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63 鷹の花嫁 1

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「どこに行くの?」
 抱き上げられて運ばれる、奥へといたる廊下には誰もいなかった。
「湯屋」
「ユヤ?」
「昨夜までのとは違う、家族だけが使う特別な風呂のことだ。俺とあなたはもう家族なのだから、やっと一緒に入れる」
 奥へと至る渡り廊下には、煉瓦造りの立方体風の小屋があった。そばに井戸もあり、たくさんの薪が積まれている。
「ここがそう」
「……私お風呂は一人で入るわ」
「だめだ。ミザリー、あなた男を触ったから」
「男……? もしかして、あの少年のことを言ってるの?」
「男は男だ。聞けば、おぶってやったり、抱き上げたりしたそうだと。俺だってしてもらったことがないのに」
「だって、怪我をしてたのよ! それにあなた、私よりずっと重いじゃない! それに背だって高い!」
「けど、妬ける。それもひどく。あなたに触れられる男は俺だけだから。それに……」
「まだあるの!?」
「あの馬鹿娘を引っぱたいてた……」
「それってまさか、私に叩いてほしいって意味じゃないわよね?」
「……」
 信じられないと言うミザリーの視線から逃れるように前だけを見て、ユルディスは廊下を進んでいく。
「あなたに触れてもらえるのは、俺だけだと思いたいだけだ。それは悪いことじゃない」
「でも現実的じゃないわ」
「ああ。だから、こうやってその日の苦痛は、その日に洗い落とすんだ」
 ユルディスは足癖悪く、湯屋の扉を足で蹴った。そのまま後ろ手にかんぬきを降ろしてしまう。
「苦痛なの?」
「そう。俺にとっては」
 湯屋に入ったユルディスは、暖かい床にミザリーを下ろした。
 それがこの夜の始まりだった。

