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32.舞踏会(3)
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改めて挨拶回りを再開しようという話になった時、いきなり辺りが騒ついた。しかも、その騒つきが二人に近づいてくる。
ルチアは不思議に思ってそちらに視線を向けた。
その中心には高貴なオーラを纏った美青年がおり、その美青年がゆっくりと近づいてくる。
サラサラのプラチナブロンドの髪に青い瞳の美青年の名前は、ルチアでも知っていた。
グリアム第一王子殿下。リリーが話していた留学から帰ってきた正真正銘の王子で、この舞踏会の主役である。
ダークグリーンのタキシードを身に纏い、颯爽と現れた王子は、爽やかな笑顔を浮かべ二人の前で立ち止まった。
「コンスタンツィ卿、お久しぶりです」
グリアムが話しかけたのは、レオポルトだった。
知り合いなのかと一気に緊張が走る。
「お久しぶりですグリアム殿下。ご帰国おめでとうございます。お元気そうでなによりです」
レオポルトが礼をしたので、ルチアも慌ててそれに倣う。
「ありがとう。帰国したらコンスタンツィ卿が結婚したと伺ったのでお祝いをと思ったんです。おめでとうございます」
「ありがたいお言葉です」
冷静に対応するレオポルトをすごいなと思いつつも、ルチアは緊張で胃が痛くなりそうだった。
「そちらの女性が奥様ですか?」
「はい。……ルチア、ご挨拶を」
レオポルトに促され、ルチアはもう一度お辞儀をした。
「コンスタンツィ侯爵家レオポルトの妻、ルチア・コンスタンツィと申します。ご帰国おめでとうございます」
「こちらこそ、ありがとう」
グリアムはニコリと微笑んだ。
ルチアの緊張は最高潮だ。それに王族にまで妻と名乗ってしまった。期間限定の妻ルチアは王家を謀った罪で不敬罪、という言葉が彼女の頭の中でグルグルと回っていた。
ルチアは早くどこかに行ってくれないかなと思っていたため、それこそ不敬だった。
「そうだ。コンスタンツィ卿、夫人をダンスにお誘いしても?」
グリアムの言葉にルチアは完全に固まった。なんて事を提案してるんだと顔が青褪める。
「いや、その……」
レオポルトも困惑しているようだ。
しかしルチアは現在侯爵夫人である。ここでレオポルトの役に立たず、いつ立つのか。
ルチアは満面の笑みを浮かべて嬉しそうな声を出すことにした。
「まぁ、レオ様。大変光栄なお話ですね」
「え?あ、ああ」
レオポルトもどうするべきか迷っているようだ。
だが心配は無用であるとルチアは心の中でレオポルトに語る。
ルチアのダンスはマウロに鍛えられたのだ。
例え相手が王子であろうとも、彼に恥をかかせるようなダンスは決してしない。ルチアは気合いを入れた。
「では、一曲よろしいですか?」
「はい。喜んでご一緒させて頂きます」
ルチアはレオポルトから離れると、グリアムが差し出してきた手をとる。グリアムにエスコートされ、ルチアは広間の中央に移動した。
できれば目立たない端の方がよかったのだが、相手が王子殿下で
はそうもいかず、ど真ん中である。
グリアムとルチアは、身体を近づけてダンスを踊り始めた。
彼とのダンスはとても踊りやすく、グリアムがダンスの名手であることが分かる。
驚きで思わず彼の顔を見るとニコリと微笑まれた。
間近で見るとますます美青年だなとルチアは感心した。
「ダンスお上手ですね」
グリアムが話しかけてきたが、失敗をして足を踏みたくないルチアは話しかけないで欲しかった。だが返事をしなければならない。
「ありがとうございます。グリアム王子殿下には遠く及びませんが……」
「ご謙遜を。こんなに踊りやすい人は、僕も初めてですよ」
「まあ、お上手ですこと」
ルチアはもう混乱してよく分からなくなってきたので、取り敢えず笑って誤魔化すことにした。
「突然ダンスに誘ってすみませんでした。コンスタンツィ卿の奥様がどんな人か興味があったんです」
「興味ですか?」
「ええ」
グリアムはクスクスと楽しそうに笑った後、言葉を続けた。
「これは誰にも言わないで下さいね。コンスタンツィ卿は、僕の憧れなんです」
「え?」
「初めてお会いしたのは、彼が爵位を継ぐために父……陛下に謁見に来た時です」
「……はい」
「16歳の若さで爵位を継ぐ人はなかなかいませんから、目立ってましたよ」
