上 下
143 / 179
第三章:Bunny&Black

百三十九話:東雲東高校要塞化計画

しおりを挟む
 わた雲は青空を気持ちよさそうに浮かんでいる。

 「やっと着くっすねぇ」

 藤崎駐屯地を出発した自衛隊員、寺田はやれやれといった感じで汗を拭う。
 夏は近づいており温暖化の影響著しい日本の夏はジメジメして蒸し暑い。
 年々と猛暑日のおとずれも早くなってきていた。

「そうだな。 予定よりも2週間も遅れてしまったか……」

 山木の顔色も疲労の色が濃い。
 
「橋を渡ったら魔物の襲撃が減りましたであります! なぜでしょうか? どういった魔物がでるのかきになります! 人型の魔物は隠れている可能性がありますから要注意であります! 各自気を付けて気を抜かないようにッ! 適時水分補給は小まめにとるであります! 川の水は煮沸してから飲むように! いいですか? 川の水に――――」

 ただ一人の女性隊員である梅香は元気であった。

 彼ら自衛隊員3名、有志の民間人戦闘員7名は東雲東高校を目指し藤崎駐屯地を出発していた。
 駐屯地指令『京極 武蔵』より任務を受けてのことである。
 ただ、任務を言い渡されてからすぐには出発することができなかった。
 至急の任務であるはずなのにだ。
 
「たしかに、この辺りは魔物の気配が薄いな」

「ここまで大変だったすねぇ……」

 寺田の言葉に志願した民間兵も頷く。
 7名は全て若い男性であり戦闘もこなしている。
 今回は前回の失敗を踏まえ人選に人選を重ねて連れてきている。
 万一にも東雲東高校で問題をおこなさないように。
 過度な面接をして連れてきた。 なるべくグループの違うメンバーからと徹底して。 悪だくみを防ぐためだ。

「武器防具、それに医薬品の損耗が激しい。 東雲東高校で補給できないと帰れないぞ?」

 自衛隊から装備を借り受け戦い方も教わってはいる。
 けれど接近戦を主体とした攻防ではどうしても怪我人はでる。
 未だ『猫の手』の恩恵を十全に受けれていない状況である。
 山木の独断で神駆から譲り受けた分は使用している。
 この遠征を気にぜひ『猫の手』によりたいと彼は考えていた。

 藤崎駐屯地の側には『猫の手』が見つからなかった。
 これは神駆がブラックホーンリアと屋根上パルクールを駆使して探しても見つけられなかった。
 ひょっとしたらないのかもしれないし、見つけにくいところにあるのかもしれない。
 わからない。
 『猫の手』についての詳しい情報など誰も持ち合わせていないのでしかたない。

「気になります! ぜひ行ってみたいであります! まっさきに行きましょう!!」

「あほ。 先に任務をこなすにきまってるっしょ」

 同期である寺田は梅香係と化している。
 『きになります!』が口癖の困った女子だ。
 めんどくさい、と放置しておくと永遠としゃべり続ける。
 クリっとした瞳にショートヘア、日焼けした肌に喜怒哀楽の激しい性格。
 年齢以上に若く見える。 そろそろ落ち着いてもいい頃の年齢であるのだが。


「あ、あれか?」

 塀の裏、放置された車両、物陰。
 あらゆるところに魔物は隠れ潜んでいる。
 とくに個体名ゴブリンは嫌らしいエネミーだった。
 幾度も奇襲を受けた彼らは目的地が見えても慎重に歩みを進める。

「……普通高校だよな?」

「ああ。 てか俺の母校。 ……いつ、リニューアルしたんだろ?」

 民間兵の東雲東高校卒業生は母校の変わり果てた姿に驚いていた。

 巨大な城壁が見えてきたのだ。
 まるでお嬢様学校の終わらない外壁のように。
 学校を取り囲むように城壁が出来ていた。
 周囲の田畑も川さえも取り込んだ巨大な城壁である。

「城塞都市かよ」

 山木や寺田にはヨーロッパの城塞都市のように見えた。
 服部考案の東雲東高校要塞化計画。
 周辺の土地ごと城壁で覆う、総構えになっている。
 東雲東高校を覆う内郭、そのさらに外側にも城壁を作っているのだ。
 魔皇帝争奪戦この戦いは長期に渡り繰り広げられる。
 そして国からの救援など期待できないと、早期に判断した服部の決意の表れであった。
 まぁせざるを得ない状況であったともいえるのだが。

「凄いです! どうやって作ったんでしょう? 重機も、車も動かせないこの状況で!? 気になります!」 

 もっとも周囲に二つの魔王の拠点が存在する東雲東高校は稀な危険地帯だったのだが、今では一つしか拠点は残っていない。

 その潰れた拠点の影響は世界中に出ている。
 山木たちの出発の遅れた要因でもあった。

 魔物の活性化。
 もとより活発だった魔物の動きがさらに激しさをましたのだ。 
 それもより多くの領地を手に入れる動き。
 リソースの獲得に重点を置き、戦力の低下の少ない戦闘をするようなった。
 まるでなにかに追われているような、絶対に手に入れたくない不名誉に怯えているような、はたまたなにかデバフでも与えられるのではと、魔王たちが本腰をいれて回避しだしているのだ。
 
