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49 故郷グリンフィルド 3
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「あむっ!?」
事態が把握できず、ばしゃばしゃ水を叩いて暴れるミザリーを、易々と封じ込めたのは、たくましい腕だった。
「な、な、なに? ユール! ユールなの!?」
ようやく唇が離れて空気を肺に送り込んだミザリーは、慌てて背中を向けて体を隠す。
「はい。失礼しました」
「しっ……失礼にも程があるわ! 私は入浴中なのよ!」
背中越しに怒鳴る。こんなに声を上げるのはいつぶりだろうか?
「今更だと思いますが」
「だめなものはだめです! 出て行きなさい!」
笑いを含んだ男の声に、ミザリーの自尊心が燃え上がった。
確かに先日は、この男に翻弄されてしまったが、ここは自分の育った家だ。いわば自分の絶対領域なのだ。
「嫌です」
だがユルディスは横柄に言い放ち、ますます濡れた半身を抱く腕に力を込める。
「俺はあなたの夫になる男だ」
「しれっとすごいことを言わないで! 私は制度上、まだルナール様の妻だし、あなたの求婚も受け入れていないわ! 離縁の手続きが進むのは、きっと春以降よ」
「形だけの関係など、夫婦とはいえません。ですが、制度に関してはもう少し早くなると思います」
ユルディスは、背後から肩の線に次々に唇を落としていく。湯で彼の服も濡れてしまうが、彼にとってはどうでもいいようだった。
「え? どう言うこと? お義父様は、少なくとも二月以上はかかるって……だってお忙しい国王陛下の許可とご署名がいるのよ」
「だから、俺は持てる手札の全てを使った」
「手札? 手札ってなに?」
「まずランサール将軍に手紙を送りました。次に我が父、カドウィンの長老に。彼らはすぐに書状を書いてくれるでしょう。本当は自分の力でどうにかしたかったのですが、情けないことに俺にはまだ、この国の国王を動かす力はないので」
「そんな力、ある人の方が稀よ! でも、どういうことなの? 書状ってまさか……」
「あなたと、エルトール子爵家の縁を、迅速に切ってほしいという依頼です」
「……」
「今頃は多分、書状が王宮に届いている頃だと。きっと通常の半分くらいの期間で、あなたはエルトール家から自由になって、そして……」
「ちょっと待って! ランサール将軍はともかく、あなたのお父上にそんな力があるの?」
ミザリーは慌ててユルディスの話を遮った。放っておくと、この男はなにを言い出すかわからない。
「カドウィン族は草原で最大の部族です。父は兄に部族の長の座は譲ったものの、草原の部族の中で最も尊敬されている長老なのです。そして草原の民がグレイシアに友好で、結束しているからこそ、グレイシアは東の脅威から守られているといえます。グレイシアは父の書状を無碍にはできない」
「……そんな父上のお力を、私的なことに使うなんて」
「その通りです。その影響力から逃れるために、俺は草原を離れて大陸中を放浪したと言うのに、我ながらざまはないと笑えます。ですが、あなたに関することなら、俺はいくらでも卑怯な手を使える。要は勝てばいい、これも草原の男のやり方だ」
「あなた、もしかして今までにも、裏から手を回してきたんじゃ……」
ミザリーは思い当たるアレコレを頭の中に浮かべた。
「否定はしません。俺はあなたが思っているほど良い男ではない」
「そんなこともう、欠片も思ってないわよ」
「ひどいな」
ユルディスは柔らかい耳朶を口に含んだ。
「あ! だ、だめ」
「あなたが悪いのです。夕食を持ってきたのに、湯の中に沈んでいるから。一瞬肝が冷えた。男は肝が冷えると、生殖器まで縮むことを知っていますか?」
「知らないわよそんなこと!」
首まで真っ赤染まるミザリーを、ユルディスは好もしそうに眺めた。それは湯のせいばかりではないようだ。
「本当に埋まるかと思ったのですよ。だからほんの少しの容赦を。元に戻さないと」
背後から抱きしめられたまま、男の唇が首を伝う。
「でもっ! 夕食を持ってきてくれたんでしょう? 冷めてしまうわ」
「暖炉で温めていますから、今だけ」
ユルディスは甘えるように首に顔を埋め、滑らかな肩を味わっている。大きな手は水に浸かった乳房を包み込んで揺れていた。
「あ……はぁ」
都の貴婦人たちはきつく胸を締め上げ、ほっそりしたシルエットを作ろうと躍起になっている。胸から腰までを覆う、硬いコルセットは体を曲げることも不自由だ。彼女たちは落としたものを拾い上げることすらしない。全て召使が行うからだ。