「そうですか」
「若いのにとても堂々としてました。自分が16歳になった時、同じように堂々と振る舞えるようになりたいと思ったものです。
成功しているかどうかは、自分では分かりませんが」
彼は楽しそうに複雑なステップに変えて、さらに話を続けた。ルチアはついていくのに必死だ。
「コンスタンツィ卿の噂もよく耳にします。彼が統治するようになってから、ますます領地は発展していると」
「レオ様は一生懸命頑張っておいでです。毎日夜遅くまで仕事をこなしておられますので、当然だと思います」
ルチアが自信満々にそう言うとグリアムは彼女をグイッと引き寄せた。その行為に彼女は困惑した。
「そんな彼がどんな人を選んだのかと、興味本位でお誘いしたので、申し訳無かったと思っています」
「いえ、私は別に……」
ルチアは困った。どう反応していいのか判断がつかない。ただ、もう少し距離をとりたかったので少し身体をズラした。空間が確保できホッとしたのもつかの間、クスリと笑い声が聞こえる。
「私が夫人をダンスにお誘いした時、コンスタンツィ卿は困惑しておられましたね。あんな彼を見たのは初めてです。
それに、今も僕達が気になるのかずっとこちらを見ていますしね」
「え?」
グリアムの言葉に、ルチアはレオポルトの姿を探そうかと思った。しかし目の前の男性は王子だ。よそ見をしてなにか失態を犯すわけにはいかないと、諦めた。
きっとレオポルトはルチアが失敗しないか心配しているのだろう、決して失敗は許されないのだ。
それにしてもこれだけの人がいる中で彼を見つけられるとは、グリアムは頭の後ろにも目があるのだろうかとルチアは気になって彼の頭を凝視する。
「夫人は、コンスタンツィ卿を大切に思っておられるのですね」
彼の言葉にルチアは目を瞬かせグリアムを凝視した。
「私がダンスにお誘いした時、コンスタンツィ卿を守ろうとなさっていた」
「それは……」
グリアムに完全に見透かされていたため、ルチアは慌ててしまった。もしかしたら頭を気にしていたことも気付かれているかも知れない。
「よい妻を娶られたようだ。侯爵夫人でなければ、僕が口説きたかったくらいです」
「へ?」
ルチアは驚いた。よくダンスを失敗しなかったと自分を褒めてあげたいくらいである。彼女は彼がなんのつもりでそんな事を言ったのか探ろうとしたが、その目には好奇心しか映っていなかった。
「ふふ、冗談ですよ。そんな事をしたら卿に殺されてしまいそうだ」
「心臓に悪い冗談です」
ダンス中に揶揄うのは切実にやめて欲しいとルチアは本気で思った。王子にこんなことを思うのはよくないが、彼は思いの外タチが悪い。
心臓に悪いダンスがやっと終わりを告げた後、ルチアは安堵しつつグリアムと共にレオポルトの元に戻ることができた。
「コンスタンツィ卿、ありがとうございました。夫人をお返ししますね」
グリアムがルチアの手をレオポルトの方に差し出す。
「妻の相手をありがとうございました」
レオポルトはその手を掴んでルチアを自分の方に引き寄せた。
彼女は彼の横に立ってようやく安住の地に戻ってきたような気分を味わう。
「それではお二方とも今宵を楽しんで下さい。コンスタンツィ夫人、また踊れる日を楽しみにしてますね」
にこやかな笑みを浮かべてグリアムはそう言った後、ルチア達から離れていった。
ルチアは彼が女性に囲まれるのを何となく目で追ってしまう。
これから婚約者探しなのだろう、大変だなと彼女は呑気に思っていた。
「ルチア」
「は、はい?」
レオポルトに声を掛けられてルチアは気がつき、彼に視線を向ける。
「私とも踊ってもらえるか?」
レオポルトの嬉しい言葉に、ルチアはパアッと表情を輝かせた。
「はい。もちろんです!」
彼女の言葉にレオポルトがニコリと微笑むと、彼のエスコートでまた中央に戻った。
二人が踊るのはこれが初めてだ。
ルチアはかなり緊張していたが、グリアムの時とは違う緊張だった。嬉しいようなワクワクするような恥ずかしいような、そんな気分だ。
レオポルトがルチアの腰に手を回し密着する。それだけで、ルチアは舞い上がり顔が熱くなった。
ダンスが始まり、ルチアはレオポルトのリードに合わせる。
力強いダンスで引っ張ってくれて、ルチアは安心して彼のリードに身を任せた。
「ルチア」
「はい」
「……殿下とは何を話してたんだ?」
