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第二章:魚と犬と死神

百十二話:月下のダンス ④

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 臭い。

「うお!?」

 悪臭と共に大量の蝿が向かってきた。
 気持ち悪すぎてデュラハンごとヴォルフライザーの衝撃波を放った。
 デュラハンを撃破しゾンビと骸骨ごと蝿の大軍を薙ぎ払う。
 少々過剰気味に力を開放してしまったか。

(なんだアイツ?)

 アンデットの大軍の後方。
 ゾンビのようだが体が大きく、緑色の体色をした魔物がいた。
 なんだか地球外生命体のようなみためだ。
 背中に生えたクリスタルが妖しい緑色の輝きをしている。 体に悪そうなケミカルな色だ。

「遅……」

 ゆらゆらと両手を下げながらゆっくりこちらに向かってくる。
 ゾンビのミュータント生物みたいなのでミュータントと名付けるか。
 しかし臭いな。
 どぶ川の臭いというか死体の臭いなのか、とにかく臭い。
 ゴブリンたちも臭い兵器を使ってきていたが、お嬢様学校の周辺は臭い敵が多いな……。
 かわいそうに。

 道を曲がった先、後方で戦っているツインテたちのほうから咆哮が聞こえた。
 たぶんツインテの声だと思う。
 気合が入ってるなぁ。
 メインディッシュを奪っちゃうようで申し訳ないが、あのミュータントは狩らせてもらおうかな。
 ちょっとヤバそうな相手だし、魂魄うまそうだし。

「うお……」

 また蝿を飛ばしてきやがった。
 どっからその蝿でてきてるの?
 よくみると体の表面にブツブツが……。 卵なんだろうなぁ。
 なんて気持ち悪い敵なんだ。

「うへぇ……」

 ミュータントの周りを蝿が飛んでいる。
 まるでミュータントを守るかのように一定間隔で飛んでいる。
 
「ん!?」

 蝿の突撃をヴォルフライザーで薙ぎ払うと攻め方を変えてきた。
 ミュータントは近くにいたゾンビに蝿を寄生させた。 
 ゾンビに無数の蝿が纏わりつく。

「ゴアアアア!」

 狂ったように涎をまき散らしゾンビが襲い掛かってくる。
 その目は緑色の妖しい輝きに支配されている。
 狂化?
 スケルトンにはできないようだが、ゾンビを狂化できるようだ。
 人間に寄生もできるんだろうか……?
 とりあえず蝿には触れないようにしよう。

「うおお!?」

 ぶった切った狂化ゾンビが爆発した。
 爆破の威力はないような物だが、撒き散る臓物。 もうスプラッター映画だよ。 最悪だよ。
 反射的に『エポノセロス』を装備して防御した。
 『エポノセロス』にダメージは無さそうだが、表面がシューと音を立てて煙を上げている。
 まるで酸をかけられたようだ。
 ゾンビ自体はそんな性質はなかったはず。
 狂化の影響かな?

「……」

 スピードタイプの敵ではないし、このまま大楯と大剣のスタイルでいくか。
 ガチャ装備の装備と装備解除も今では個別にできる。
 前はよく誤爆してすっぽんぽんになったりしてたが、今は問題ない。
 『エポノセロス』の衝撃波の方がヴォルフライザーよりも使い勝手が良い。
 蝿の攻撃にも対処しやすいだろう。

 初見の敵だし慎重にいこう。
 アンデットの重戦士の件もあるし、この辺りの敵は油断できない。
 個体としての強さでいえば、魚頭・ゴブリン<野犬<アンデットかな。
 戦いずらさでいえばゴブリンがトップだけど。



「追いついたぁ!!」

 周囲の雑魚を狩りつつミュータントと対峙していると、ツインテたちがやってきた。
 もう一体のデュラハンは無事に倒せたらしい。
 いや、結構ボロボロだが大丈夫か?
 ポーションを呷りながら息を整えている。

「ベルゼ君ッ臭いよ!?」

 失礼な。
 俺が臭いわけではない。
 ミュータントの死臭だろう。

 ボロボロの制服。 けれどツインテの表情は明るい。 闘気に満ちて目が輝いている。
 
「私たちも戦うぞ」

 なんだか姉御と呼びたくなるような釣り目の薙刀使いのお姉さん。
 凛としていてカッコイイ系だ。
 女子にモテそう。

「蝿がいっぱいだよ!」

 ミュータントの放つ蝿が空を飛び辺りを漂っている。
 徐々に場を支配していくようにドーム状に展開している……何かを狙っているのか。
 あえてくらってもよかったんだが、ツインテたちがきたのでやめておこうかな。

