上 下
37 / 60

不穏・カイン視点.

しおりを挟む
16ルーエンさんと再び会う事が出来た、ずっとずっと会いたかったのに…心はまだ満たされていない。

ルーエンさんに想いを伝えたけど、ルーエンさんの瞳には迷いがあった。
俺の事を意識していなかった事には驚いたが、ルーエンさんに意識してもらえるように頑張ればそれでいい。

でも、それよりももっと重要な事がある…俺とルーエンさんは違うんだ。
人間と魔法使い、俺が思っていたより壁は分厚い……だからといって俺は諦める気はない。

ルーエンさんの事を人間だと勝手に勘違いしたが、ルーエンさんが人間だったら良かったなんて思わない。
ルーエンさんの全てを受け入れて俺は会いに行ったんだ。
魔法使いだからダメ、人間だからダメだと言うならそれこそ共存の道を作る。

まだ魔法使いと共存を結ぶ事は国民達に言わない、大半が魔法使いを憎んでいる状態でそんな事を言ったら国は混乱する。
共存出来るようになってから、俺は国民に伝えるつもりだ。

声のした方に向かっていると、見知った顔が数人いた。

イレインが先に俺に気付いて、慌てた様子で駆け寄ってきて他の人達も気付いて近寄ってきた。

「カイン様!ご無事でしたか!?」

「心配掛けた、皆無事で良かった」

イレインは大袈裟のように泣いていて、しばらくされるがままになった。

副騎士団長は「分かりましたか?偵察は危険なものなんです、貴方にはまだ早すぎる」と言っていた。
何も早くはない、俺が怯えているように見えるのか?

傷を治して、今度は始まりの魔女だけではなく近くにいた女の事も考えなくてはいけない。
始まりの魔女の話しか聞いていなかったから単独行動をしていると思っていた。
やっぱり実際に見ないと分からないな、今度は油断しないようにちゃんと対策を考えないとな。

「カイン様?聞いていますか?」

「俺は再び魔女討伐隊を作る」

「なっ!?」

「本気なのか!?…あ、いや…ですか?」

「俺は一人になって改めて気付いた、するべき使命を」

始まりの魔女を俺しか倒せないというのなら、俺は戦う。
実際に戦場に立たないと気付かない事があまりにも多すぎた。

ずっと国にいても、強くなる筈がない…俺は自分の目で学んで確実に魔法使いと人間の戦いを終わらせてみせる。

そのためには犠牲は最小限に抑える必要がある……正直始まりの魔女を倒せない奴が森に入っても始まりの魔女の養分になるだけだ。

イレインは不安そうな顔をしているが、俺がやるべき事は魔女を倒す事だけではない。

森を出ると、すぐ近くで女性が座り込んでいて野犬に襲われているのが見えた。
しかも、ただの野犬ではない…よだれを垂らして口が異様に裂けている化け物だった。

森の外でも魔法使いや化け物が目撃されているのを知っている。
今は聖剣の石で守られている帝国だが、いつ襲ってくるか分からない。

大きな口を開けて襲ってくる犬を聖剣で薙ぎ払うと灰になって消えた。
この犬はそんな強くなかったが、いつ強い魔法使いが現れるか分からないし、始まりの魔女に呪われた人間が何をするか分からない。
全部あり得ない事ではない、いつだって最悪の状況を考えないといけない。
騎士団の強い奴が皆帝国を離れる事は避けなくてはいけない、今守っているのは魔法使いと戦えない騎士だ。

ルーエンさんに言われて、その事も考えないといけない気持ちになった。

「君、大丈夫か?」

「…は、はい」

「この森の近くは危険だ、もう近付くな」

「ごめんなさい」

女性は落ち込んでいたが、そんなキツイ事を言っただろうかと考える。

「怪我がなくて良かった」と言って女性を起き上がらせてイレインに頼んで女性を家まで送らせる。
同じ帝国出身で良かった、国王の俺が女性を送るとあらぬ噂が立つ。

俺は犬の灰の中になにかがあるのが見えて、それを掴んだ。
黒い石、俺のペンダントの宝石に似てる気がするがなんで灰の中にあったのか。
食べたけど消化出来なくて、死んでから出てきた…そんなところか。

「カイン様、まだ貴方は隊長として戦場に慣れていません!!」

「最初は皆そうだ」

「だから森の外にいる魔法使いで慣らしてから魔女討伐隊を」

「お前は何故そこまで俺を森に入らせたくないんだ?」

「…っ!?」

「何を隠してるんだ」

目を細めて副騎士団長を見ると、他の仲間が助け舟のように「副団長はカイン様が心配なんですよ!」と言っていた。
それだけならいいが、もっと他にあるような気がしてならない。

まぁここで考えても仕方ない、一日休んだから国王の仕事を片付けないとな。
さっきまでずっと止めていたのに、帝国に戻るまで副騎士団長は何も喋らなかった。

俺が戦っているのは始まりの魔女だ、魔法使いとの戦いを慣れても始まりの魔女との戦いではない、戦略も大きく異なる。
それに俺は街の外にいる人を襲う魔法使い達と戦ってきた。
強い騎士が偵察に行ってしまって、俺とイレインしか戦える人物はいなかった。

だから戦いはとっくに慣れている、怯えも戸惑いもなくこの剣を振り下ろせる。
俺とルーエンさんの邪魔をする奴は誰だろうと許さない。

帝国に戻ってきたら、大勢の国民達が俺達を出迎えた。
パニックにならないように、俺が偵察に向かっている事を内緒にしておけと知っている奴に言ったのに、いったい誰が漏らしたんだ。

