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28 裏街道の拐引 2
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「おい、ジャーニン! そいつらはなんだ」
「足を痛めた娘っ子と、従者のガキだ。裏街道で拾った。二人とも可愛い顔立ちしてるから、高く売れるぜ」
ジャーニンはどさりとニーケを落とした。
「きゃっ!」
「ニーケ!」
「あー、重かったぜ。嬢ちゃん。でもいいケツだったぜ。ひひひ」
「あ、あなた達は……」
リザの心が真っ黒な不安に塗りつぶされて行く。
「俺たちは東から来た。金を稼ぐためだが、あんたらの言葉で言うなら『ならず者』かな?」
小屋の一番奥にいた男がゆらりと立ち上がった。
「こんな朝から裏街道を行くなんてな、事情ありなんだろうが、ま、俺たちに出会っちまったのが運が悪かったと思いな」
「……っ!」
リザは杖でジャーニンに殴りかかった。しかし、あっさり受けられ杖を折られてしまう。
「なかなか、威勢のいいガキだぜ」
「暴れられると厄介だ。ジャーニン、縛って口を塞いでおけ」
「僕たちをどうするつもりだ!」
リザは激しく抵抗しながら叫んだ。少し目が慣れてきたので、倉庫の中に十人以上の男達がギラギラした目でこちらを見つめているのがわかる。どれもこれも、ぞっとするような目つきだ。
「さぁて……王都に幾らでもある、もぐりの娼館にでも売るかな?」
男がどんどん近づいてくる。
「その前に、味見をさしてくれよ! バルトロお頭!」
「ああ、後でな。だが、最後までするんじゃねぇぞ、初モンなら高く売れるんだからな。だが……」
汚い指がリザの顎を掴む。
「あん? この面どっかで見た気が……」
男──バルトロが上着のポケットに手を突っ込んで丸めた紙を引っ張り出した。
「あ? ああ! これだこれだ! ハーリの村の門に貼り付けてあったやつだ。賞金が出るって言うから覚えてたぜ。おら、お前、こいつだろ? あんまり似てねぇけど。国のお尋ね者だってわけかい? 可愛い顔してなんて野郎だ」
リザの目の前に突きつけられたのは例の手配書だ。
「いや、野郎でもない……ってことは、お前も女ってことかな?」
「それは僕じゃない!」
伸びてきた汚いてからリザは身を捩って逃れようとした。しかし、抵抗虚しく、胸を掴まれてしまう。
「へへ。柔けぇ。けど、まだ育ちきってねぇな。あと二年くらいしたら、もっとでかくなるかな?」
「……離せ!」
「へぇ、ぱっとみじゃわからんが、よくみると綺麗な顔だぜ……」
バルトロはリザの帽子を払い落とした。たくし込んでいた髪がさらりと肩に流れる。
「ほう、黒髪じゃねぇか。この辺りじゃ珍しいな。ふーん……痩せっぽちなのに、妙な色気がありやがる」
もう一方の指がリザの髪を梳く。男の目に浮かんだ情欲に、吐き気がこみ上げてきた。
「手配書には無事に拘束とあったが、これは暴力じゃねぇ。おい嬢ちゃん、俺と気持ちの良いことをしてやるぜ……おい、お前ら。そっちの娘に手を出すんじゃねぇぞ!」
リザの縄をひっつかんで男は扉を開けた。やっと暗さに目が慣れたところなのに、再び屋外に連れ出されて目が眩んだ。
「明るいところで全部見てやる。こっちへこい!」
バルトロは倉庫の裏にリザを引っ張っていった。街道から死角になるそこには、乾草が積み上げられている。まだ乾燥していないそれは、青臭い匂いがした
「ううっ!」
突き飛ばされて体が沈む。襟ぐりを掴まれていたから、大きな上着がずるりと脱げた。
