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森の異変
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母のところに行くと妹が母の膝でゴロゴロと転がり甘えていた。
普段からこうして甘えていれば可愛い妹なんだけどなと一度も甘えられた事がない兄がそう思った。
「ねぇお母様!私凄いでしょ!あんな大きな木を操ったのよ!」
「…えぇ、凄いわね…私に似たのね」
母は妹に甘すぎる気がするな、妹が優秀だからなんだろうけど…
甘えたいとも思っていなかったから別にいいと思うが、今妹はなんて言ったんだ?
なんか聞き流してはいけない事を聞いた気がして、妹を見つめた。
もしかしてあの普段は凶暴化しない木の怪物の暴走って…
考えたくないけど、元々俺達は悪役だからあり得なくはない…確かめるために母達に近付く。
妹は嫌そうに俺を見て舌を出して生意気な顔になる。
「アーシェ、その木って…大木で根っこが動く」
「それが何よ!」
母は妹が操ったのは木の怪物だと気付き、困った顔をするがどう言えばいいか分からず怒れなかった。
母は声を荒げる性格ではないのは分かっているが悪い事は悪いって言わなきゃ…森で住むなら森の住人達と仲良くしなくては…
妹からしたらただ自分の魔力を試しただけにしか思ってない様子で頬を膨らませていた。
木の怪物の暴走の正体を知ったから、あの少年の事が気になり戻ろうと思った。
もうやっちゃダメだよと柔らかく言ったつもりだったが妹には届かず「私に命令するな!」と一発殴られた。
女の子なのに何故そんなに拳が重いのか不思議に思いながら頬を押さえて少年がいるところに戻る。
そしてまた少年の高い悲鳴が聞こえて歩く足を早めた。
まさか木の怪物がまた現れたのかと不安でいっぱいだった。
妹が闇魔術を掛けたなら妹にしか解けないから俺は木の怪物を解放してやる事が出来ない。
あの妹が闇魔術を解くのかは分からないからとりあえず今は逃げるしかない。
秘密の練習場に着いてから、荒い息を整えながら足を止めた。
そこにいたのは、木の影に隠れて小さく丸まる姿が見えた。
プルプルと肩を震わせて怯えているであろう少年に近付く。
周りに集まり、心配そうに少年を見つめる野うさぎ達の頭を撫でる。
短く小さく悲鳴を上げていて、頭を抱えている少年の前で目線が合うように座った。
「…動物は嫌い?」
「…………うっ、どう…ぶつ?」
俺の声にビクッと大きく揺れたが恐る恐る顔を上げた。
大きな青い瞳が野うさぎを映して、ぱちぱちと瞬きをしていた。
あんな怖い事があったんだ、もしかしたら今は何でも怖く見えてしまったのかもしれない。
彼も見知っている動物に気付いて俺にも目線を向ける。
野うさぎを抱っこして少年に近付けると恐る恐る触れた。
背中をゆっくりと撫でてその温もりを確かめて頬を緩ませる。
「…温かい」
しばらくそうしていて落ち着いたのか強張った体がだんだん解れていった。
それにしてもこの子はなんでこの森にいるんだろう、噂を知らないのか?それとも間違って入ってしまっただけなのかもしれない。
家族のところに帰さないと心配しているだろう。
それにこの金髪碧眼の人形のように美しい顔…何処かで見た事がある気がする…えっと、何処だったっけ。
考え事をしていたら少年がジッとこちらを見ている事に気付いた。
そういえばまだ自己紹介していなかったな。
「俺の名前はルーエン、よろしくね」
「カイン!」
自分の名前なのか高らかにそう答えた。
カイン……あ、そうだカイン!ゲームの攻略キャラクターで一番人気があるキャラクターだ。
すっかり忘れていた、この世界がゲームに似ている世界だという事に…
俺は今まさに将来敵対する相手と会っていた。
いや、あれはゲームの話だし…妹と会わせないようにすればゲームみたいにならないと思う。
とりあえず森の入り口まで連れていこう。
「立って!入り口まで案内するから」
少年…カインの腕を掴むがカインは動こうとしなかった。
それどころか首を横に振り怯えた顔をしていた。
どうかしたのだろうか、森の入り口になにかあると言うのだろうか。
カインは何も言わずただ怯えてるだけで仕方ないから一人で見に行こうと秘密の練習場から離れた。
少し歩くと黒いローブを引っ張る感覚がして足を止め後ろを振り返った。
不安げに瞳が揺れながらこちらを見るカインが俺のローブを握って着いてきていた。
そりゃああんなところで置き去りにされたら怖いか。
カインの握りしめる小さな手を取り自分の手に繋げた。
ギュッと強く握られ一緒に歩いた。
顔は似ていないが知らない人から見たら兄弟に見えるのかもな。
入り口付近に行き驚いて目を見開いた。
「…なんだ、これ」
普段の入り口は木と木が絡み合い天然のアーチのようになっていた。
しかし今は無数の木の根が重なり分厚い壁のようになっていた。
カインの手を離し入り口に向かう。
木の根に触れるが頑丈でびくともしない。
手で叩いたり蹴ったりするが自分が痛くなるだけで無意味だった。
これじゃあ森から出れない、きっと暴走した木の怪物の影響だろう。
カインがとぼとぼとやってきて俺の手を握る。
その手の温もりにカインを見る。
普段からこうして甘えていれば可愛い妹なんだけどなと一度も甘えられた事がない兄がそう思った。
「ねぇお母様!私凄いでしょ!あんな大きな木を操ったのよ!」
「…えぇ、凄いわね…私に似たのね」
母は妹に甘すぎる気がするな、妹が優秀だからなんだろうけど…
甘えたいとも思っていなかったから別にいいと思うが、今妹はなんて言ったんだ?
