上 下
29 / 96

28 裏街道の拐引 2

しおりを挟む
「おい、ジャーニン! そいつらはなんだ」
「足を痛めた娘っ子と、従者のガキだ。裏街道で拾った。二人とも可愛い顔立ちしてるから、高く売れるぜ」
 ジャーニンはどさりとニーケを落とした。
「きゃっ!」
「ニーケ!」
「あー、重かったぜ。嬢ちゃん。でもいいケツだったぜ。ひひひ」
「あ、あなた達は……」
 リザの心が真っ黒な不安に塗りつぶされて行く。
「俺たちは東から来た。金を稼ぐためだが、あんたらの言葉で言うなら『ならず者』かな?」
 小屋の一番奥にいた男がゆらりと立ち上がった。
「こんな朝から裏街道を行くなんてな、事情ありなんだろうが、ま、俺たちに出会っちまったのが運が悪かったと思いな」
「……っ!」
 リザは杖でジャーニンに殴りかかった。しかし、あっさり受けられ杖を折られてしまう。
「なかなか、威勢のいいガキだぜ」
「暴れられると厄介だ。ジャーニン、しばって口を塞いでおけ」
「僕たちをどうするつもりだ!」
 リザは激しく抵抗しながら叫んだ。少し目が慣れてきたので、倉庫の中に十人以上の男達がギラギラした目でこちらを見つめているのがわかる。どれもこれも、ぞっとするような目つきだ。
「さぁて……王都に幾らでもある、もぐりの娼館しょうかんにでも売るかな?」
 男がどんどん近づいてくる。
「その前に、味見をさしてくれよ! バルトロお頭!」
「ああ、後でな。だが、最後までするんじゃねぇぞ、初モンなら高く売れるんだからな。だが……」
 汚い指がリザの顎をつかむ。
「あん? このつらどっかで見た気が……」
 男──バルトロが上着のポケットに手を突っ込んで丸めた紙を引っ張り出した。
「あ? ああ! これだこれだ! ハーリの村の門に貼り付けてあったやつだ。賞金が出るって言うから覚えてたぜ。おら、お前、こいつだろ? あんまり似てねぇけど。国のお尋ね者だってわけかい? 可愛い顔してなんて野郎だ」
 リザの目の前に突きつけられたのは例の手配書だ。
「いや、野郎でもない……ってことは、お前も女ってことかな?」
「それは僕じゃない!」
 伸びてきた汚いてからリザは身をよじって逃れようとした。しかし、抵抗虚しく、胸を掴まれてしまう。
「へへ。柔けぇ。けど、まだ育ちきってねぇな。あと二年くらいしたら、もっとでかくなるかな?」
「……離せ!」
「へぇ、ぱっとみじゃわからんが、よくみると綺麗な顔だぜ……」
 バルトロはリザの帽子を払い落とした。たくし込んでいた髪がさらりと肩に流れる。
「ほう、黒髪じゃねぇか。この辺りじゃ珍しいな。ふーん……痩せっぽちなのに、妙な色気がありやがる」
 もう一方の指がリザの髪をく。男の目に浮かんだ情欲に、吐き気がこみ上げてきた。
「手配書には無事に拘束とあったが、これは暴力じゃねぇ。おい嬢ちゃん、俺と気持ちの良いことをしてやるぜ……おい、お前ら。そっちの娘に手を出すんじゃねぇぞ!」
 リザの縄をひっつかんで男は扉を開けた。やっと暗さに目が慣れたところなのに、再び屋外に連れ出されて目が眩んだ。
「明るいところで全部見てやる。こっちへこい!」
 バルトロは倉庫の裏にリザを引っ張っていった。街道から死角になるそこには、乾草が積み上げられている。まだ乾燥していないそれは、青臭い匂いがした
「ううっ!」
 突き飛ばされて体が沈む。襟ぐりを掴まれていたから、大きな上着がずるりと脱げた。
「おお、華奢だな。好みだぜ」
 ぎっと振り返ったリザの瞳は、斜めに射した陽を拾って藍色に輝いた。
「これは凄い目だ黒じゃない、青? 藍か?」
 バルトロはそう言いながら、後ろ手に縛られた両腕の縄を解いた。
 腕が自由になった途端、リザはめちゃくちゃに振り回したが、男は膝でリザを動けなくしたまま、半身をひょいと立ち上げたため、なんの痛痒つうようも与えられない。
「ひっひっ……暴れろ暴れろ。少しは抵抗されねぇと面白くねぇ。どうせ、すぐに屈服させるんだから。肌はどうだ? そら!」
 毛がびっしり生えた手がぐっと伸びて、シャツ下着ごとを胸元から引き裂いた。
「んんん~~~~っ!」
 リザは口に食い込む布の下から必死に声をあげた。しかし、情けない声しか出せない。倉庫の中にも届かないだろう。その間にも男の指先はシャツの残骸を取り去って行く。
「おお! こりゃ思ったよりいい胸だ」
「……っ!」
 秋の朝の透明な日差しの元に、リザの白い肌がさらけ出されていた。
「こっりゃ、すげぇ。だが、困ったな……最後までできねぇ……まぁ、くわえさせたらいいか」
 そう言うなり、バルトロはリザの首筋に顔を埋めた。
 ぬるりと熱く非常に不愉快なものが、首や鎖骨の辺りを這い回る。胃液がせり上がり、絶望に手足が冷たくなった。
「うううっ」
 リザは必死で男の体を押し退けようとしたが、重すぎてどうしようもできない。力さえも萎えて虚しく投げ出される。しかしその時、ズボンのポケットの奥に入っている硬いものに指先が触れた。
 昔、エルランドにもらった小刀だ。
「……」
 リザは抵抗を諦めた振りをしながら、ポケットの中でさやを外し、柄を握りしめる。その硬さがリザに勇気をくれた。
 バルトロはひぃひぃと笑いながら、リザの両胸を掴み、両足を細い腰に絡ませながら下半身を擦り付けていた。
 ──今なら手足が塞がっている!
 リザは小刀を振り上げ、垂直に男に突き立てた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

旦那様が不倫をしていますので

杉本凪咲
恋愛
隣の部屋から音がした。 男女がベッドの上で乱れるような音。 耳を澄ますと、愉し気な声まで聞こえてくる。 私は咄嗟に両手を耳に当てた。 この世界の全ての音を拒否するように。 しかし音は一向に消えない。 私の体を蝕むように、脳裏に永遠と響いていた。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...