しかし、ミザリーは余程のことがない限り、コルセットをつけようとは思わなかった。体の自由を奪うものは嫌いだと、今は堂々と言うことができる。
だからこそのこの豊かな胸。
やわやわと揉みしだく掌は、一番敏感な部分に触れようとはしない。ミザリーは無意識に、その頂を硬い掌に押し付けようと体をよじった。
「あ……んんん」
「大きくて柔らかい。最高の胸だ……こっちを向いてくれませんか?」
「い、嫌」
「つれないお方だ。なら」
ずうずうしい手が乳房の間を通って下腹を撫で、更にその下へと滑り込もうと画策している。
「あっ! それはだめ!」
ミザリーが足を閉じようとするが、長い指先は、巧みに小さな隙間から奥へと侵入していく。
「……っ……く!」
敏感な部分に触れられて、ミザリーの腰がのけぞった。ユルディスにもたれかかった体勢は非常に扇情的で、半開きになった唇がすかさず吸い立てられる。
その指先は、ミザリーの深いところを器用に摩った。
「ミザリー……俺の鷹の娘!」
「あっ……あぅ!」
ばしゃり
水音を立ててミザリーが脱力する。
「愛らしい体だ。ああ、待ちきれない」
「……」
びしょ濡れの髪の間から、恨みがましい目で睨みつけるミザリーに軽く口付けて、ユルディスは笑った。
彼の服も濡れそぼっている。彼の様子からすると、埋没しそうになった箇所は十分回復したようだ。見なくてもわかる。
けれど、今度も彼は最後までしようとはしなかった。
ミザリーの心と体の準備ができるのを、辛抱強く待ってくれている。彼の方にも何か縛りがあると思われるが。
「茹ってしまいまいたね。申し訳ありません。風邪をひくといけないからよく拭ってください。それとも俺が拭きましょうか?」
「……結構よ」
ミザリーは両手で自分を抱きしめている。部屋の床はびしょ濡れで、後で拭いておかないと変に思われるだろう。
「飲み物を用意しましょうか?」
「ええ。うんと冷たくしておいて。それから給仕はベスを呼んでちょうだい」
背中ごしにミザリーは言った。
ああ……私はこんなに、はしたない女だったの?
まだルナール様と別れてもいないのに、こんなになってしまっている。
ああ、嫌だわ!
「まだもっと欲しいものがあるだなんて!」
体の奥が疼いている。
小さな浴槽の中でミザリーは頭を抱えた。
*****
Twitterに浴槽のイメージがあります。
事態が把握できず、ばしゃばしゃ水を叩いて暴れるミザリーを、易々と封じ込めたのは、たくましい腕だった。
「な、な、なに? ユール! ユールなの!?」
ようやく唇が離れて空気を肺に送り込んだミザリーは、慌てて背中を向けて体を隠す。
「はい。失礼しました」
「しっ……失礼にも程があるわ! 私は入浴中なのよ!」
背中越しに怒鳴る。こんなに声を上げるのはいつぶりだろうか?
「今更だと思いますが」
「だめなものはだめです! 出て行きなさい!」
笑いを含んだ男の声に、ミザリーの自尊心が燃え上がった。
確かに先日は、この男に翻弄されてしまったが、ここは自分の育った家だ。いわば自分の絶対領域なのだ。
「嫌です」
だがユルディスは横柄に言い放ち、ますます濡れた半身を抱く腕に力を込める。
「俺はあなたの夫になる男だ」
「しれっとすごいことを言わないで! 私は制度上、まだルナール様の妻だし、あなたの求婚も受け入れていないわ! 離縁の手続きが進むのは、きっと春以降よ」
「形だけの関係など、夫婦とはいえません。ですが、制度に関してはもう少し早くなると思います」
ユルディスは、背後から肩の線に次々に唇を落としていく。湯で彼の服も濡れてしまうが、彼にとってはどうでもいいようだった。
「え? どう言うこと? お義父様は、少なくとも二月以上はかかるって……だってお忙しい国王陛下の許可とご署名がいるのよ」
「だから、俺は持てる手札の全てを使った」
「手札? 手札ってなに?」
「まずランサール将軍に手紙を送りました。次に我が父、カドウィンの長老に。彼らはすぐに書状を書いてくれるでしょう。本当は自分の力でどうにかしたかったのですが、情けないことに俺にはまだ、この国の国王を動かす力はないので」
「そんな力、ある人の方が稀よ! でも、どういうことなの? 書状ってまさか……」
「あなたと、エルトール子爵家の縁を、迅速に切ってほしいという依頼です」
「……」
「今頃は多分、書状が王宮に届いている頃だと。きっと通常の半分くらいの期間で、あなたはエルトール家から自由になって、そして……」
「ちょっと待って! ランサール将軍はともかく、あなたのお父上にそんな力があるの?」
