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第三章:Bunny&Black
百六十九話:なんだと……!?
しおりを挟む「美咲……」
「お父さんっ、……、もう、会えないって、思ってた。お父さん……」
男の人、ミサのお父さんが優しく抱きしめている。
警戒していた周りの人たちもやっと理解ができたようで、武器を卸し親子の再開を見守っている。
一分ほど抱きしめて、ミサのお父さんは顔をあげて辺りを見回した。
パチリと目が合う。
「……ここは風が強い。 中に行こう」
「……うん」
感動の再会。
もう少しゆっくりしてもいいけど、地上100メートルの屋上でやるものじゃないね。
風が強すぎる。
「ミサ姉ちゃん良かったね!」
「うむ……」
しかし、お父さん警察官だったのか。
あまりミサは警察官の子って感じではないよね。
お父さん、鹿野警部補か。 凄く芯の強そうな瞳だった。 警察官は苦手だ。 意味なく職質してくるから。 いや、なんで中学生(当時)職質してくんのか意味わかんないし。
「……」
なんだか緊張してきた。
悪いことしてないのに。
ちらちらとお父さんがこちらを振り返って見ている。
ナゼダ。
なにかミサと話している。
気になる。
胃が痛い。
帰りたい。
「ど、どうしたのシン兄ちゃん? 顔が怖いよ!?」
顔が怖いのは元からだ。
魔王戦でもこんなに緊張はしなかった。
あの時はバトルハイでテンション上がってたしね。
なんだこの感覚ぅ……。
「お母さん、仮面ライダーブラックだ!」
「アリアちゃん、人を指さしちゃダメよ……」
「すごい! 鳥さんが歩いてるよ!!」
展望ロビーに元気な幼女とお疲れ気味のお母さんがいた。
仮面ライダーブラックとは、なかなかセンスのあるおこちゃまである。
「……」
思っていたより悲惨な状態ではないな。
ゴブリンに包囲されて身動きできない状態だと思ったけど、そんなに備蓄があったのだろうか?
それに俺の周囲でちょっと警戒している人たちの装備。
現代の防具ではない。
【猫の手】で手に入るようなファンタジー装備だ。
近くに【猫の手】があるようだな。
「わぁあ! いいの? ありがとう、ブラック!」
「ありがとうございます」
くくく。
子供の人気は大事だ。
救援物資は沢山持ってきている。
ママノエ瓶はたくさんあるから遠慮しないでほしい。
ちなみに子供にはちゃんとお菓子をあげました。
ママノエは美味しいけどグロテスクだからね。
周囲にいた人たちにママノエ瓶をプレゼント。
「ほう! これはなかなか、美味そうじゃないか!」
「っ!?」
なんだと……!?
初見のママノエ瓶を見て美味しそうとぬかしよった。
こいつら一体……?
◇◆◇
最愛の娘と再会できた。
「それでね! シンクが守ってくれたの! 皆を助けてくれて、私も友達も無事だよ。 ……どれだけ傷ついても、守ってくれて、っ、おかげでお父さんとまた会えたよ」
「ああ、本当に美咲が無事で良かった」
娘は無事だと、ずっと信じていた。
そうしなければ心が持たなかった。
もうみんなの心は限界に近かった。
だけど、娘が現れたことで希望が、皆の心に希望の光が灯された。
見てくれ。
まるで我がことのように喜んでくれている。
同僚が良かったですねと涙ながらに喜んでくれている。
共に戦ってきた人たちも同様だ。
みんなまだ家族と再会できていいないというのに、いや、だからこそか。
「お父さん?」
私はもう一度、美咲を抱きしめた。
再会できて嬉しかった。
夢のようにさえ思ってしまった。
けれど戦友たちのことを考えると、感情に蓋をしてしまった。
彼らはそんなに狭量ではないというのに……。
もう一度、出会えた奇跡を噛み締める。
「……」
娘から凄く良い香りがした。
あの男らしい娘から。
毎日走っていた。 走ることが大好きで女性らしさはなかったはずなのに。
女性らしい香りだった。
「美咲、シンク君というのは……」
私は仕事ばかりで家庭を疎かにしていた。
妻には愛想をつかされてしまったが、娘はこんな私についてきてくれた。
「お父さんは正義の味方だもん、お父さんが頑張ってるから、ミサもがんばるよ!」
7歳の娘はそう言ってくれた。
家事や料理も積極的にやってくれた。 逞しく育ってくれた。
……寂しい思いをさせてきたな。
「さっき一緒に来てた大きい人だよ」
「そうか、お礼を言わないとな」
シンク君とやらの話しをする美咲はほんとうに嬉しそうで、そんな女性らしい表情もできるのかと驚いた。 ああ、驚いた。
素直に娘を救ってくれたことを感謝したい。
それにたくさんの人たちを救ってくれたことも。
危険を顧みず、孤立した市役所に助けにくてくれたことも。
素晴らしい青年だ。
「美咲、その素敵な指輪は? ……シンク君からかい?」
「えっ、う、うん。 そうだよ?」
美咲は照れくさそうに見せてくれる。
その左手に光る指輪を。
「そうか、そうか。 一度ちゃんとお話ししたいね」
「お、お父さん!?」
おっといかん。
つい、殺気が漏れてしまった。
わかっている。わかっているんだ。
理解はしている。
彼のおかげで美咲が無事だった。 感謝こそすれ恨むようなことは一切ない。
――――しかしだッッ!!
「一度、しっかりお話をしないとね……」
父親としては話さねばならない。
男同士、サシで話し会いといこうじゃないか。
◇◆◇
展望ロビーレストラン【ビアンテ】
『キュィ!キュィ!』
『モキュ!モキュ!』
「「「「っ!?」」」」
BBQ用の鉄板の上でママノエが躍っている。
さらにその横で彼らの用意した食材もまた踊っている。
地獄絵図だ。
「まさか、紫イモムシに匹敵する食材とは……やるなブラック!」
「うむ」
巨大な芋虫だ。 紫色の。
なんて食欲のそそらないBBQなんだ。
しかし、芋虫にはたんぱく質が豊富に含まれている。
肉や魚の3倍以上だ。
それ以外にも豊富な栄養素が含まれている。
最強の食材である。
昆虫食が地球を救う。 なんてフレーズも聞くしね。
俺もジェイソンのNINJYA修行で食べさせられたな。 まじ許さん。
「ほう。 ワサビ醤油か!」
ママノエのおすすめはワサビ醤油だ!
「ならこれで食え!」
「ん!?」
この独特な香りは!?
「紫イモムシ焼きのココアパウダーがけ、いただきよ!」
なんという組み合わせ!
これがシェフ《プロ》の発想力!?
「「うまい!」」
紫イモムシを食べたことで、市役所の人たちの警戒が解けた。
なんだこの儀式は。
仲間意識の芽生え方エ……。
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