彼女はウソつき

タニマリ

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彼女はウソつき 中編

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昨日のスズメちゃん超可愛かったな。


普段ツンケンしてる子がああやって照れるのって破壊級の可愛さだな。
あれが世にいうツンデレってやつか。
隣に座るスズメちゃんを横目で見ながらニヤニヤしてたらいつの間にか昼休みの時間になっていた。
午前中の授業、なーんも頭に残ってない。





「トオギ…スズメちゃんにマジ惚れしたんとちゃうやろな?」

ギクッ……
昼飯を食べながら昨日の出来事を二人に話したら、チロから疑いの目を向けられてしまった。
ちょっとニヤけすぎたかな……

「ま、まさかっ!それよりも、スズメちゃんの方が俺に気がありそうじゃね?」
「アホかっ!そんなもんトオギが清純派が好きや言うたから純情なフリをしたんやろっ。」

えっ……昨日のあれも演技だと?
俺ってまたしてもヤラれたの?

「俺らの五千円もかかっとんのやぞっ?トオギの方が押されっぱなしやないけ!」

うっ……
ハッキリと否定出来ないのが悔しい。




「スズメちゃんが入ってったアパートって、トオギの家の近くにある緑の屋根のとこ?」

イチ君が聞いてきたので俺はうなづいた。
スズメちゃんと分かれたあと、どんなとこに住んでるのかが気になってあとをつけてしまった。
なにやってんだ俺。まるでストーカーじゃん……

「あそこは単身者専用賃貸物件だったはずだ。」
「単身専用?」
てことはスズメちゃんはあのアパートに一人で住んでるってことになる。

「二年生の二学期に親の都合でもなく、わざわざ一人で転校してくるなんて。彼女ワケありなんじゃないか?」

確かにイチ君の言う通りだ。
高校のこの中途半端な時期に転校してくるなんてよっぽどだ。
一人暮らし出来るんならそのまま前の高校に残れば良かったわけだし……
イチ君が窓の外を見てコンコンとガラスを指で叩いた。
見ると中庭のベンチに座ってスズメちゃんが一人でお弁当を食べていた。


「それをトオギがさり気なく聞き出して力になってあげたら……?」
イチ君が俺を見てニッと笑った。


「俺にもまだ勝算があるってことだなっ!」


俺はうっしゃあ!と気合いを入れて中庭へと猛ダッシュした。





「なぁイチ君。トオギにそんな器用なマネが出来ると本気で思ってるんか?」
「俺はあいつのことをガキの頃からよ~く知ってるけど、あの単純バカにはムリ。」

「……じゃあなんでけしかけたん?」
「おもしろくね?」

「イチ君…ワルやな。」


俺が去っていったあと、二人がこんな失礼な会話をしてるだなんて知る由もなかった。











張り切って中庭まで来たもののどうやって切り出しゃいいんだろ……
だいたいワケありのワケってなんだ?
都会からこんな海しかないような街に一人で引っ越してくる理由って一体なんだよ。
スズメちゃんの家族はどこに住んでるんだ?



神様でも…
帰る家が無くなっちゃうんだね──────



あの時言ってたスズメちゃんの言葉……


スズメちゃんて……

家族、いるのかな?






「トオギ君。さっきから木の影でブツブツ独り言いってるの気持ち悪いんだけど?」

やっべ…いつの間にか声に出てた。
離れてたから内容までは聞こえてないよな。

「こんな暑いとこでよく弁当が食べれるな。」
「そう?木陰だから結構涼しいよ。」

本当は優しく声をかけるつもりだったのに…なに減らず口叩いてんだ俺っ。
スズメちゃんの座ってるベンチに間を開けて腰掛けた。
チラッと見えたお弁当が思ってた以上に美味しそうだ。
これってスズメちゃんが作ったんだよな。
意外と家庭的じゃん。


「なに?食べたいの?」

俺、そんなに物欲しそうにジロジロ見てたのかな……
「うん食べたい。卵焼きちょうだい。」
誰があんたなんかにっと怒られると思ったのだが、スズメちゃんは箸で卵焼きを一切れつまむとアーンとしてくれた。

