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第3話:ヒロインのお隣

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 入学式が終わり、生徒はそれぞれの教室へ。

 私は当然ヒロインさんと同じクラスで、隣の席だ。なんてったって私の役割は『ヒロインのお隣令嬢』。

 目指すは“筋書きシナリオ通り”のストーリー進行。
 まずは、ヒロインであるアイネス・ローズドロイドと仲良くなるところから。

 どう動こうかと悩んでいると、突然、鈴を転がしたような可愛らしい声で話しかけられた。

「あの、初めまして。」
「えっあっ、ハイ!」

 予想外なことに、向こうから声をかけてきてくれた。
 不意に美少女に声をかけられてドギマギする私。いけない、これから親しくなる予定なんだから、平常心を保てるようにしないと…

「シルク様、ですよね。よろしくお願いします。」

 ニコリと笑うヒロイン・アイネス・ローズドロイド、やっぱり直視するには眩しすぎる。サングラス、サングラスがほしい。

「はい、よろしくお願いします。アイネスさん。」

 ところでアイネスは完璧な容姿と稀少な魔法属性を持っているけれど、貴族ではない。王都の外れの町にあるお菓子屋さんの娘で、平民の身分。
 乙女ゲームのヒロインとしてはよくある設定だ。

「この庶民が」と令嬢達からいじめられて、攻略対象が庇うことで恋愛に発展…ヒロインは庶民設定の方がストーリーを作りやすく都合が良い。

 そして私は一応令嬢なので、身分的には私の方が上。だからヒロインさんは私を様付けで呼んで、私は彼女をさん付けで呼ぶ。

 どうして『ただのお隣さん』である私が、彼女より格上の貴族なのか。
 ヒロインはまず“平民”という点で、他のキャラクターと差別化がされている。
 となると制作側は、お隣モブ──つまり私──のことは“ごく普通な無難な令嬢”設定にするしかないわけだ。

 (…とはいえ、この子に様付けされるのはなんというか、恐れ多い。すっごいやりにくい……)

 …ちょっとぐらいなら、勝手してもいいかな。

「アイネスさん。私のことは、“シルク様”なんてかしこまった呼び方をしなくても大丈夫ですよ。」
「えっ?」

 突然の私の言葉に、目を丸くするヒロインさん。
 貴族からいきなり遠回しに『様付けしないで』なんてことを言われたら、そりゃあ驚く。

「せっかくお友達になれたのだから、仲良くし…」

 (あっやばい、先走って勝手に友達認定しちゃった)

 どんな反応をされるか…と思ったら、ヒロインさんは嬉しそうににっこり。

「嬉しいです!では改めて、よろしくお願いします、シルクちゃん。」
「ええ。よろしくお願いします、アイネスちゃん。」

 私は胸を撫で下ろしながら、にっこりと笑い返す。

 モブ令嬢シルク、初日にして無事、お友達&ヒロインのお隣ポジションをゲット。第一ミッションクリアだ。


「ふふっ…」

 (……ん?)

 アイネスちゃんの口からこぼれた不敵な笑み。
 それが引っかかり、私は思わず彼女を二度見する。

 今の笑い方はなに。
 密かに口角上げて、意味ありげに笑ったよね。
 なんで?

 思わず凝視していると、アイネスちゃんはこちらを見てハッとした。
 そして再びにっこりと笑い直す。

「シルクちゃん、どうかなさいましたか?」

 さも何事も無かったかのように、可愛らしく小首をかしげてそう聞いてくるアイネスちゃん。

 「えっ、ああいえ、何でもありませんことよ。おほほ…」

 おほほじゃないよ。我ながら誤魔化し方が下手くそすぎる。

 (さっきの笑い方…なんだろう、分からないけど…嫌な予感が…)

 さっきまでは神々しく眩しかったヒロインさんの笑顔。
 途端に、それが全て作られた笑顔に見えてきて、私は密かに腕をさすった。
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