 一体の六六六位の魔王が討たれたが故に。

「なっ、なんだアレは!?」

「魔物かッ!?」

 学校の上空を漆黒のオーラを垂れ流し疾走する大型トライク。
 未だ常識の中にいる人々は腰を抜かすほど驚く。
 東雲東高校の人々は見慣れたようになんの感情もすでに抱かないのだが。
 
「リアルエルフ……さん?」

 空飛ぶ大型トライクに緑玉色《エメラルド》の髪のエルフを見つけた寺田。
 運転する神駆にぴったりとその豊満な胸を預け腰に手を回していた。
 魂魄ランクの上昇により強化された視力は見てしまった。
 エルフさんの細い指が運転する男の股のほうに伸びていたのを。

「どうなってるんだ?」

 東雲東高校の周りは城壁。
 とくに服部のイメージが小田原城だったせいか、校舎にも影響がでており、またご老人たちの影響もあってかまるで城のように変化していた。
 そしてSFチックな乗り物で宙を移動する者までいる始末。
 もはやなにがなんだかわからない。

「どうなってるんだ?」

 山木3尉は困惑していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝込みを襲われて、快楽堕ち♡

すももゆず
BL
R18短編です。 とある夜に目を覚ましたら、寝込みを襲われていた。 2022.10.2 追記 完結の予定でしたが、続きができたので公開しました。たくさん読んでいただいてありがとうございます。 更新頻度は遅めですが、もう少し続けられそうなので連載中のままにさせていただきます。 ※pixiv、ムーンライトノベルズ(1話のみ)でも公開中。

浮気疑惑でオナホ扱い♡

恋愛
穏和系執着高身長男子な「ソレル」が、恋人である無愛想系爆乳低身長女子の「アネモネ」から浮気未遂の報告を聞いてしまい、天然サドのブチギレセックスでとことん体格差わからせスケベに持ち込む話。最後はラブラブです。 コミッションにて執筆させていただいた作品で、キャラクターのお名前は変更しておりますが世界観やキャラ設定の著作はご依頼主様に帰属いたします。ありがとうございました! ・web拍手 http://bit.ly/38kXFb0 ・X垢 https://twitter.com/show1write

平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。 そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。 そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。 クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。

運命のαを揶揄う人妻Ωをわからせセックスで種付け♡

山海 光
BL
※オメガバース 【独身α×βの夫を持つ人妻Ω】 βの夫を持つ人妻の亮(りょう)は生粋のΩ。フェロモン制御剤で本能を押えつけ、平凡なβの男と結婚した。 幸せな結婚生活の中、同じマンションに住むαの彰(しょう)を運命の番と知らずからかっていると、彰は我慢の限界に達してしまう。 ※前戯なし無理やり性行為からの快楽堕ち ※最初受けが助けてって喘ぐので無理やり表現が苦手な方はオススメしない

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

スキル・ディーフ 違法スキル「スキル泥棒」で相手を蹂躙

レミクロ
ファンタジー
西暦586年5月27日 皇帝陛下が病気で亡くなられてしまった。 そして新しい皇帝陛下が着任されたが私達旧皇帝派はそれを許さない。 あんなよく分からない赤ちゃんに何ができるというのだ。 我々は秘宝である死者の完全復活剤という薬を手に入れ、あの我らの新の王であるアトラドス皇帝陛下様を復活させるのだ。 西暦594年12月13日 帝都軍(新皇帝派の兵士)との何回も戦争があったがそれでも私たちの組織は軽傷ぐらいだったがついにあいつらがほんきを出てきた。 しかしこれも作戦通り皇帝保護、帝都防衛で今警備の薄い絶壁要塞ノマル砦を占領し、ここを前線基地とし帝都軍を無力化するのだ! 西暦607年8月21日 今の皇帝は間違っている。魔物を手下にして、やっぱりあいつは自分の利益しか考えていない愚か者だ! しかしこれを使えば、友好ではない国に偽の情報を与えれば…ふふふ アトラドス皇帝陛下様…どうか見守っていてください。             必ずやご期待を… アトラドス様万歳! 日記はここで途切れている… ???「旧皇帝派とはなんなのか…この日記を書いたのは誰なのか…」 ???「アトラドス様とは一体…」 ???「同時に作品を読むとわかるのかもしれませんね…ぐふふふふ」  〜旧皇帝派側のストーリー〜

中イキできないって悲観してたら触手が現れた

AIM
恋愛
ムラムラして辛い! 中イキしたい! と思ってついに大人のおもちゃを買った。なのに、何度試してもうまくいかない。恋人いない歴=年齢なのが原因? もしかして死ぬまで中イキできない? なんて悲観していたら、突然触手が現れて、夜な夜な淫らな動きで身体を弄ってくる。そして、ついに念願の中イキができて余韻に浸っていたら、見知らぬ世界に転移させられていた。「これからはずーっと気持ちいいことしてあげる♥」え、あなた誰ですか?  粘着質な触手魔人が、快楽に弱々なチョロインを遠隔開発して転移させて溺愛するお話。アホっぽいエロと重たい愛で構成されています。

処理中です...