「『サンダークラップ』」

「「わっ!?」」

 スペルカード『サンダークラップ』による放電が周囲を漂っていた蝿を焼き殺す。
 ほぼ威力はない、相手をスタンさせるための補助カードだが、こういった使い方もできる。
 
『GUUUUUUUU!!』

 これにはミュータントも怒ったのか、唸り声を上げて苛立ちをみせた。
 それでもやはり歩みは遅くこちらに向かってくる。

「援護する!」

 薙刀部隊のお姉さんたちが左右に展開し後方から弓部隊が狙いを定める。
 俺は蝿の突撃攻撃を防ぐようにツインテの前に立った。
 そのまま『エポノセロス』を構え突撃。
 後ろからツインテが付いてくるのがわかる。
 それどころか、後ろに目がついているかのように仲間《・・》の位置がわかった。

(『エポノセロス』の効果か?)

 突撃する用の盾ではない。
 ちゃんとみんなを守る守護の大楯だ。

「力が、湧いてくる!」

「なんだこれは!?」

 バフ効果もあるようだ。
 『エポノセロス』の性能実験も兼ねられて良かった。

『GUUU!!』

「ふっ!」

 ミュータントの剛腕を防ぐ。
 ただの振りかぶったパンチがデュラハンのランス並みの衝撃だ。
 だが余裕で耐えられる。
 なんだか前よりも耐久力が上がっている気がする。

「シィ!!」

「ハァアアア!!」

 相手の攻撃を防いだところで間髪入れずツインテと薙刀使いのお姉さんが一撃をいれる。
 
「硬い!」

 一撃離脱。
 強敵との戦いに慣れているのかその場にとどまるようなことはしない。
 近接での共闘は初めてだが、なるほど勉強になる。

「んんっ! すぐに回復しちゃうぅ、ずるいぞぉ!」

 俺が攻撃を防ぎ、果敢に二人が攻めてくれるが、致命打を与えることはできないようだ。
 相手の回復力も凄い。
 小さな傷などすぐに治ってしまう。 それどころか蝿が噴き出てくる始末。 

『背中のクリスタルを狙ってください。 周囲のゾンビから蝿がクリスタルに向かっています。 どうやら吸収して回復しているようです』

「わかったぁ!」

 頼りになる司令官から弱点のお知らせだ。
 弱点看破はやいな!
 たしかに蝿が背中に集まっている。
 それに背中に回ろうとすると腕を振り回してガードするし、雑魚を邪魔な位置に配置しているようだ。
 
『こちらも狙います』

「?」

 黒髪ロングの姿は見えないが、どこからか狙っているんだろうか?
 まぁいいか。
 集中しよう。

「――美愛っ、離れろ!!」

 何度かの攻防の後。
 ミュータントが両手を握りしめ上に振りかぶった。
 今までとは違う動きに、薙刀使いのお姉さんが叫ぶ。

『GAAAAAAAAAAA!!』

 両の手が緑色の燐光を放ち地面へと放たれた。
 砕け散ったアスファルトと緑光のエネルギー波が俺たちを襲い掛かる。
 間に合わない。
 薙刀部隊も弓部隊もツインテも退避できない。
 ならば前へ。
 『エポノセロス』を突き出し前面に漆黒の衝撃波を放ち相殺させるべく疾駆する。
 
「ベルゼ君ッ!!」

 漆黒の衝撃波はトリケラトプスのような形を描き緑光のエネルギー波とぶつかり合った。
 大楯をもつ手に力が入る。
 後ろにいる守るべきもの。
 踏ん張れ!

『星霜光矢』

 夜空から星が落ちる。
 一筋の光矢が正確無比にミュータントの背のクリスタルを貫いた。

『GUA!?』

「はぁああああ!!」

 予想外の攻撃に驚いたミュータントへツインテが迫る。
 何度と見た左右の連打。
 体のブレは少なく、そのツインテールだけが風に揺れる。
 熱気を帯びるかのように橙色に輝くオーラを放って。
 一撃一撃。
 速く重い刀の振りが一つになる。
 
(ああ……なるほど)

 左右の連打……そう思っていたけれど、ほんとうはコレなのか。

「――――『桜花一閃』ッッ!!」

 迸る闘気と共にミュータントを一刀両断。
 舞い散る闘気が桜のように散る。
 
「はぁっ、はっ、あはは。 見てた、ベルゼ君?」

 満開の桜のような笑顔で、ツインテはこちらにドヤ顔を向けてくる。
 『仙道 美愛』という少女の本質が見えた気がした。
 
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