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第二章:魚と犬と死神

百三話:領地化

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 猫の万屋『猫の手』。
 元は動物病院だった場所に世界の異変と共にできていた。
 動物病院がどうなってしまったのか、それは考えたくない。
 
「いらっしゃい、人族」

 物がたくさんある雑貨屋のような店内に、いつもより多い人数で俺たちは押しかけていた。

「こんにちわ、猫さん!」

 服部、九条、反町と東雲東高校の先輩たちも一緒だ。
 ついに先輩たちも中継拠点を制圧し魔晶石を手に入れた。
 凄いな。いざとなったら助けるつもりだったけど、心配し過ぎたようだ。
 魚頭の拠点にあった魔晶石はアクアマリンの宝石のように美しくひんやりと冷たい。

「はやくも魔結晶四つ集めましたか。 クフフ、素晴らしい」

 アメショをそのまま大きくしたようなハンサム猫はその被っている帽子を取り肉球で拍手をした。
 ポムポムと謎の音が店内に響く。

「さて、本日は何をお求めですかな?」

 カウンター越しに猫の店主が尋ねてくる。

「領地化する魔道具をください!」

 反町さんが持っていたバッグをどさっとカウンターへと乗せる。
 それは大量の魔石とドロップアイテムだった。
 これらをクレジットへと換金してもらう。
 ちなみにクレジットは『猫の手』共有で保存してくれるらしく、別の『猫の手』でも使えるとのこと。

「1万クレジットには十分足りそうですねぇ。 クフフ、この世界初ですよ。 誇りなさい人族」

 世界初。
 『猫の手』は世界中にあるってことか?
 やはりこの異変は日本だけじゃないんだろうな。

「ではこちらが領地化の魔道具ですね。 注意点は占領している領地で使用すること、使う場所には注意したほうがいいですね。 領地の核になるので防衛しやすい場所がいいでしょうねぇ」

 服部先輩が魔法のスクロールを受け取る。
 覗いてみると複数の魔法陣と不思議な文字が刻まれている。
 直感的に四つの大きな魔法陣に魔結晶乗せるんだとわかる。
 
「火属性が二つに、土と水ですか。 なかなかバランスが良いですねぇ」

 駐屯地で倒したデカイ怪物の魔結晶はやはり土属性だった。
 魚頭が水属性なのは納得だ。

「しかも一つはネームドの魔結晶ですからね。 クフフ、楽しみですねぇ。 あぁ愉快。 キャンキャンと五月蠅い犬どもが静かになってくれて嬉しいですよ」

 ニヤリと笑う猫の店主。
 いつまでもいるとなんだか精神が侵されそうだ。
 さっさと帰ろう。


◇◆◇


 さて、領地化の魔道具をどこに置くのかという問題だが、候補としては二つ。
 一つは校長室。
 隔離された部屋であり重要物を保管するにはちょうどいい。位置的にも敷地の中心だ。
 もう一つは天体ドームだ。
 屋上に設置されていて一番攻め込まれずらい場所ともいえる。
 高価な物が置いてあるので扉も厳重だ。
 ただ万一にも空からの敵が来た時にマズイ。

「やっぱり校長室だね」

「ああ」

 校長室に入ると独特の家具のにおいがする。
 来賓対応で使うためかそれなりに良い家具なのだろう。
 壁には歴代校長の写真。
 トロフィーや旗も置いてある。
 校長室なんて普段きにしたことがなかったが、意外と広いんだな。

「……やってみるよ!」

 テーブルの上に領地化の魔道具が置かれる。
 赤、赤黒、茶色、水色と魔結晶四つが置かれた。
 神秘的なオーラを放つ魔結晶。
 呼応するように魔道具の魔法陣が光だす。

「わあ!?」

「綺麗……」

 魔法的な光景に葵が見惚れている。
 いや皆がその神秘的な光景にのまれていた。
 魔法陣の上で発光していた魔結晶が光の粒子になって、中央の魔法陣の上でまとまっていく。
 固唾をのんで見守る中、すべての魔結晶が消えると中央にはルベライトの魔結晶ができていた。

「これが、核なんだね」

 服部先輩が手を触れると、ルベライトの魔結晶から波紋が生まれた。
 波動のように周囲へと放たれる。

「――うわわっ!?」

>>>領地を獲得しました。
>>>東雲東高校支配地域。領主は魂魄ランクによって周囲から仮決定されました。任命することも可能です。
>>>任命しますか?

 どうやら領主なってしまったらしい。
 大丈夫か? いや、大丈夫ではない。
 魔王の支配地域だとか独裁政権だと思われて軍隊を向けられかねない。
 誤解されるのが目に見えているのだ。
 そもそもガラじゃないしね。
 いろいろ出歩きたいし、適任は他にいる。

>>>『服部 慎之介』を領主に任命します。 本当によろしいですか?

 もちろんイエスだ。

>>>『服部 慎之介』を領主に任命しました。

「つ! ……鬼頭君っ、ありがとう。僕、頑張るよっ!」

 服部先輩のクリっとした瞳に決意の炎が見えた。

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