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第19話:一瞬の救出劇

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「切腹します」
「なぜ!?」

 フィルト君から離れて、床に再び力無く座り込む私に、フィルト君は珍しく声を張ったツッコミを入れた。

「責任を取り、こう、ザクッと…」
「どうしてそういう結論に至るんですか…」
「アイネス、今助けるぞ!」

 待て待てお前は待て。現時点での戦闘力に関しては私と同レベルなんだから!

「アイちゃん、今助けるよっ!」

 お前も待て、さっきの壁の崩壊を忘れたの!?

「落ち着いて下さいお二人とも!無闇に突っ込んではいけません!」
「アイネスに触れるなと言っているだろう!!」
「あの、殿下!?待っ────」

 私の制止もお構いなしに突っ込んでいったジーク。

 侵入者が軽く投げたナイフが、ジークの腕をスパッと切りつける。

「ぐぁあっ!」
「きゃああっジーくぅん!」

 言わんこっちゃない!

「…軽い切り傷程度であんなに叫びますかねぇ」
「しっ。」
「ぼ、僕が…!」

 ジークの怪我を見て怖気付いたらしく、エディは足が震えて動けていない。

 戦闘不能になった攻略対象達。残るはフィルト君とツララと私。

 (二人は強いけど、強いからこそ、魔法を使うとアイネスちゃんを巻き込んでしまう危険性がある…)

 フィルト君とツララも新入生、まだ入学したばっかりだ。敵のすぐ近くにいる味方を巻き込まないようにするための精密な魔力コントロールは、さすがの二人でも出来ないと思う。

 となると…魔法の威力がそれほどでもない私だけ、魔法が使えるっていうことになる。

 (なんとか、隙を作れれば……)

 侵入者と二人が睨み合う。
 私はその脇で、必死に頭を回していた。

 (そこそこダメージを与えられて、かつ、ヒロインさんを巻き込むことのない魔法…私が放った後、フィルト君やツララがすぐに救出に向かえる魔法は────)

 ふと、一週間前の魔法演習を思い出す。

 (…あった。アレなら使えるかも。)

 範囲は狭い、当たればそこそこのダメージ、そして後には残らない。

 私は右手を背中に隠しながら、その人差し指に魔力を集中させる。
 侵入者は、私を全く警戒していない。

 撃つなら今だ。

「“水鉄砲ウォーターガン”!」
「ぐっ!?」
「よしっ…!」

 (命中!アイネスちゃんを捕まえる侵入者の手の力が弱まった…!)

「フィルト君、ツララ様!」

 私の言葉を合図に、二人は床を蹴って飛び出そうとした。

 しかし。それよりも先に何者かが飛び出していって、二人はすぐに足を止めた。

「ぐあっ!!」
「!?」

 その“何者か”の長い足が、見事に侵入者の顔面にヒット。
 蹴られた勢いで、侵入者は吹っ飛ぶ。

 捕まっていたアイネスちゃんごと吹っ飛んでしまわないかと思いきや、侵入者を蹴り飛ばした人物は、アイネスちゃんだけを抱えて救出。こちら側にスタッと着地した。

 すぐに降ろされたアイネスちゃんは、驚きながらもときめいている。
 私たちは一瞬の救出劇を目の当たりにして、茫然とする。
 フィルト君だけは、あははと笑って、現れた人物に話しかけた。

「そっか、捜索部隊がいたんでしたねぇ。───助かりましたよ、ギンガ殿下。」

 シルバーの髪に真っ赤な瞳。
 その人物とは、この国の第二王子であり攻略対象2である、ギンガ・ルシー・クリスロットだった。

「あー、こちらギンガ。侵入者を発見した。人質は救出済み。すぐに捕らえる。」

 恐らく通信魔法を使ったギンガの報告と同時に、屋内にも関わらず草木の音が聞こえてきた。
 なんだろうと振り返って見て、ぎょっとする。

 相当ふっとんだようで遠くでのびていた侵入者が、見るからに丈夫そうな蔦で、ギチギチに拘束されていたのだ。

 (うわあ、苦しそう…あれって木属性魔法の拘束だよね、一体誰が……んん?)

 見たことある、それどころか毎日見ている人物が、そこにはいた。
 思わず目をこすって何度も見直す。

 (えっ…え?見間違い…?)

 木属性魔法を使う女性…ライトグリーンの髪と瞳を持つ、キリッとした顔つきの…

「……ソフィアッ!?」

 私がすっとんきょうな声を上げると、その女性───私のメイドであるソフィアは、こちらを向いた。
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