「トオギ君、ヒナ鳥みたい。」

そのままパクっと食べた俺を見て、スズメちゃんは可笑しそうにクスクスと笑った。
へぇ…スズメちゃんて笑ったら目尻がクニャッと下がるんだ。
濃いアイメイクのせいでつり目に見えてるだけで、すっぴんはタレ目なのかもしれない。


「スズメちゃんて絶対すっぴん可愛いよな?」
「いきなりなに言ってんのよ。」

「今度俺にだけすっぴん見せてよ。」
「だからなに言ってんの?」


スズメちゃんの頬が赤くなっている。
これは演技なんかじゃない。
スズメちゃんは俺が思ってるよりずっと純真なのかもしれない……


「スズメちゃん。今度デート行こ?俺の弁当も作って。」
「なんで私が……」

「いいじゃんっ。スズメちゃんが行きたいとこどこでも連れていってあげるから。」


スズメちゃんのそばまでグッと近寄り、箸を持っていた手を握った。
間近で目が合ったスズメちゃんの顔はカ──っと真っ赤になり、瞳は困ったようにユラユラと揺れていた。





「あ、いたいたーっトオギくーん!」

名前を呼ばれた方を振り向くと、委員長とクラスの女の子達が手を振っていた。
委員長が俺にでかい包みを手渡してきた。
なんだこれ?

「家庭科の授業でクッキー作ったんだけど、作りすぎちゃって。良かったらもらって。」
私も私も~と他の子からも可愛い小包に入ったクッキーをもらった。
家庭科で作ったクッキー…てことはスズメちゃんも作ったんだよな?
スズメちゃんも俺にくれたりなんかしないのかな?とチラりと見たのだが……
スズメちゃんは興味無さそうにお弁当箱を包んでベンチから立ち上がった。

「ちょっ、ちょっと待ってよスズメちゃん!まだ返事聞いてないっ。」
去ろうとしたスズメちゃんを慌てて引き止めた。


「トオギ君はデートに行く相手には不自由してないでしょ?」
「俺はスズメちゃんと行きたいんだ。」   

「トオギ君がこうやって私に話しかけてくるのって賭けがあるからだよね?」


それはそうなるのかも知れないけれど……
でもそれだったらスズメちゃんがこうやって俺と話をしてくれるのも賭けがあるからなのか?
胸の奥がズキンと傷んだ。
スズメちゃんは小さくため息を付き、俺の方をキッと睨んだ。



「もう私の負けでいいから、賭けは終わりにしよ。」



傷んだ胸の奥が、さらにギューっと締め付けられる……

「なに言ってんだよ……」

賭けは俺の負けだし……
そんなの…そんなのもうとっくに負けてたし!




「スズメちゃん…俺はっ……」
「私にもう構わないでっ!」




手を伸ばせば直ぐに届く距離なのに、スズメちゃんがとても遠くにいるように感じた。
スズメちゃんが抱えているものが、俺にはなにも見えない……

「……そんなこと言うなよ。俺はもっとスズメちゃんのことが知りたいっ。」
もっと知って、もっと好きになりたい。
好きにならせてもくれないのか?


「……トオギ君だって…私のこと知ったら離れていくよ……」


去り際にスズメちゃんが絞り出すように吐いた言葉……

その真意を確かめたくても、完全に俺との間に壁を作ってしまったスズメちゃんに……
聞き出す勇気が、俺にはなかった──────















今日で三日目。俺の隣の席はぽっかりと空いたままだった。
スズメちゃんは体調を崩して休んでるようなのだが、俺にはお前の顔を見るのも嫌だと言われてるように感じて辛かった。

くそっ……俺のなにがダメだったんだよ。
ず──っとスズメちゃんのことばかり考えてて気が狂いそうだ。

デートにしつこく誘ったのがダメだったのか?
別に取って食おうって言ってんじゃあるまいし。
そりゃ手とか握ったり、あわよくばキスぐらいしちゃうかもしれないけど。
いや、ベロチュウまでならやっちまうかもだけど……


「トオギ~また口に出して言うとるぞ。授業中やねんからエロいのは慎まなあかんで。」

前の席に座るチロに小声で注意された。
これが言わずにやってられっかっ!
俺は今すぐ会いたいんだよっ、スズメちゃんに!!