「おお、華奢だな。好みだぜ」
ぎっと振り返ったリザの瞳は、斜めに射した陽を拾って藍色に輝いた。
「これは凄い目だ黒じゃない、青? 藍か?」
バルトロはそう言いながら、後ろ手に縛られた両腕の縄を解いた。
腕が自由になった途端、リザはめちゃくちゃに振り回したが、男は膝でリザを動けなくしたまま、半身をひょいと立ち上げたため、なんの痛痒も与えられない。
「ひっひっ……暴れろ暴れろ。少しは抵抗されねぇと面白くねぇ。どうせ、すぐに屈服させるんだから。肌はどうだ? そら!」
毛がびっしり生えた手がぐっと伸びて、シャツ下着ごとを胸元から引き裂いた。
「んんん~~~~っ!」
リザは口に食い込む布の下から必死に声をあげた。しかし、情けない声しか出せない。倉庫の中にも届かないだろう。その間にも男の指先はシャツの残骸を取り去って行く。
「おお! こりゃ思ったよりいい胸だ」
「……っ!」
秋の朝の透明な日差しの元に、リザの白い肌が曝け出されていた。
「こっりゃ、すげぇ。だが、困ったな……最後までできねぇ……まぁ、咥えさせたらいいか」
そう言うなり、バルトロはリザの首筋に顔を埋めた。
ぬるりと熱く非常に不愉快なものが、首や鎖骨の辺りを這い回る。胃液がせり上がり、絶望に手足が冷たくなった。
「うううっ」
リザは必死で男の体を押し退けようとしたが、重すぎてどうしようもできない。力さえも萎えて虚しく投げ出される。しかしその時、ズボンのポケットの奥に入っている硬いものに指先が触れた。
昔、エルランドにもらった小刀だ。
「……」
リザは抵抗を諦めた振りをしながら、ポケットの中で鞘を外し、柄を握りしめる。その硬さがリザに勇気をくれた。
バルトロはひぃひぃと笑いながら、リザの両胸を掴み、両足を細い腰に絡ませながら下半身を擦り付けていた。
──今なら手足が塞がっている!
リザは小刀を振り上げ、垂直に男に突き立てた。
「足を痛めた娘っ子と、従者のガキだ。裏街道で拾った。二人とも可愛い顔立ちしてるから、高く売れるぜ」
ジャーニンはどさりとニーケを落とした。
「きゃっ!」
「ニーケ!」
「あー、重かったぜ。嬢ちゃん。でもいいケツだったぜ。ひひひ」
「あ、あなた達は……」
リザの心が真っ黒な不安に塗りつぶされて行く。
「俺たちは東から来た。金を稼ぐためだが、あんたらの言葉で言うなら『ならず者』かな?」
小屋の一番奥にいた男がゆらりと立ち上がった。
「こんな朝から裏街道を行くなんてな、事情ありなんだろうが、ま、俺たちに出会っちまったのが運が悪かったと思いな」
「……っ!」
リザは杖でジャーニンに殴りかかった。しかし、あっさり受けられ杖を折られてしまう。
「なかなか、威勢のいいガキだぜ」
「暴れられると厄介だ。ジャーニン、縛って口を塞いでおけ」
「僕たちをどうするつもりだ!」
リザは激しく抵抗しながら叫んだ。少し目が慣れてきたので、倉庫の中に十人以上の男達がギラギラした目でこちらを見つめているのがわかる。どれもこれも、ぞっとするような目つきだ。
「さぁて……王都に幾らでもある、もぐりの娼館にでも売るかな?」
男がどんどん近づいてくる。
「その前に、味見をさしてくれよ! バルトロお頭!」
「ああ、後でな。だが、最後までするんじゃねぇぞ、初モンなら高く売れるんだからな。だが……」
汚い指がリザの顎を掴む。
「あん? この面どっかで見た気が……」
男──バルトロが上着のポケットに手を突っ込んで丸めた紙を引っ張り出した。
「あ? ああ! これだこれだ! ハーリの村の門に貼り付けてあったやつだ。賞金が出るって言うから覚えてたぜ。おら、お前、こいつだろ? あんまり似てねぇけど。国のお尋ね者だってわけかい? 可愛い顔してなんて野郎だ」
