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第二章:魚と犬と死神

九十五話:超大型

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 藤崎市は怪物の出現という未曽有の危機を自衛隊の活躍により乗り切った。
 怪物は自衛隊では小型、中型、大型と大きさによって区分された。
 北の東雲市街地からやってくる怪物はほとんどが小型であった。
 それは醜悪な顔をした小人のような怪物だ。
 小人を怪物と呼ぶのか? 
 その残忍さを見ればそう呼ぶだろう。
 奴らはずる賢く残酷で邪悪で臭い。
 最悪の怪物だ。
 今もまた建物の陰からこちらを監視している。

 東からは時たま野犬の怪物が出ることがあったが、最近はほとんどなかった。
 問題は南西方面だ。
 最初のころは少なかった敵が、徐々に増え、押され始めている。
 ゆっくりと。
 着実にこちらに詰め寄ってきていた。

「警報を鳴らせッ! 大型出現! まっすぐこちらに向かってきているッッ!!」

 陸上自衛隊の敷地の入り口。
 動かなくなった車両を利用し、強固なバリケードが設置されている。
 さすがは本職というべきか、東雲東高校よりもその頑丈さは見ただけでわかる安心感がある。
 迷彩3型にテッパチを被った隊員たちが急いで集まる。
 その中には寺田も山木もいた。

「嘘だろ……」

 89式小銃に銃剣を装着していたが、その怪物を見るや山木は06式小銃てき弾を装着した。 
 これは対戦車戦闘を想定したライフルグレネードである。
 すでに射程範囲にあるが、山木は使用できない。
 弾薬の節約。
 発砲許可なしに使用できない。

 迫りくる大型の怪物を前に、自衛隊員たちは銃を構える。

「ははは、デカいっすねぇ……」

 民家の塀を破壊し、放置された車両を弾き飛ばしながらまっすぐとこちらに向かってくる。
 その歩が遅いだけに圧力は半端ではなかった。
 地響きが腹に響く。

「超大型……」

 まるで小山のような巨人。
 顔は毛むくじゃらで異様にデカい鼻が目立つ。
 体も体毛に覆われており背から降りた毛を引きずって歩いている。
 両の腕は長くこちらも体毛でおおわれている。
 ズンゥン、ズンゥン、と歩くたびに音が聞こえるようになった。

「外すなよ! 用意、テーッ!」

 89式小銃より硝煙が吹かれる。
 確実に着弾しているはずだが……超大型は歩みを止めない。
 
「撃ちます!」

 山木たちがライフルグレネードを発射。
 全弾怪物に着弾し数秒後に爆発した。
 だが。

「くっ!?」

 たしかに着弾はしたはずであるが、効いているのかすらわからない。
 迫りくる超大型に自衛隊員たちに動揺が走る。

「カール君持ってくるっす――――えっ!?」

 超大型へと迫る人影。
 大剣を担ぎ黒い粒子を放出する人が民家を飛び越え近づいていた。

「まてっ! 撃つな!!」

 判断を迷う隊長の代わりに山木が声を張る。

「味方《・・》だ! アレは味方だっっ!!」

 山木は叫び手を挙げた。
 こちらへと視線を向ける少年に向かって。


◇◆◇


 山木さんぽいな。
 フル装備でわかんないけど、聞こえた声はたしかに山木さんだった。
 浸食されていてもガードドッグイヤーの調子はいい。 むしろ前より良い気がする。
 俺のスペックが上がっただけかな?
 魂魄ランクも上がってたんだよね。
 『ヒーロー』ってカッコイイ。
 
「怪獣かよ」

 撃たれたらどうしようかと思ったんだけど、山木さんがいてくれてよかった。
 これで気兼ねなく横取りできる。
 見てた限り銃とかグレネードでも倒せないみたいだし。
 もっと凄い武器もあるんだろうけど。
 まぁ節約してもらって獲物を俺に寄越しなさい。

「はっ、ははは!」

 あーなにこいつ。
 めっちゃタコ殴りできる。
 ヴォルフライザーを叩きつける度に金属音が響く。
 長い体毛に覆われているけど、めちゃくちゃ固いぞこの毛。
 斬るごとにヴォルフライザーの刃の回転が上がる。
 回転の音は透き通り、漆黒のオーラを纏う。
 
「はぁっはっはははっはあはは!」

「ンゥエェウ……」
 
 怪獣が鳴いた。
 横なぎに振るった腕が民家の塀を壊し家屋も半分持っていく。
 わぁお。 怪獣映画だわこれ。
 俺は塀を蹴り空を蹴り、怪獣の裏を取り続ける。

「『虚空回転斬り』!」

 脳天から背中全部をヴォルフライザーごと回転し斬りつける。
 ここぞとばかりに試してみたかった技を繰り出す。
 こんなに殴りやすい敵はいなかった。
 巨大なサンドバッグである。

「『千枚兜通し・改』!」

 本来は短槍で使う技であるが、大剣でやってみたら漆黒のオーラが変形し螺旋を描き怪獣の脳天を貫通した。
 これが止めとなり怪獣は地に伏した。
 ゆっくりと煙を上げ消えていく。 

>>>魂魄獲得 920ポイント

「マ?」

 消え去った後には魔結晶も落ちている。

 激ウマ怪獣じゃん!!
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