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第一章:鬼頭神駆は誤解が解けない

三話:魚頭

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 悲鳴だ。
それも複数。 階下から聞こえたけたたましい悲鳴に、クラスが静まる。

「なに……?」

 その呟きに答えられる者はいない。

「どうしよう?」

「カオリン来るまで待ったほうがいいでしょ?」

 何かが起きている。
その何かを確認せず、ただ教室で教師の帰りを待つべきか?
 
 否。
『常に考え動け。 考えることをやめれば死ぬだけだ』
 祖父の特訓で得た教訓に突き動かされ、俺は教室から出ていく。

「!」

 廊下に何人かの生徒が。
みな階段を覗き下の様子を気にしている。
ただ厄介なことに校舎の端である六組は、非常階段と隣接していた。
 その非常階段を駆け上がる足音。

 その音が気になった俺は曇りガラスのドアから覗き込んだ。

「キカゥ、キカゥゥ」

「……」

 変な鳴き声を上げる、変な生物が見えた。
 ゲームで例えるならば、サハギンだろうか。
魚頭の気持ち悪い青色の体色をした、若干前かがみの二足歩行な生物だ。

「っ……」

 魚頭がゆっくりとこちらを向き、その異様に赤い魚の瞳と目が合う。
 ああ。 これはダメだ。 絶対に相容れない。 
 俺とあいつは絶対に仲良くなれない。 その瞳を見ただけですぐに分かった。

「む」

 魚頭はこちらではなく、ベランダ側に進んだ。
 
 マズイ。
 教室とベランダは窓ガラス一枚だ。

――バァン!

 俺はすでに閉められていた教室のドアを思い切り開けた。

「うひぃいい!?」

「ごめんなんさいいいいいっ」

「いやああああああああ!!」

「……」

 俺だけど……?
 窓から覗く魚頭ではなく、急いで入った俺を見て悲鳴を上げるクラスメイトたち。 ちょっと酷くないか? ぶっ飛ばすぞ?

「……後ろ」

 後ろだ! 早く逃げろ!! そう伝えたかったのに。
俺のシャイな口はボソリと呟くのみ。

「はっ?」

「ナニコレ? コスプレ?」

 なんで俺の時より冷静なんだよ。
 ぶっ飛ばすぞ??

「キカゥゥゥゥ!」

 窓ガラスを突き破る魚頭。
鋭い爪と魚のヒレのような物がついた手を振るい、近くにいた男子生徒を襲う。

「ぎゃああああ!?」

「田中っ!!」

 窓際にいた少し太ったクラスメイトから血飛沫が飛んだ。
それと同時。 みんな悲鳴を上げて教室から飛び出した。

「木実っ、早く!」

「あ、あぁ……」

 倒れたクラスメイトを見て、震えて崩れ落ちた木実ちゃん。
腰が抜けたのか、褐色肌の友人Aが声を掛けるも立ち上がれない。

 魚頭が木実ちゃんへと歩み寄る。
 無機質な赤い魚の瞳。 それとは異なる人のような体型は、腰に巻いた粗末な茶色い布を大きく変化させていた。 まるで布を棒で突き上げているように変化しているのだ。

――コイツ、木実ちゃんに欲情している?

 そう思うと、どこかその不気味な顔も愉悦に歪んでいるように見えた。

「……殺ス」
  
 俺は突き進む。
机も椅子も吹き飛ばし一直線に魚頭へ。

 俺に気づいた魚頭は怒ったようにその鋭い爪を振るう。
先ほどの男子生徒のように、切り裂き血飛沫を舞わせるつもりか。

「シッ!!」

「キコッ!?」

 俺は前蹴りを放つ。 つま先を伸ばし極限までリーチを活かしながら。
魚頭の背丈は女子生徒くらい。 つまり百五十センチ程度。 やつの爪が届かない距離から、膨れた股間に強打を叩き込む。

 祖父・ジェイソンに叩き込まれた格闘術は至ってシンプル。 
 最速の攻撃を最大距離から相手の弱点に叩き込む。
拳銃があるなら拳銃を使う。 バットがあればバットを、ナイフがあればナイフを、あらゆる物を利用して敵を制圧する。 まぁ基本は拳なんだけど。

「……死ネ」

 股間を押さえ蹲った魚頭の頭を踏み潰す。
 グチュリと、潰れた感触が足から伝わり、汚らしい液体が上履きを汚した。

>>>魂魄獲得 1ポイント

 また、無機質な声が聞こえた。
頭の潰れた魚頭は『シュー』と音を立て黒い煙を上げ消えていく。

「……おい」

 ふあっ! 

『大丈夫か、木実ちゃん? どこか怪我をしてないか?』 
 そう聞こうと思ったのに「……おい」ってなんだよ……。 木実ちゃんは犬猫ではないのだ、失礼だろ。 って俺か!

「あっあぅっ……うぇっ、うええ……」

 我が天使が吐いた。
 俺を見て吐いたわけではないと思う。 恐らく血だらけで死んでしまったのか目がグリンとなってるクラスメイトを見てだろう。 俺がスプラッタに魚頭の頭を踏み潰して脳漿をぶちまけたからではないと思う。
 
 天使はキラキラと輝く嘔吐物をまき散らしている。
それによく見ると、ペタリと座り込んだ足元から池がっ!

「……」

 マズいな。
お漏らしに嘔吐か。 いくら木実ちゃんでもイジメられるかも。
そんなことは無いかもしれないが、これがバレるとトラウマや好感度が落ちてしまうかもしれない。 

「あっ、ちょっと!!」

 俺は木実ちゃんをお姫様抱っこしバッグを持って走った。
極力揺らさないようにすり足で。 
 羞恥なのか、怖かったのか。
木実ちゃんは俺の胸に顔を埋め泣いていた。

 叫ぶ友人Aを無視して俺は走り去る。

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