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第二章:魚と犬と死神

八十七話:中継拠点攻防戦 ⑤

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>>>ヴォルフガング≪ベルセルク≫発動を確認しました。 浸食を開始します。

「……ぐっ!?」

 俺の体を青い炎が渦を巻き包み込む。

 無機質なアナウンスと共に体を激痛が駆け巡る。
 体の細胞一つ一つを作り変えられるような。体をめちゃくちゃに掻き混ぜられるような痛みが俺を襲う。

>>>ガードドッグイヤーを浸食完了。 ……ブラックホーンリアの浸食に失敗。……≪ベルセルク≫を付与完了。

「む!?」

 吹き飛ばされる勢いは消え、青い炎の中にいる。
 俺の両腕に毛が生えてきた。
 ふさふさと青い毛が生える。 青というよりも紺碧色か。
 胸元をみればやはり毛が生えている。
 胸の中心に青い炎が渦巻いている。
 全身が紺碧色の毛並みに覆われていく。

「ぐううううううううう!?」

 脈打つ痛みが、指輪から放たれる波動が、脈打ち俺の心を浸食しようとしている。 激しい殺意が湧き起こる。 こめかみの辺りの血管が激しく脈打つ。 脳が焼き切れる!?
 叫べ、殺せ、吠えろ、皆殺しだ。
 それは怨嗟の念のようだった。
 
(呪いの武具じゃねぇかっ!?)

 ガチャから呪いのアイテムとか冗談はやめてくれ。
 意識が朦朧とする。
 それでもどうにかのみこまれないように抵抗をしていると、一人の男の姿を幻視した。
 まったく知らないその男の記憶が、濁流のように流れ込む。
 やめろ。
 それ以上来るな。
 ――入ってくるなっ!!

>>>『鬼頭神駆』の浸食に失敗。……ベルセルクを付与。

 治まった……?
 浸食されかけてたのかよ!?
 流れ込んだ男の記憶は一瞬だったが、あまりにも壮絶な人生だった。
 それは異世界の奴隷剣闘士の一幕。

「どうでもいい」

 なんだか体に入られたようで気持ちが悪いが、どうでもいい。
 それより、今はアイツをぶっ殺す。
 俺の周りを渦巻いていた青い炎が掻き消える。

「さぁやろうぜ」

 大剣を肩に担ぎ俺は黒炎の怪物へと歩む。
 全身満身創痍のはずなのに、気分は晴れ足取りは羽のように軽い。
 胸の中央、渦巻く青い炎が全身に力を漲らせる。
 今なら。

「ひき殺してやるよッッ!!」

 倒せるっ!!

 ……あれ、俺……、なんかキャラ違くない?


◇◆◇


 ソレは苛立ち咆哮を放った。
 楽しみを邪魔した虫けらを始末しろ、と。
 配下の魔物たちは一斉に動く。
 元より美味しそうなメスの匂い。
 上の許可があれば喜んで飛びつく。
 厳しい犬の魔物の上下関係さえなければ。

「グル」

 ソレは思う。
 楽しいひと時であったと。 
 ただただ雑魚を蹂躙するだけのつまらない遊びではない。
 互いの命を懸けた戦い。
 最近では魔界ですらそのような戦いは無かったというのに。
 
「……」

 しかしそれも終わりだ。
 あのオスはもう戦えない。
 腕は折れ防具は破壊され満身創痍。
 最後の一撃は見事だった。
 強い制約が掛けられていた上でのことだが、自慢の腕を斬り飛ばされたなど、いつ以来だろうか。
 しかしこれで終わりだろう。
 また退屈な『げぇむ』の時間がやってくる。
 ソレはうんざりとした表情で飛ばされるオスを見た。

「ッ!!」

 気高き青い炎が舞った。
 まだ終わらないのか? まだ遊んでくれるのか?
 なんと優秀な戦士《オス》か!
 実に良い。
 殺した暁には祭壇を彩る彫刻としてやろう。
 立派に飾ってやろうぞ。
 ソレは主に見せたら褒めてくれるだろうか、などと戦闘中に盛大に考え事をしていた。
 あぁ、ただただ油断をしていたのだ。

「――――がぁ!?」

「雑魚が! 気持ち悪ぃニヤケずらしてんじゃ、ねぇぞッッ!!」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 青き疾風は彼我の距離を一瞬で詰める。
 青い狼人《ウェアウルフ》がソレを蹂躙する。
 大剣を片腕で振るいソレを切り刻む。
 柔軟な下半身の筋肉が縦横無尽に暴れまわり、高速の体重移動を持って片腕での高速の剣技《・・》を見せている。 力任せな振り回しではない。 筋肉と柔軟性、それに慣性と重力さえも味方にした技がそこにはあった。