「チロっ俺は……!」

後ろからチロの胸ぐらをむんずと掴み、片足を机に蹴り上げて思いっきり叫んだ。


「初めては行き釣りの女となんかじゃなく、好きな子とヤリてーんだよ!!」
「わ────っ!!正気かトオギ?!今は授業中や言うとるやろうがっ!!」









暑さと苛立ちで頭がおかしくなってたようだ。

「……悪ぃチロ。」
「ホンマやで!なんで俺まで反省文書かされなあかんねんっ!」

授業中騒いだ罰として、放課後残って反省文を書かされることになってしまった。
巻き添えを食わしてしまったチロには本当に申し訳ない……


イチ君もそんな俺に付き合って残ってくれていた。

「眞白 スズメなんて珍しい名前だし、ネットで検索したらなんかわかるかもな。」
「いや、それは止めとく…スズメちゃんの口からちゃんと聞きたい。」

イチ君の言う通りにした方が手っ取り早いのだろうけれど、それだとスズメちゃんを本当の意味で知ったことにはならないと思うんだ。

でも賭けが終わってしまった今、なにを聞いても相手なんてしてくれない気がする。
もう構わないでとはっきり言われてしまった……
俺は嫌われてしまったのかな……



「まあそう焦んな。トオギは良い男なんだからもっと自信持て。なにかあった時はいつでも力になるし。」

イチ君とは小学一年生の時に同じクラスになってからの付き合いだ。
俺の事をよく理解してくれてるし、困った時は必ず助けてくれる兄貴みたいに頼れる存在だ。
イチ君、口悪いとこあるけど優しいんだよな……

「おっともうこんな時間…今日は先帰るわ。彼女とデートなんで。」
イチ君は俺の頭をクシャクシャっとしてから出ていった。
最後の一言は今の俺にはかなり余計だったな。
チロもイチ君が去っていった方に向かってリア充めっと言ってブーイングをしていた。


「トオギ、俺も応援するっ。スズメちゃんの過去がどんなんであれ、おまえが守ったったらええねんからな。」

チロ………

「もおーおまえらっホント大好き!」
「ぐはっ…止めろ抱きつくな!俺そんな趣味ないわ!」



そうだよ。
1回拒絶されたくらいで凹んでてどうする。
嫌われようが、このまま終わらせていいわけがない。















俺は今、スズメちゃんの住むアパートの前に来ていた。

一人暮らしで体調を崩すって大変なんじゃないだろうか。
凹んでなんかいずにもっと早くに来るんだった。

アパートの入口はオートロック式になっていて、部屋番号を入力して開けてもらわなければ入ることが出来ない。
何号室だろう…2階の左から3番目の部屋に入って行ったのは覚えてんだけど……

「お兄ちゃんなんかここに用かい?」

エントランスのインターフォンの前で悩んでいたら大家さんらしき人に声をかけられた。
眞白さんの同級生で休んでる間のプリントを届けにきたのだと礼儀正しく説明したら中に入れてもらえた。
お兄ちゃん頑張りや~と励まされてしまった。



急に来てしまったけどドア開けてくれるかな。
緊張しながらも部屋のチャイムを鳴らして汐田ですと伝えると、ドアはすんなりと開いてスズメちゃんがひょっこりと顔を出した。

「うわっ、なんでパジャマですっぴんなの?!」
「……体調崩してるんだから普通は寝てるでしょ?」

そうだった。焦った。
ヤバイぞ…想像してた以上にすっぴんが可愛すぎる。
俺のタイプ、ストライクど真ん中だっ。

「……トオギ君。その心の声がダダ漏れになるのどうにかならない?」
「仕方ねえじゃん。本音なんだからっ。」

スズメちゃんはため息を付きながらプリントを受け取った。
それと、コンビニで買ってきたスポーツドリンクやゼリーなんかも手渡した。

「体調どう?風邪?」
「夏バテだと思う。今までずっと電車通学だったから……」
あの炎天下の中を自転車で通学するのは俺でも辛い。
スズメちゃんは都会育ちだったしな……