小さくため息を吐きつつ、出迎えてくれたからそれに手を振って応える。

父が始まりの魔女と戦った時を思い出す、あの時父は国民の姿を見られたのだろうか。
呪いに侵されてるいたから、それどころではなかったか。

「どういうつもりですか!カイン様!!」

「俺は魔女を討伐するのと同時に国も守らないといけない、その結果でこうしたら両方守れると考えたんだ」

「ですが!!」

寄宿舎の自分の部屋に戻り、副騎士団長を呼んだ…さっきの話の続きだ。

魔女討伐部隊という名だが、そこに入るのは俺一人だ。
魔女を倒せるのは俺しかいない、国を守るのはお前らしかいない。

騎士団の敵は魔法使いだけではなく、敵国の人間もいる。
あの結界は人間には当然効かない、最近近くの国同士が戦争を起こしたと聞いた…この国も狙われるかもしれない。

国を守るために二手に分かれた方がいい、それが一番だと考えた。
始まりの魔女から逃げてばかりいてはダメなんだ、森の外に出ている魔法使いがいる…いつ始まりの魔女が森の外に出るか分からない。
聖剣はもう封印として使わない、始まりの魔女を倒せなくなるからだ。
そうなったら、被害は俺達の国だけではない…大量の人間が命を落とす。

俺はそれを食い止めるために、こちらから始まりの魔女を探しに行かないといけない。
そうなった時、始まりの魔女と戦えない騎士が居ても仕方ない。

だったら、国を守ってほしい…今の俺には国を守る事が出来ないから…

「もし貴方一人で行って死んだらどうするおつもりですか?」

「死を恐れていたら始まりの魔女と戦えない」

「私は納得出来ません!」

「俺達が国をいっせいに離れたら誰が国を守るんだ」

「他の騎士がいます」

「もし敵国が来たらどうする?アイツらだけで国民を守れるのか!?」

「貴方がいる、貴方は未熟だが国を守る事くらい出来ます」

「……何?」

「貴方はここにいなくてはいけないんです」

副騎士団長が変な事を言っていて、眉を寄せて不審そうに見る。

俺を未熟未熟って言っているが、正直俺はこの副騎士団長と一緒に戦った事がないから俺の力を知らない筈だ。
鍛錬はいつも世話係のランドに相手してもらったが、魔法使い達との戦いもイレインと一緒にやっていた。

副騎士団長と仕事をした事があるが、見回りくらいした事があるくらいだ。

今日初めて副騎士団長達と仕事したが、なんで未熟未熟言われなきゃならないんだ?
コイツはいったい何を考えているんだ、副騎士団長はドアまで近付いて振り返った。

「今まで通りでいいんですよ、ただシュヴァリエの血があるだけの貴方は国の事だけを考えればいいんです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

残虐悪徳一族に転生した

白鳩 唯斗
BL
 前世で読んでいた小説の世界。  男主人公とヒロインを阻む、悪徳一族に転生してしまった。  第三皇子として新たな生を受けた主人公は、残虐な兄弟や、悪政を敷く皇帝から生き残る為に、残虐な人物を演じる。  そんな中、主人公は皇城に訪れた男主人公に遭遇する。  ガッツリBLでは無く、愛情よりも友情に近いかもしれません。 *残虐な描写があります。

悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました! スパダリ(本人の希望)な従者と、ちっちゃくて可愛い悪役令息の、溺愛無双なお話です。 ハードな境遇も利用して元気にほのぼのコメディです! たぶん!(笑)

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

転生したら乙女ゲームの世界で攻略キャラを虜にしちゃいました?!

まかろに(仮)
BL
事故で死んで転生した事を思い出したらここは乙女ゲームの世界で、しかも自分は攻略キャラの暗い過去の原因のモブの男!? まぁ原因を作らなきゃ大丈夫やろと思って普通に暮らそうとするが…? ※r18は"今のところ"ありません

病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子
BL
三枝貴人は総合病院で働くゲーム大好きの医者。 ある日貴人は乙女ゲームの制作会社で働いている同居中の妹から依頼されて開発中のBLゲーム『シークレット・ラバー』をプレイする。 ゲームは「レイ・ヴァイオレット」という公爵令息をさまざまなキャラクターが攻略するというもので、攻略対象が1人だけという斬新なゲームだった。 プレイヤーは複数のキャラクターから気に入った主人公を選んでプレイし、レイを攻略する。 一緒に渡された設定資料には、主人公のライバル役として登場し、最後には断罪されるレイの婚約者「アシュリー・クロフォード」についての裏設定も書かれていた。 ゲームでは主人公をいじめ倒すアシュリー。だが実は体が弱く、さらに顔と手足を除く体のあちこちに謎の湿疹ができており、常に体調が悪かった。 両親やごく親しい周囲の人間以外には病弱であることを隠していたため、レイの目にはいつも不機嫌でわがままな婚約者としてしか映っていなかったのだ。 設定資料を読んだ三枝は「アシュリーが可哀想すぎる!」とアシュリー推しになる。 「もしも俺がアシュリーの兄弟や親友だったらこんな結末にさせないのに!」 そんな中、通勤途中の事故で死んだ三枝は名前しか出てこないアシュリーの義弟、「ルイス・クロフォードに転生する。前世の記憶を取り戻したルイスは推しであり兄のアシュリーを幸せにする為、全力でバッドエンド回避計画を実行するのだが――!?

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?

秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。 蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。 絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された 「僕と手を組まない?」 その手をとったことがすべての始まり。 気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。 王子×大学生 ――――――――― ※男性も妊娠できる世界となっています

処理中です...