不安そうな声音のレオポルトにルチアは目を瞬かせる。なるほど、彼はルチアが何か失敗をしてはいないかと心配をしているのだ。ルチアは自信満々な笑顔を見せる。
「大丈夫です。変な事は話していません。レオ様の迷惑になるような事は決してしていません」
「いや、そういう意味ではないん……だが」
レオポルトの言葉に彼女は首を傾げた。
「そうですか?お話はレオ様のことです。殿下は、レオ様に初めて会った時のことを話されてました」
「それだけか?」
「えっと、そうですね……」
ルチアは言葉の歯切れが悪くなってしまった。
グリアムには、レオポルトに憧れているという話は誰にもしないでくれと言われている。
確かに憧れていることを本人に知られるのは恥ずかしいだろうなと思ったので黙っておくしかない。レオポルトになんと説明すればいいのかルチアは悩んだ。
「ルチア?」
「え?あ……いえ。ダンスが上手だとか、そういう話をしました」
「そうか……」
ルチアがレオポルトを大事に思っていることを見破られたなどという話は恥ずかしくて出来ない。
それに冗談でもグリアムが口説いてきたなど、絶対にルチアは話したくない。レオポルトに勘違いされるのは困る。
「殿下の足を踏むなどの失敗をして、レオ様に迷惑をかけるんじゃないかと思うと素直にダンスを楽しめませんでした」
これはルチアの本当の気持ちだ。
「なら、次は断れば良い」
「殿下はあんな事をおっしゃっていましたが、もう誘われることは無いと思います。
けれどもしまたそんな事があっても、殿下のダンスの相手を断るのは失礼だと思いますよ。
私は……今はレオ様の妻ですから……。完璧な妻として振る舞うのが約束ですから」
ルチアはこの約束だけが彼との繋がりである事を充分に理解していた。そのため、この約束だけは絶対に守りたかった。
「そうか……」
しかしそう答えたレオポルトの表情はいつにも増して険しい。ルチアは自分とのダンスが楽しくないのかと心配になる。
「レオ様、大丈夫ですか?やはり体調が優れないのでは?」
ダンスが楽しくないのではなく、もしかしたらまた体調が悪くなったのかと心配になりルチアは彼に尋ねた。
「大丈夫だ。心配ない」
そう答えたレオポルト。ルチアは頼りにされないことがとても悲しかった。
それに、自分とのダンスはやはり楽しくないのかと不安にもなる。
せっかくの彼との初めてのダンスは、ルチアにとって少し苦い気持ちを残したまま終わってしまった。
ルチアは不思議に思ってそちらに視線を向けた。
その中心には高貴なオーラを纏った美青年がおり、その美青年がゆっくりと近づいてくる。
サラサラのプラチナブロンドの髪に青い瞳の美青年の名前は、ルチアでも知っていた。
グリアム第一王子殿下。リリーが話していた留学から帰ってきた正真正銘の王子で、この舞踏会の主役である。
ダークグリーンのタキシードを身に纏い、颯爽と現れた王子は、爽やかな笑顔を浮かべ二人の前で立ち止まった。
「コンスタンツィ卿、お久しぶりです」
グリアムが話しかけたのは、レオポルトだった。
知り合いなのかと一気に緊張が走る。
「お久しぶりですグリアム殿下。ご帰国おめでとうございます。お元気そうでなによりです」
レオポルトが礼をしたので、ルチアも慌ててそれに倣う。
「ありがとう。帰国したらコンスタンツィ卿が結婚したと伺ったのでお祝いをと思ったんです。おめでとうございます」
「ありがたいお言葉です」
冷静に対応するレオポルトをすごいなと思いつつも、ルチアは緊張で胃が痛くなりそうだった。
「そちらの女性が奥様ですか?」
「はい。……ルチア、ご挨拶を」
レオポルトに促され、ルチアはもう一度お辞儀をした。
「コンスタンツィ侯爵家レオポルトの妻、ルチア・コンスタンツィと申します。ご帰国おめでとうございます」
「こちらこそ、ありがとう」
グリアムはニコリと微笑んだ。
ルチアの緊張は最高潮だ。それに王族にまで妻と名乗ってしまった。期間限定の妻ルチアは王家を謀った罪で不敬罪、という言葉が彼女の頭の中でグルグルと回っていた。
ルチアは早くどこかに行ってくれないかなと思っていたため、それこそ不敬だった。
「そうだ。コンスタンツィ卿、夫人をダンスにお誘いしても?」
グリアムの言葉にルチアは完全に固まった。なんて事を提案してるんだと顔が青褪める。
「いや、その……」
レオポルトも困惑しているようだ。
しかしルチアは現在侯爵夫人である。ここでレオポルトの役に立たず、いつ立つのか。