「もう大分マシだし明日は学校に行けると思う。わざわざありがとう。」
そう言ってスズメちゃんはドアを閉めようとした。
待て待てっ俺の目的まだ終わってない。
俺は閉まりかけたドアを無理矢理こじ開けた。

「きゃっ。なっなに?」

怯えたように驚くスズメちゃんの肩を、そっと両手で掴んだ。


「……新たな勝負をスズメちゃんに挑みに来た。」


スズメちゃんがここに引っ越してきたワケなんてどうでもいい…なんて言ったらウソになる。
出来ることならそのワケをスズメちゃんの口から直接聞きたい。
でもその時をただ黙って待てるほど俺は大人じゃない……


「スズメちゃんを俺に惚れさせたら、俺の勝ち。」


好きな子にはちゃんと好きだって言いたい。
好きな子の、一番そばで守ってあげたい─────


「言ったよね?もう構わなっ……」
「俺が勝ったらっ!」

スズメちゃんが言いかけた言葉を俺はさえぎった。




「俺が勝ったら付き合ってくれ。」





スズメちゃんは、驚きとも悲しみとも戸惑いとも取れるような複雑な表情をして俺の事を見つめていた。
掴んでいたスズメちゃんの肩がとても熱っぽくなって…小さく震えているのが伝わってきた。
そこにはいつもの強気なスズメちゃんの姿はどこにもなかった。
今にももろく…崩れてしまいそうで……

ダメだ……
これ以上一緒にいたら強引に抱きしめて止まらなくなりそうだ。


「病み上がりにゴメン。俺…本気だから。」


スズメちゃんのおでこに自分のおでをコツンと合わせ、込み上げてくる感情をなんとか抑えた。
じゃあまた明日と、自分自身に踏ん切りをつけるように言ってからその場をあとにした。
















次の日の朝、スズメちゃんの家に続く分かれ道のところでしばらく待ってみたのだけれど、スズメちゃんは現れなかった。
もしかして今日も来ないなんてことはないよな?
その原因が俺の昨日の告白のせいだとか言われたら、俺もう泣いちゃう……
重い足取りで学校へと自転車をこいだ。



「トオギっ、ちょっとこっち来い。」

下駄箱に着くとイチ君が血相変えてやって来て、俺を体育館の裏まで引っ張っていった。
こんなに慌ててるイチ君を見たのは初めてかもしれない。


「イチ君、なに?」
「今日の朝、全校生徒の下駄箱にこの怪文書がランダムに入れられてたんだ。」

イチ君の手にはたくさんの紙が握られていた。
その紙に大きく書かれていた文字を見て俺は愕然とした。





『二年C組、眞白 スズメの母親はヒトゴロシ。』






──────なんだよ…これ………



「裏にはご丁寧にもネットから拾ってきた低俗な週刊誌の記事まで載せてやがるよ。」

イチ君に託され、裏をめくる……
ウソだろ?スズメちゃんが、こんな……
そこに書かれていたことを読んでいたら吐きそうになってきた。


それはスズメちゃんの母親、眞白 真奈美《まなみ》が二年前に侵した殺人事件について、スキャンダラスに書かれていた。


未亡人、娘の担任と淫らな恋。
娘に寝取られ嫉妬のあまり恋人を殺害。

眞白 真奈美は夫を事故で亡くし、その後中学生だった娘の担任、田所 裕司と恋人関係となった。
昨年の9月19日午後5時50分ごろ、眞白が自宅に帰ると娘の部屋で田所と娘がベットで真っ最中だったところを発見。
逆上した眞白は鈍器のようなもので田代の頭を殴打して殺害した。

その現場を、眞白の娘はどのような思いで見ていたのであろうか……
自分がしたことにより、母親を殺人者にしてしまったのだ。


その記事にはスズメちゃんの顔写真まで実名入りで載っていた。
まだあどけない、中学三年生のスズメちゃんが海で微笑んでいる写真だった。




スズメちゃんがこの街に一人で引っ越してきたワケってこれなのか?
余りにも生々しい記事に持つ手が震える……
信じるな…こんなのはデタラメだ。
スズメちゃんがこんな子のはずがない。



「下駄箱にまだ残ってたのは全部回収した。でももう持ってったヤツもいて…チロが他の人には口止めしてもらうように学校中を走り回ってくれてるんだが……」

誰がこんな悪質なことをしたんだ?
これじゃあウワサが回るのなんて時間の問題だ。
そんなことになったらスズメちゃんが学校に居れなくなる。


「大変やっ!二人ともすぐ教室まで来てくれっ!」

チロに連れられ、俺達は自分のクラスの教室へと急いだ。
教室の前の廊下では、クラスメイトがザワつきながら中の様子を眺めていた。
なんなんだこの状況は?