「ガルァアアアアッ!!」

 ソレは咆哮と共に残った太腕を振るい爪牙で襲い掛かる。
 しかし、無駄だった。

「遅えぇえ!!」

 カウンターで放たれた爪牙を躱し逆に大剣を繰り出す。
 宙を舞うのは太腕だ。

「ぐぅる!?」

「終わりだ」

 金眼がソレを見つめ勝利を宣言する。
 
「ガルアアア――アァ……ァ」

 野犬の如く大口を開けて嚙みついたソレ。
 油断なく青い狼人はその首を跳ね飛ばした。
 宙を舞うソレは激しい怒りの表情のまま塵となって消えていく。
 その後には大きな黒炎の魔結晶が残されていた。


◇◆◇


 野犬の群れが押し寄せる。

「ちょっ、おおいってぇえーー!」

 ミサちゃんのメイスが野犬を殴り倒す。
 でも続く野犬がその脇を通り抜けてくる。

「やああああ!!」

 私はバックハンドに構えたメイスをドライブショットを打つように振りぬいた。
 ぎゃん、と野犬の怪物を倒す。
 だけどさらに続く野犬が私の横をすり抜けていく!

「葵ちゃん!」

「ファイヤーボール!」

 葵ちゃんもつスペルカードが光と共に炎の玉へと変わり魔物へと襲い掛かる。
 異常な戦闘に目が回る。
 それでもできるだけ視野を広く。
 テニスの試合と一緒だ。 焦って視界が狭くならないように気を付けないと。 
 
「玉木さんっ、後ろ!!」
 
 玉木さんに向かって多くの魔物が殺到する中で、赤黒い野犬の魔物が回り込んでいる。
 やっぱり知恵を持つタイプは危険だよ。
 いつもは鬼頭君が警戒して真っ先に倒してくれている。

「はぁつ!」

「がるっ!」

 玉木さんの槍が赤黒い野犬に届く、だけど、その爪も彼女の綺麗な肌に傷をつけた。

「つッ! ……大丈夫。 全然、大丈夫!」

「っ、はい!」

 もう葵ちゃんも玉木さんも魔法を放っていない。 
 たぶん使えないんだ。
 大粒の汗を流し疲労の色が強い。

「だあぁっ、来ちゃったぁ! 来ちゃったよぉおおお!!」

「!」

 戦場にミサちゃんの絶叫が響く。
 他の野犬よりも一際大きく、顔が二つある怪物だ。
 炎の息吹を放つ危険な怪物。
 他の怪物よりも足は遅いみたい。

「ミサちゃん、気を付けてぇえ!」

 盾を構えたミサちゃんが怪物の周りを走り回った。
 気を引いて時間を稼ぐつもりなんだ。
 
「っあ、だめーーーー!」

 だけど、二つ頭の怪物はミサちゃんを無視して、玉木さんに一直線に走っていく。
 玉木さんの魔物寄せ、強力すぎだよ!?
 炎を吐くことすら忘れ大口を開け突き進む。

「サンダーボール!」

 葵ちゃんのスペルカードが雷の玉を発生させる。
 ゆっくりとした動きで玉木さんと二つ頭の怪物の間で待ち伏せる。

「あっ!?」

 サンダーボールは二つ頭の怪物にヒットする。
 だけどその攻撃も無視して突き進んだ。

「……来るって、信じてた」

 私と葵ちゃんとミサちゃんが玉木さんの名前を叫ぶ。
 でも玉木さんは落ち着いて、二つ頭の怪物を見ていた。
 ううん。
 二つ頭の怪物の先、私たちの後ろから一瞬で距離を詰めた彼を見ていた。

「シンク君!」

「「ガウガウアッーー!?」」

 颯爽と二つ頭の怪物を追い抜き、その手に持った大剣で真っ二つにした鬼頭君。
 青い衣装?
 その髪は襟足が背の辺りまで伸びてシルバーブルーのふさふさの毛になってる。
 それにお尻にふさふさのシルバーと青い色の尻尾が!?

「またせたな」

「ふぇっ!?」

 玉木さんを抱き寄せた鬼頭君。
 なんだか顔だちもワンちゃんというか、オオカミさんで、ええええええええええええええ!?

「ふぁぁ、っあ、っみんあっ、みんながみてる、だめぇっ」

 めちゃくちゃおっぱい揉んでる!
 鬼頭君がおっぱい大好きなのは知ってるけど、こんな時になにしてるのーー!?
 玉木さんの白い肌が上気して桃色に変る。
 彼女の周りにあった赤黒いオーラが消えていく。

「充電、完了。 うまかったぜ?」

「んやっ!?」

 ぺろりと、玉木さんの首筋を舐めたシンク君は凄い勢いで魔物の群れに飛んで行ったよ。

「「「……」」」

 玉木さんはその場に腰砕けで崩れ落ちて、私たち三人は何も言えずその場で彼が蹂躙するのを見ていた……。

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