ミザリーは慌ててユルディスの話を遮った。放っておくと、この男はなにを言い出すかわからない。
「カドウィン族は草原で最大の部族です。父は兄に部族の長の座は譲ったものの、草原の部族の中で最も尊敬されている長老なのです。そして草原の民がグレイシアに友好で、結束しているからこそ、グレイシアは東の脅威から守られているといえます。グレイシアは父の書状を無碍にはできない」
「……そんな父上のお力を、私的なことに使うなんて」
「その通りです。その影響力から逃れるために、俺は草原を離れて大陸中を放浪したと言うのに、我ながらざまはないと笑えます。ですが、あなたに関することなら、俺はいくらでも卑怯な手を使える。要は勝てばいい、これも草原の男のやり方だ」
「あなた、もしかして今までにも、裏から手を回してきたんじゃ……」
ミザリーは思い当たるアレコレを頭の中に浮かべた。
「否定はしません。俺はあなたが思っているほど良い男ではない」
「そんなこともう、欠片も思ってないわよ」
「ひどいな」
ユルディスは柔らかい耳朶を口に含んだ。
「あ! だ、だめ」
「あなたが悪いのです。夕食を持ってきたのに、湯の中に沈んでいるから。一瞬肝が冷えた。男は肝が冷えると、生殖器まで縮むことを知っていますか?」
「知らないわよそんなこと!」
首まで真っ赤染まるミザリーを、ユルディスは好もしそうに眺めた。それは湯のせいばかりではないようだ。
「本当に埋まるかと思ったのですよ。だからほんの少しの容赦を。元に戻さないと」
背後から抱きしめられたまま、男の唇が首を伝う。
「でもっ! 夕食を持ってきてくれたんでしょう? 冷めてしまうわ」
「暖炉で温めていますから、今だけ」
ユルディスは甘えるように首に顔を埋め、滑らかな肩を味わっている。大きな手は水に浸かった乳房を包み込んで揺れていた。
「あ……はぁ」
都の貴婦人たちはきつく胸を締め上げ、ほっそりしたシルエットを作ろうと躍起になっている。胸から腰までを覆う、硬いコルセットは体を曲げることも不自由だ。彼女たちは落としたものを拾い上げることすらしない。全て召使が行うからだ。
しかし、ミザリーは余程のことがない限り、コルセットをつけようとは思わなかった。体の自由を奪うものは嫌いだと、今は堂々と言うことができる。
だからこそのこの豊かな胸。
やわやわと揉みしだく掌は、一番敏感な部分に触れようとはしない。ミザリーは無意識に、その頂を硬い掌に押し付けようと体をよじった。
「あ……んんん」
「大きくて柔らかい。最高の胸だ……こっちを向いてくれませんか?」
「い、嫌」
「つれないお方だ。なら」
ずうずうしい手が乳房の間を通って下腹を撫で、更にその下へと滑り込もうと画策している。
「あっ! それはだめ!」
ミザリーが足を閉じようとするが、長い指先は、巧みに小さな隙間から奥へと侵入していく。
「……っ……く!」
敏感な部分に触れられて、ミザリーの腰がのけぞった。ユルディスにもたれかかった体勢は非常に扇情的で、半開きになった唇がすかさず吸い立てられる。
その指先は、ミザリーの深いところを器用に摩った。
「ミザリー……俺の鷹の娘!」
「あっ……あぅ!」
ばしゃり
水音を立ててミザリーが脱力する。
「愛らしい体だ。ああ、待ちきれない」
「……」
びしょ濡れの髪の間から、恨みがましい目で睨みつけるミザリーに軽く口付けて、ユルディスは笑った。
彼の服も濡れそぼっている。彼の様子からすると、埋没しそうになった箇所は十分回復したようだ。見なくてもわかる。
けれど、今度も彼は最後までしようとはしなかった。
ミザリーの心と体の準備ができるのを、辛抱強く待ってくれている。彼の方にも何か縛りがあると思われるが。
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「……結構よ」
ミザリーは両手で自分を抱きしめている。部屋の床はびしょ濡れで、後で拭いておかないと変に思われるだろう。
「飲み物を用意しましょうか?」
「ええ。うんと冷たくしておいて。それから給仕はベスを呼んでちょうだい」
背中ごしにミザリーは言った。
ああ……私はこんなに、はしたない女だったの?
まだルナール様と別れてもいないのに、こんなになってしまっている。
ああ、嫌だわ!
「まだもっと欲しいものがあるだなんて!」
体の奥が疼いている。
小さな浴槽の中でミザリーは頭を抱えた。
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