なんか聞き流してはいけない事を聞いた気がして、妹を見つめた。
もしかしてあの普段は凶暴化しない木の怪物の暴走って…
考えたくないけど、元々俺達は悪役だからあり得なくはない…確かめるために母達に近付く。
妹は嫌そうに俺を見て舌を出して生意気な顔になる。
「アーシェ、その木って…大木で根っこが動く」
「それが何よ!」
母は妹が操ったのは木の怪物だと気付き、困った顔をするがどう言えばいいか分からず怒れなかった。
母は声を荒げる性格ではないのは分かっているが悪い事は悪いって言わなきゃ…森で住むなら森の住人達と仲良くしなくては…
妹からしたらただ自分の魔力を試しただけにしか思ってない様子で頬を膨らませていた。
木の怪物の暴走の正体を知ったから、あの少年の事が気になり戻ろうと思った。
もうやっちゃダメだよと柔らかく言ったつもりだったが妹には届かず「私に命令するな!」と一発殴られた。
女の子なのに何故そんなに拳が重いのか不思議に思いながら頬を押さえて少年がいるところに戻る。
そしてまた少年の高い悲鳴が聞こえて歩く足を早めた。
まさか木の怪物がまた現れたのかと不安でいっぱいだった。
妹が闇魔術を掛けたなら妹にしか解けないから俺は木の怪物を解放してやる事が出来ない。
あの妹が闇魔術を解くのかは分からないからとりあえず今は逃げるしかない。
秘密の練習場に着いてから、荒い息を整えながら足を止めた。
そこにいたのは、木の影に隠れて小さく丸まる姿が見えた。
プルプルと肩を震わせて怯えているであろう少年に近付く。
周りに集まり、心配そうに少年を見つめる野うさぎ達の頭を撫でる。
短く小さく悲鳴を上げていて、頭を抱えている少年の前で目線が合うように座った。
「…動物は嫌い?」
「…………うっ、どう…ぶつ?」
俺の声にビクッと大きく揺れたが恐る恐る顔を上げた。
大きな青い瞳が野うさぎを映して、ぱちぱちと瞬きをしていた。
あんな怖い事があったんだ、もしかしたら今は何でも怖く見えてしまったのかもしれない。
彼も見知っている動物に気付いて俺にも目線を向ける。
野うさぎを抱っこして少年に近付けると恐る恐る触れた。
背中をゆっくりと撫でてその温もりを確かめて頬を緩ませる。
「…温かい」
しばらくそうしていて落ち着いたのか強張った体がだんだん解れていった。
それにしてもこの子はなんでこの森にいるんだろう、噂を知らないのか?それとも間違って入ってしまっただけなのかもしれない。
家族のところに帰さないと心配しているだろう。
それにこの金髪碧眼の人形のように美しい顔…何処かで見た事がある気がする…えっと、何処だったっけ。
考え事をしていたら少年がジッとこちらを見ている事に気付いた。
そういえばまだ自己紹介していなかったな。
「俺の名前はルーエン、よろしくね」
「カイン!」
自分の名前なのか高らかにそう答えた。
カイン……あ、そうだカイン!ゲームの攻略キャラクターで一番人気があるキャラクターだ。
すっかり忘れていた、この世界がゲームに似ている世界だという事に…
俺は今まさに将来敵対する相手と会っていた。
いや、あれはゲームの話だし…妹と会わせないようにすればゲームみたいにならないと思う。
とりあえず森の入り口まで連れていこう。
「立って!入り口まで案内するから」
少年…カインの腕を掴むがカインは動こうとしなかった。
それどころか首を横に振り怯えた顔をしていた。
どうかしたのだろうか、森の入り口になにかあると言うのだろうか。
カインは何も言わずただ怯えてるだけで仕方ないから一人で見に行こうと秘密の練習場から離れた。
少し歩くと黒いローブを引っ張る感覚がして足を止め後ろを振り返った。
不安げに瞳が揺れながらこちらを見るカインが俺のローブを握って着いてきていた。
そりゃああんなところで置き去りにされたら怖いか。
カインの握りしめる小さな手を取り自分の手に繋げた。
ギュッと強く握られ一緒に歩いた。
顔は似ていないが知らない人から見たら兄弟に見えるのかもな。
入り口付近に行き驚いて目を見開いた。
「…なんだ、これ」
普段の入り口は木と木が絡み合い天然のアーチのようになっていた。
しかし今は無数の木の根が重なり分厚い壁のようになっていた。
カインの手を離し入り口に向かう。
木の根に触れるが頑丈でびくともしない。
手で叩いたり蹴ったりするが自分が痛くなるだけで無意味だった。
これじゃあ森から出れない、きっと暴走した木の怪物の影響だろう。
カインがとぼとぼとやってきて俺の手を握る。
その手の温もりにカインを見る。
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