「チロ…みんななんで中に入らないんだ?」
「カギがどっかいってもうたからやっ。今委員長がスペアキー借りに行ってくれてるらしいけど…それよりも窓から黒板見てみぃ!」

そこには怪文書と同じ文字が黒板全体にチョークで書かれていた。
『眞白 スズメの母親はヒトゴロシ。』って……

予鈴が鳴った。
スズメちゃんが来てあの黒板を見るのだけは避けたい。
俺は近くの窓ガラスを拳でぶん殴った。
痛ってぇ…ガラスって思ったより硬い。

「なにやっとんねんっトオギ?!」
「スズメちゃんが来る前にあの黒板を消したいんだよ!カギがないなら無理矢理入る!」

「……トオギはホンマに単純バカやなぁ。まあここは俺に任せろ。」

チロは大阪にいる時は格闘技を習っていた。見た目の割にはめっぽう強い。
チロが足を高く上げて窓ガラスを蹴り割ろうとしたのをイチ君が慌てて止めた。

「おまえらはバカか!鞄とかホウキを使えっ。怪我するだろっ!」

イチ君の言う通りだ。
頭に血が上っていた。少し冷静にならないと……
俺が自分の鞄を大きく振り上げた時、ようやく委員長がスペアキーを持って帰ってきた。

「早くっ、早く委員長カギ開けて!」
「待ってトオギ君。手が震えちゃって……」

委員長のすぐ横で急かしていると、廊下でザワついていたクラスメイトがシーンと静まり返った。
まさか……



クラスメイトの視線を一心に浴びて、スズメちゃんが立っていた。




男子生徒がニヤニヤしながらスズメちゃんに近寄る……
「なあ、眞白。この記事って事実?おまえ担任の先生とヤッたの?」
あの野郎…なんてこと聞きやがるんだっ!

「止めなよ!担任の先生を好きになるなんてよくあることじゃん。」

俺が動くより先に、委員長がその男子生徒からスズメちゃんを庇うように間に割って入った。


「悪いのは眞白さんのお母さんであって眞白さんは恋をしただけ。そうよねっ眞白さん?」






「……バカみたい。」




スズメちゃんは冷めたトーンでポツリと吐いた。

スズメちゃんの顔は氷のように冷たくて、自分のことを庇ってくれた委員長を冷ややかに見つめていた。
全ての物を拒絶するかのようなその態度に、みんなヒソヒソと騒ぎ出した。

「なにあの態度…怖すぎ。」
「さすが母親の彼氏とヤッちまう女は違うよな。」

なんでみんなあんな記事を信じるんだよ。
スズメちゃんもスズメちゃんだ…そんな煽るようなことしたらますます事態が悪化するだろ……


「なんなのこの騒ぎは!」
本鈴が鳴って担任の先生がやってきた。


「先生。私がいたんじゃ騒ぎが収まらないと思うので帰ります。」


スズメちゃんはそれだけ言うとクルッと後ろを向き、何事もなかったかのように廊下を歩いていった。




俺……
なに黙って見送ってんだよ!!

追いかけるとしてどう声をかけたらいい?
今のスズメちゃんを励ます言葉って……
はっきり言って俺の頭なんかじゃ思いつかない。




いや…言葉なんて……


言葉なんていらないっ───────







「イチ君。お店のシーカヤックって今から借りれる?」
「多分大丈夫。二人乗り用だよな?親父に連絡入れとく。」

「チロっあの黒板消しといてくれ!」
「あいよ。こっちのことは全部任せとけや。」


二人にバシッと背中を叩かれ、俺はスズメちゃんのあとを追いかけた。










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