ルチアは満面の笑みを浮かべて嬉しそうな声を出すことにした。
「まぁ、レオ様。大変光栄なお話ですね」
「え?あ、ああ」
レオポルトもどうするべきか迷っているようだ。
だが心配は無用であるとルチアは心の中でレオポルトに語る。
ルチアのダンスはマウロに鍛えられたのだ。
例え相手が王子であろうとも、彼に恥をかかせるようなダンスは決してしない。ルチアは気合いを入れた。
「では、一曲よろしいですか?」
「はい。喜んでご一緒させて頂きます」
ルチアはレオポルトから離れると、グリアムが差し出してきた手をとる。グリアムにエスコートされ、ルチアは広間の中央に移動した。
できれば目立たない端の方がよかったのだが、相手が王子殿下で
はそうもいかず、ど真ん中である。
グリアムとルチアは、身体を近づけてダンスを踊り始めた。
彼とのダンスはとても踊りやすく、グリアムがダンスの名手であることが分かる。
驚きで思わず彼の顔を見るとニコリと微笑まれた。
間近で見るとますます美青年だなとルチアは感心した。
「ダンスお上手ですね」
グリアムが話しかけてきたが、失敗をして足を踏みたくないルチアは話しかけないで欲しかった。だが返事をしなければならない。
「ありがとうございます。グリアム王子殿下には遠く及びませんが……」
「ご謙遜を。こんなに踊りやすい人は、僕も初めてですよ」
「まあ、お上手ですこと」
ルチアはもう混乱してよく分からなくなってきたので、取り敢えず笑って誤魔化すことにした。
「突然ダンスに誘ってすみませんでした。コンスタンツィ卿の奥様がどんな人か興味があったんです」
「興味ですか?」
「ええ」
グリアムはクスクスと楽しそうに笑った後、言葉を続けた。
「これは誰にも言わないで下さいね。コンスタンツィ卿は、僕の憧れなんです」
「え?」
「初めてお会いしたのは、彼が爵位を継ぐために父……陛下に謁見に来た時です」
「……はい」
「16歳の若さで爵位を継ぐ人はなかなかいませんから、目立ってましたよ」
「そうですか」
「若いのにとても堂々としてました。自分が16歳になった時、同じように堂々と振る舞えるようになりたいと思ったものです。
成功しているかどうかは、自分では分かりませんが」
彼は楽しそうに複雑なステップに変えて、さらに話を続けた。ルチアはついていくのに必死だ。
「コンスタンツィ卿の噂もよく耳にします。彼が統治するようになってから、ますます領地は発展していると」
「レオ様は一生懸命頑張っておいでです。毎日夜遅くまで仕事をこなしておられますので、当然だと思います」
ルチアが自信満々にそう言うとグリアムは彼女をグイッと引き寄せた。その行為に彼女は困惑した。
「そんな彼がどんな人を選んだのかと、興味本位でお誘いしたので、申し訳無かったと思っています」
「いえ、私は別に……」
ルチアは困った。どう反応していいのか判断がつかない。ただ、もう少し距離をとりたかったので少し身体をズラした。空間が確保できホッとしたのもつかの間、クスリと笑い声が聞こえる。
「私が夫人をダンスにお誘いした時、コンスタンツィ卿は困惑しておられましたね。あんな彼を見たのは初めてです。
それに、今も僕達が気になるのかずっとこちらを見ていますしね」
「え?」
グリアムの言葉に、ルチアはレオポルトの姿を探そうかと思った。しかし目の前の男性は王子だ。よそ見をしてなにか失態を犯すわけにはいかないと、諦めた。
きっとレオポルトはルチアが失敗しないか心配しているのだろう、決して失敗は許されないのだ。
それにしてもこれだけの人がいる中で彼を見つけられるとは、グリアムは頭の後ろにも目があるのだろうかとルチアは気になって彼の頭を凝視する。
「夫人は、コンスタンツィ卿を大切に思っておられるのですね」
彼の言葉にルチアは目を瞬かせグリアムを凝視した。
「私がダンスにお誘いした時、コンスタンツィ卿を守ろうとなさっていた」
「それは……」
グリアムに完全に見透かされていたため、ルチアは慌ててしまった。もしかしたら頭を気にしていたことも気付かれているかも知れない。
「よい妻を娶られたようだ。侯爵夫人でなければ、僕が口説きたかったくらいです」
「へ?」
ルチアは驚いた。よくダンスを失敗しなかったと自分を褒めてあげたいくらいである。彼女は彼がなんのつもりでそんな事を言ったのか探ろうとしたが、その目には好奇心しか映っていなかった。