リザの目の前に突きつけられたのは例の手配書だ。
「いや、野郎でもない……ってことは、お前も女ってことかな?」
「それは僕じゃない!」
伸びてきた汚いてからリザは身を捩って逃れようとした。しかし、抵抗虚しく、胸を掴まれてしまう。
「へへ。柔けぇ。けど、まだ育ちきってねぇな。あと二年くらいしたら、もっとでかくなるかな?」
「……離せ!」
「へぇ、ぱっとみじゃわからんが、よくみると綺麗な顔だぜ……」
バルトロはリザの帽子を払い落とした。たくし込んでいた髪がさらりと肩に流れる。
「ほう、黒髪じゃねぇか。この辺りじゃ珍しいな。ふーん……痩せっぽちなのに、妙な色気がありやがる」
もう一方の指がリザの髪を梳く。男の目に浮かんだ情欲に、吐き気がこみ上げてきた。
「手配書には無事に拘束とあったが、これは暴力じゃねぇ。おい嬢ちゃん、俺と気持ちの良いことをしてやるぜ……おい、お前ら。そっちの娘に手を出すんじゃねぇぞ!」
リザの縄をひっつかんで男は扉を開けた。やっと暗さに目が慣れたところなのに、再び屋外に連れ出されて目が眩んだ。
「明るいところで全部見てやる。こっちへこい!」
バルトロは倉庫の裏にリザを引っ張っていった。街道から死角になるそこには、乾草が積み上げられている。まだ乾燥していないそれは、青臭い匂いがした
「ううっ!」
突き飛ばされて体が沈む。襟ぐりを掴まれていたから、大きな上着がずるりと脱げた。
「おお、華奢だな。好みだぜ」
ぎっと振り返ったリザの瞳は、斜めに射した陽を拾って藍色に輝いた。
「これは凄い目だ黒じゃない、青? 藍か?」
バルトロはそう言いながら、後ろ手に縛られた両腕の縄を解いた。
腕が自由になった途端、リザはめちゃくちゃに振り回したが、男は膝でリザを動けなくしたまま、半身をひょいと立ち上げたため、なんの痛痒も与えられない。
「ひっひっ……暴れろ暴れろ。少しは抵抗されねぇと面白くねぇ。どうせ、すぐに屈服させるんだから。肌はどうだ? そら!」
毛がびっしり生えた手がぐっと伸びて、シャツ下着ごとを胸元から引き裂いた。
「んんん~~~~っ!」
リザは口に食い込む布の下から必死に声をあげた。しかし、情けない声しか出せない。倉庫の中にも届かないだろう。その間にも男の指先はシャツの残骸を取り去って行く。
「おお! こりゃ思ったよりいい胸だ」
「……っ!」
秋の朝の透明な日差しの元に、リザの白い肌が曝け出されていた。
「こっりゃ、すげぇ。だが、困ったな……最後までできねぇ……まぁ、咥えさせたらいいか」
そう言うなり、バルトロはリザの首筋に顔を埋めた。
ぬるりと熱く非常に不愉快なものが、首や鎖骨の辺りを這い回る。胃液がせり上がり、絶望に手足が冷たくなった。
「うううっ」
リザは必死で男の体を押し退けようとしたが、重すぎてどうしようもできない。力さえも萎えて虚しく投げ出される。しかしその時、ズボンのポケットの奥に入っている硬いものに指先が触れた。
昔、エルランドにもらった小刀だ。
「……」
リザは抵抗を諦めた振りをしながら、ポケットの中で鞘を外し、柄を握りしめる。その硬さがリザに勇気をくれた。
バルトロはひぃひぃと笑いながら、リザの両胸を掴み、両足を細い腰に絡ませながら下半身を擦り付けていた。
──今なら手足が塞がっている!
リザは小刀を振り上げ、垂直に男に突き立てた。
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