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47 辺境騎士と妻 4
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リザはただただ驚いていた。
こんなに大勢の人間が食事をしているところを見たこともなければ、こんなに騒がしいのも初めてだったから。
王都の市場に出た時も驚いたが、あれはまだ屋外だったからこれほどではなかった。
広い大広間が狭く感じるほど、そこは熱気と活気に溢れていたのだ。
「……」
「リザ、大丈夫か。騒がしくてびっくりしたか?」
「あ……いいえ。だいじょうぶ……少し驚いたけど。ニーケ、ニーケはどこにいるかしら?」
「ああ、ニーケならあそこにいる」
エルランドは広間の左の端に目をやった。そこにはターニャと並んでニーケが心配そうにこちらを見ていたが、リザと目が合うと微笑み返してくれた。その隣にアンテもいる。彼女は取り繕った無表情で主座を見ている。
「さぁ、食べなさい」
エルランドはリザの皿に薄く切った肉や野菜、スープに添えてパンを取り分けてくれた。そのどれもが温かく、熱く、湯気が立っている。どれもよい匂いで美味しそうだ。
「イストラーダには温かいお料理もあるのね……いえ、なにを食べても美味しいけれど」
リザは思わず素直な感想を言った後でしまったと感じたが、エルランドに聞きとがめられてしまう。
「なに? ここでは冷たい料理などあまり食わないぞ」
「え? ああ、多分私が部屋でしか食べなかったから、運ぶまでに冷めてしまうのよ、きっと。それに王宮ではあまり熱々のものは出ないはずだし」
「……リザの食事は王宮風にしたのか? 聞いてないが」
「それより、エルランド様、お客様はご夫婦ではなかったの? こちらのお方でしょう?」
リザは我ながらうまく話題を変えられたと思って尋ねた。エルランドの向こうに人の良さそうな男が座っている。
「ああ……紹介しよう。こちらはウィルター殿。初めてイストラーダにこられた王都の商人だ」
「初めまして、奥方様。ウィルター・ライドと申します」
「初めまして。リザです、リザと呼んでください」
「……リザ様は第五王女であらせられる?」
「はい。でも母の身分が低いので白蘭宮では暮らしていませんでした。ご存知なくても当然です」
「ははぁ、なるほど」
ウィルターは王族では見られない、リザの髪と瞳の色を見つめた。
「ウィルター様の奥様は?」
「はい。それがまだ少し気分が悪いらしくて、部屋で休んでおります」
「お医者様には見せたのですか?」
「ご領主様のご厚意で先ほど呼んでいただきました。病気ではないので、しばらく安静にしていれば大丈夫だとのことです」
ウィルターは、ほんの少し歯切れが悪そうに言った。何か事情があるのだろうとリザは察する。
「それはよかったわ。私後でご挨拶に伺ってもいいかしら?」
「大丈夫だと思います。妻……パーセラも喜ぶと思います。」
「リザ、もっと食べないと」
エルランドは焼いた肉にソースをかけたものをリザの前に置いた。食べやすいように一口大に切られている。リザとウィルターの会話中に切ってくれたものらしい。
「ありがとう。とても美味しい」
リザは肉を頬張った。温かいとこんなにも柔らかいのだ。ウィルターも食が進んでいたが、ふと思い出したようにエルランドに尋ねる。
「ご領主様、今年の収穫の市は、去年よりも大きくされるということでしたね?」
「そうだ。他の商人たちとも相談して、できるだけ規模が大きくなるように準備を進めてもらいたい。周囲の村からも商人や職人を呼ぶつもりだし、今年は隣のノルトーダ州からご領主と、ご息女が見える予定だから、なるべく盛大にしたいと思っている」
「盛大にですか? それでは早速明日から準備を始めないと」
「ああ。それと今年は初めて、この城で宴を催したいと思っている。収穫の市の最後を飾る収穫の宴だ」
「宴?」
リザは聞き慣れない言葉に食べる手を止めた。
「ああ。王宮の風に言うなら夜会かな? その前に、狩りや野外での食事会も開きたいと思っている」
「……」
「リザのお披露目も兼ねている。だからリザは欲しいと思うものは全て市で買えばいい。全部俺が買ってやる」
「……お披露目」
リザは喜ぶべきなのだろうと思った。
しかし、王宮でのわずかな経験からは苦い記憶しか思い出せなかったのである。
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
本日はお年玉、2話分更新です!