「ふふ、冗談ですよ。そんな事をしたら卿に殺されてしまいそうだ」
「心臓に悪い冗談です」
ダンス中に揶揄うのは切実にやめて欲しいとルチアは本気で思った。王子にこんなことを思うのはよくないが、彼は思いの外タチが悪い。
心臓に悪いダンスがやっと終わりを告げた後、ルチアは安堵しつつグリアムと共にレオポルトの元に戻ることができた。
「コンスタンツィ卿、ありがとうございました。夫人をお返ししますね」
グリアムがルチアの手をレオポルトの方に差し出す。
「妻の相手をありがとうございました」
レオポルトはその手を掴んでルチアを自分の方に引き寄せた。
彼女は彼の横に立ってようやく安住の地に戻ってきたような気分を味わう。
「それではお二方とも今宵を楽しんで下さい。コンスタンツィ夫人、また踊れる日を楽しみにしてますね」
にこやかな笑みを浮かべてグリアムはそう言った後、ルチア達から離れていった。
ルチアは彼が女性に囲まれるのを何となく目で追ってしまう。
これから婚約者探しなのだろう、大変だなと彼女は呑気に思っていた。
「ルチア」
「は、はい?」
レオポルトに声を掛けられてルチアは気がつき、彼に視線を向ける。
「私とも踊ってもらえるか?」
レオポルトの嬉しい言葉に、ルチアはパアッと表情を輝かせた。
「はい。もちろんです!」
彼女の言葉にレオポルトがニコリと微笑むと、彼のエスコートでまた中央に戻った。
二人が踊るのはこれが初めてだ。
ルチアはかなり緊張していたが、グリアムの時とは違う緊張だった。嬉しいようなワクワクするような恥ずかしいような、そんな気分だ。
レオポルトがルチアの腰に手を回し密着する。それだけで、ルチアは舞い上がり顔が熱くなった。
ダンスが始まり、ルチアはレオポルトのリードに合わせる。
力強いダンスで引っ張ってくれて、ルチアは安心して彼のリードに身を任せた。
「ルチア」
「はい」
「……殿下とは何を話してたんだ?」
不安そうな声音のレオポルトにルチアは目を瞬かせる。なるほど、彼はルチアが何か失敗をしてはいないかと心配をしているのだ。ルチアは自信満々な笑顔を見せる。
「大丈夫です。変な事は話していません。レオ様の迷惑になるような事は決してしていません」
「いや、そういう意味ではないん……だが」
レオポルトの言葉に彼女は首を傾げた。
「そうですか?お話はレオ様のことです。殿下は、レオ様に初めて会った時のことを話されてました」
「それだけか?」
「えっと、そうですね……」
ルチアは言葉の歯切れが悪くなってしまった。
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確かに憧れていることを本人に知られるのは恥ずかしいだろうなと思ったので黙っておくしかない。レオポルトになんと説明すればいいのかルチアは悩んだ。
「ルチア?」
「え?あ……いえ。ダンスが上手だとか、そういう話をしました」
「そうか……」
ルチアがレオポルトを大事に思っていることを見破られたなどという話は恥ずかしくて出来ない。
それに冗談でもグリアムが口説いてきたなど、絶対にルチアは話したくない。レオポルトに勘違いされるのは困る。
「殿下の足を踏むなどの失敗をして、レオ様に迷惑をかけるんじゃないかと思うと素直にダンスを楽しめませんでした」
これはルチアの本当の気持ちだ。
「なら、次は断れば良い」
「殿下はあんな事をおっしゃっていましたが、もう誘われることは無いと思います。
けれどもしまたそんな事があっても、殿下のダンスの相手を断るのは失礼だと思いますよ。
私は……今はレオ様の妻ですから……。完璧な妻として振る舞うのが約束ですから」
ルチアはこの約束だけが彼との繋がりである事を充分に理解していた。そのため、この約束だけは絶対に守りたかった。
「そうか……」
しかしそう答えたレオポルトの表情はいつにも増して険しい。ルチアは自分とのダンスが楽しくないのかと心配になる。
「レオ様、大丈夫ですか?やはり体調が優れないのでは?」
ダンスが楽しくないのではなく、もしかしたらまた体調が悪くなったのかと心配になりルチアは彼に尋ねた。
「大丈夫だ。心配ない」
そう答えたレオポルト。ルチアは頼りにされないことがとても悲しかった。
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