 湯屋の中は適度に暑く、そして湿気に満ちていた。
 敷き詰められた素焼きレンガの床は温かく、中央に簡素な木製の台のようなものがある。床にくり抜かれた浅い浴槽は、昨夜は入ったものと同じだが、はるかに上質でそれほど大きくない。入るものが限られているからだろう。
 四隅にはランプが吊るされて、湯気が室内を巡っていく様は、どこか幻想的だった。
 室内には脱衣の場所はない。つまりここに入る者は、ほとんど裸で入ってくるということだった。
「服を脱がなくちゃ」
 湿気を気にしたミザリーが慌てる。
「俺が」
 そっとミザリーを床に下ろしたユルディスは、ミザリーがなにを言う暇もなく、乗馬服を脱がし始めた。グレイシアの乗馬服のようにボタンがないから、ベルトを外すだけでするすると布が剥ぎ取られていく。
 あっという間にミザリーは素裸になって、ユルディスの前に晒された
 昨夜は寝台の上ですぐに彼が覆いかぶさってきたが、今は何も隠す術がない。ミザリーは体を捻って男の視線から逃れようとした。
「アマン様に、お借りした乗馬服が濡れちゃう……」
「問題ない。さぁ、綺麗にしよう」
 そう言ってユルディスは自分も服をぎ取ると、ミザリーのものと共に部屋の隅に蹴飛ばし、ミザリーを台の上に横たえる。
「み、見せないで」
 男の中央から太い茎が生えている。ミザリーはそれが見えないよう、うつ伏せに体勢を変えた。
「今さら? これが昨夜あなたの中にずっとあったのに」
「でも、こんなふうに見せつけないで!」
 顔を上げられないまま、ミザリーは抗議した。首まで真っ赤になっているのが見えて、ユルディスの口角が上がる。
「心外だな」
 ユルディスは楽しそうに棚から綺麗な小瓶を取ると、透明な液体をミザリーの背中にとろとろと流した。
「じ、自分でやるわ」
「だめです。今日は疲れただろうから。この香油は疲労回復の効果もある」
 甘苦い香りが熱気の中に流れる。
「……? この香りは知ってるような気がする。なんだったかしら?」
 たちまちミザリーの好奇心が騒ぎ出した。
「あなたが今日見たものですよ」
「今日見たもの? あ、白露樹?」
「そう。白露樹の樹液と、草原にしか生えない香りの良い薬草を混ぜたものです。以前……エルトレーの領地で嵐の夜に酒を飲んだでしょう?」
「あの時の?」
「ええ。少し混ぜておいた」
 大きくてごつごつした手のひらが、肩甲骨の間を揉み解す。一つひとつの頸椎の間に指先を埋めて指圧をしてから、背中、腰、などを緩めていった。疲労は体の奥に溜まるものだ。
「あ……いい気持ち」
 騎馬で駆け抜け、岩山を登り、少年を引っ張り上げた今日の疲れがどんどん溶けていく。
「この香油って、たくさん生産できるの?」
「あなたって人はもう……ここで商売気はなし。少しは俺のことで頭をいっぱいにして」
「……あ!」
 太ももを揉んでいたユルディスの長い指が、盛り上がった双丘の間を滑っていく。
「だめ!」
「だめじゃない」
「……んんっ!」
 けしからぬ指先が甘い芽を押しつぶし、ミザリーの腰がしなった。
「ああ、濡れている……一昨日の夜は、俺のわがままをぶつけすぎたから、今日はゆっくりはじめましょう。俺には拷問だが、それもまたいい。俺は耐えられる男だから……」
「都合のいいことを……あ、やぁ!」
 無意識に逃れようとするも、台の上なので限界がある。わずかに開いた足の間に図々しく体を入れ込みながら、男の動きは大胆になった。
 指の腹で芽を撫でながら、別の指が深く侵入する。内と外からの刺激は苦しいほどなのに、全神経がそこに集中していく。
「ああっ!」
 直に感覚を掘り起こされて、ミザリーは喉を反らせて高まった。
「こんなに感じやすい体では困る。可愛すぎて」
「きゃあ!」
 まだ息が整わない体をひっくり返され、ふわりと乳房が揺れた。
「ああ、美しい……全てが豊かだ」
 再び香油がふりかけられる。これからどうされるのか察したミザリーが嫌々と首を振ると、長い髪が台から床に滑り落ちた。
 胸や腹に香油がたっぷりと塗り込まれ、硬い手のひらで容赦無く隅々まで撫で上げられる。達したばかりの体は感じやすく、ミザリーの体は震えた。
 二人の体から立ち昇る香油の香りは、湯屋中に立ち込める。それはミザリーを次第に大胆にしていった。
 ユルディスは夢中になって乳房を含んでいる。両の乳房を変わるがわる舐めては吸い、指で擦り合わせては、ミザリーをかせるのだ。
「ああ……熱い、熱いわ!」
「もっと熱くなって……男のために」
 耳元の囁きに体の奥がぎゅっと締まった。その気配を感じた男の唇は、更なる熱を求めて平かな腹を滑り降りる。
「あっ! そんな!」
 割られた膝を閉じようとしても、それは無駄なあがきだった。
「おお、こんなに甘いとは!」
 柔らかい腿の間に顔を埋めた男は、舌なめずりをして笑った。
「ユール! 嫌よ! こんな……」
「酷いことを言う。やめられるわけがない」
「やぁっ!」
 ミザリーは懇願したが、体は確かによろこんでいる。甘苦い香りに心のたががどんどん緩み、男の与える感覚を貪欲に拾っていった。
「ユール! もっと、もっとちょうだい!」
 その声に応えるように、我慢のし通しだった男は一気に体をすすめた。つながった場所からほとばしる甘い痺れが互い満たす。男は夢中で体を振りたくり、先に限界が来たのはユルディスの方だった。
「もうだめだ!」
 突然、ユルディスが身を起こし、限界に達していた雄を、ほどけきったあわいに深く突き込んだ。ミザリーの胎内なかは素直にそれを受け入れ、歓迎するように揉みしぼる。
い!」
 最後に大きく腰を押しつけ、ユルディスは大量の精を吐き出した。同時にミザリーも極まり、激しく収縮させて男に刹那の死を与える。
「……っ!」
 どっと半身を倒した男は、荒い息をこぼす唇を探し当てると、未練がましく体を揺すりながら、口づけをねだる。
 絡まり合う二人の体は、隙間のないくらいぴったりと合わさっていた。
「困った……離れられる気がしない」
「じゃあ、離さないで」
 湯屋は濃密な香りで満たされている。白い湯気が流れて二人を包んだ。



      *****


多分この後部屋に戻っても・・・だと思いますが、それはまたいつか。
ユルディスのセリフに敬語が混じってしまうのは、仕様です。
彼は内部は複雑で、ミザリーの忠実な僕であった自分も肯定しているし、夫となった今と混在しているのです。
本日中にあと一話更新します。
明日完結です!
それにしても、私、お風呂好きだなぁ・・・(物語でもリアルでも)。
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