少しずつですが、ちゃんとちゃんと甘くなります。
もしよろしければ、お年玉(ご意見・ご感想・ご評価)ください!
こんなに大勢の人間が食事をしているところを見たこともなければ、こんなに騒がしいのも初めてだったから。
王都の市場に出た時も驚いたが、あれはまだ屋外だったからこれほどではなかった。
広い大広間が狭く感じるほど、そこは熱気と活気に溢れていたのだ。
「……」
「リザ、大丈夫か。騒がしくてびっくりしたか?」
「あ……いいえ。だいじょうぶ……少し驚いたけど。ニーケ、ニーケはどこにいるかしら?」
「ああ、ニーケならあそこにいる」
エルランドは広間の左の端に目をやった。そこにはターニャと並んでニーケが心配そうにこちらを見ていたが、リザと目が合うと微笑み返してくれた。その隣にアンテもいる。彼女は取り繕った無表情で主座を見ている。
「さぁ、食べなさい」
エルランドはリザの皿に薄く切った肉や野菜、スープに添えてパンを取り分けてくれた。そのどれもが温かく、熱く、湯気が立っている。どれもよい匂いで美味しそうだ。
「イストラーダには温かいお料理もあるのね……いえ、なにを食べても美味しいけれど」
リザは思わず素直な感想を言った後でしまったと感じたが、エルランドに聞きとがめられてしまう。
「なに? ここでは冷たい料理などあまり食わないぞ」
「え? ああ、多分私が部屋でしか食べなかったから、運ぶまでに冷めてしまうのよ、きっと。それに王宮ではあまり熱々のものは出ないはずだし」
「……リザの食事は王宮風にしたのか? 聞いてないが」
「それより、エルランド様、お客様はご夫婦ではなかったの? こちらのお方でしょう?」
リザは我ながらうまく話題を変えられたと思って尋ねた。エルランドの向こうに人の良さそうな男が座っている。
「ああ……紹介しよう。こちらはウィルター殿。初めてイストラーダにこられた王都の商人だ」
「初めまして、奥方様。ウィルター・ライドと申します」
「初めまして。リザです、リザと呼んでください」
「……リザ様は第五王女であらせられる?」
「はい。でも母の身分が低いので白蘭宮では暮らしていませんでした。ご存知なくても当然です」
「ははぁ、なるほど」
ウィルターは王族では見られない、リザの髪と瞳の色を見つめた。
「ウィルター様の奥様は?」
「はい。それがまだ少し気分が悪いらしくて、部屋で休んでおります」
「お医者様には見せたのですか?」
「ご領主様のご厚意で先ほど呼んでいただきました。病気ではないので、しばらく安静にしていれば大丈夫だとのことです」
ウィルターは、ほんの少し歯切れが悪そうに言った。何か事情があるのだろうとリザは察する。
「それはよかったわ。私後でご挨拶に伺ってもいいかしら?」
「大丈夫だと思います。妻……パーセラも喜ぶと思います。」
「リザ、もっと食べないと」
エルランドは焼いた肉にソースをかけたものをリザの前に置いた。食べやすいように一口大に切られている。リザとウィルターの会話中に切ってくれたものらしい。
「ありがとう。とても美味しい」
リザは肉を頬張った。温かいとこんなにも柔らかいのだ。ウィルターも食が進んでいたが、ふと思い出したようにエルランドに尋ねる。
「ご領主様、今年の収穫の市は、去年よりも大きくされるということでしたね?」
「そうだ。他の商人たちとも相談して、できるだけ規模が大きくなるように準備を進めてもらいたい。周囲の村からも商人や職人を呼ぶつもりだし、今年は隣のノルトーダ州からご領主と、ご息女が見える予定だから、なるべく盛大にしたいと思っている」
「盛大にですか? それでは早速明日から準備を始めないと」
「ああ。それと今年は初めて、この城で宴を催したいと思っている。収穫の市の最後を飾る収穫の宴だ」
「宴?」
リザは聞き慣れない言葉に食べる手を止めた。
「ああ。王宮の風に言うなら夜会かな? その前に、狩りや野外での食事会も開きたいと思っている」
「……」
「リザのお披露目も兼ねている。だからリザは欲しいと思うものは全て市で買えばいい。全部俺が買ってやる」
「……お披露目」
リザは喜ぶべきなのだろうと思った。
しかし、王宮でのわずかな経験からは苦い記憶しか思い出せなかったのである。
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
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