前こそ、ラインかショートメールを入れろ。相手が電話に出られない状況でも、折を見て隙を見て画面で確認できるだろうが。
続きを聞いてみると、同じような内容がさらに6件。ここまでで、2.5分。しつこく留守録を入れているのだから、よほど重要で、かなりこの日のために準備をしてきたのだろう。誕生日のサプライズだろうか。金も無駄になるということだし。
改めて、続きを聞いてみる。
「は、や、ま、でーす!はっやっまっでーすっ!おかしいなあ、もしかして番号間違えてんのかな。すみませーん、マジもうすぐ始まりますって!本気で怒られますよ。返事、よろしくです」
「すみません、この番号●●●ー●●●●ー●●●●で合ってますよね?間違ってたら、折り返しください。あの、怪しい者ではありません。よろしくお願いします」
「もしもし、自分、はやまさとるって言います。●●●株式会社に勤めてまして、この電話番号を知り合いのスマホだと思ってかけてます。間違いなら返答ください。ショートメールでもいいです」
「はやまさとるです。お掛けになった電話番号は間違いですか?今、こっちに誰もいなくて番号確かめられないので、どーにもならないんですけど。返事願います!」
11件目で間違い電話の可能性に気づいたハヤマサトルだか、それから同じ内容を5件入れている。お前、周りに誰もいないなら、それこそ他の誰かに電話なりラインなりして、相手の番号を確かめろよ。全く知らない相手からフルネームを名乗られて、全く知らない勤め先の会社名を出されても、怪しい怪しくないを判断できるわけないだろう。
ここまでで16件、4分弱。残り3.5分。最後の留守録の着信が20時00分。今、20時40分だから、既に約束の時間は過ぎているのだろう。ハヤマサトルはどうしたのか。こうなると、どんなに馬鹿馬鹿しくても結末が気になる。
「あのー、はやまです。今、マジで誰もいなくて、誰に電話しても出なくて、四面楚歌です。どうしたらいいですかね、もう時間になりそうですし。」
「あのー、はやまなんですけど、これ、間違い電話ですよね?もう、間違い電話でもいいんで、出てくれませんか?ちょっと、この状況がいたたまれません」
「間違い電話の人!今から、ここに来ません?いや、いきなりですみません。でも、このままいくとマジで金もったいないし、これ・・・どうすればいいかわかんないし」
「はやまさとるくんです。このまま、始まるんですかね。あと5分しかないんですけど。つーか、誰もいないっておかしいですよね?え?俺、日にち間違えた系?」
20件目にして、日程誤認の可能性まで出てきたハヤマサトル。何か知らないが、かなり準備して待ってたんだろう?そこ、一番最初に確認しないか?こいつ、納期を平気で間違える系だな。
「はあ。傷心のはやまです。誰にも連絡つきません。間違い電話の人、あと5分ぐらい付き合ってくれませんか?あ!もちろん、ここに来てもらってもOKです」
「はあ。どうしよう、みんなから集めた金でこんなことしちゃって・・・怒られるの、自分っすよ。電話番号は間違えてるかもだし、日にち間違えてるかもだし」
「今、はやまがお伝えしています。ここ、結構有名な所で、●●●って知ってます?中央区の●●沿いにあって・・・って、来ないですもんね・・・。いや、いい所なんですよ。どうですか?」
「さとるはやまがお送りする留守録です。とうとう、時間です。一人です。今、世界の中心で間違い電話をかけてます。誰か助けてください」
24件目、ハヤマサトルは留守録をせめてドラマティックにしようと試み始めていた。涙ぐましいが、怪しさ満載だから行くことはないよ。
ここではない、何処かのハヤマサトルです。
あとは哀しみを持て余すハヤマサトルです。
走り出せ!走り出せ!明日を迎えに行くハヤマサトルです。
ありのままの自分、ハヤマサトルです。
いつでもいつでも彼は、ハヤマサトルです。
これで29件、ラスイチだ。お前、一体幾つだよと思わせるフレーズもあるが、なかなかどうして、気が効いた自己紹介じゃないか。
ハヤマサトルは、もう留守録の文学者と化している。パーティー、残念だったな。
さて、その思いの丈が最後の1件に詰まってるんだろう?心して聞こうではないか。
ゴクリと喉を鳴らし、最後の1件を再生する。
「あー!もう時間です!終わったーーーえっ!?何か仮装した人がなだれ込んできた!えーい!間違いでも何でもいいや!ありがとう!ハッピーハロウィン!トリックオアトリート!」
私はくすりと笑い、30件の留守録を順に消していった。ハヤマサトルは、どうやらホンマもんのアホだが皆からは愛されているようだ。
ハヤマくん、自分へのサプライズパーティーを自分で準備していたみたいだよ。
ちらりと窓越しに夜の街を盗み見る。
ああ、秋だね。
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