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寂しさが埋まらない再会・カイン視点

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母が病気だと聞き、一瞬抵抗が弱まった。
それを見計らいランドが俺を担ぎ走った。

森を出るのならルーエンさんも一緒がいい、そう訴えてもランド達は俺を逃がす事しかなく話を聞いてくれない。
ルーエンさんの名前を何度も呼ぶ、俺がピンチの時はいつも駆け付けてくれた愛しい人の名を…

その声は風となり虚しく響き消えた。

俺を連れ戻す事は既に国民に知らせていたのか、門をくぐり久々に城下町に戻ると多くの国民達が出迎えた。
嬉しそうに笑う者、感動して泣く者、様々な顔があった。

どうやら俺は凶悪な魔女に誘拐されて勇敢にも無傷で生きて帰ってこれたとなっているそうだ。
魔女なんて見た事ない、それに俺が森で生きれたのはルーエンさんのおかげだ。
あの人がいなかったら俺はきっと数日持たずに死んでいた。

やはり英雄の器だと喜んだ。
俺には正直分からなかった。
……俺なんて器じゃないだろう、そう思った。

沢山の国民達に祝福されながら俺は城に急いだ。
まずは国王に挨拶をというランドを無視して母の部屋に急いだ。

ドアを開けるとベッドに横たわる母を見た。
すぐに駆け寄り母の手を握った。
こんなに母の手は細かっただろうか、これも病のせいか。
頬も痩けていて最後に見た母の顔とは随分と違って見えた。
6年間はとても長かったんだなと感じた。

「お母様、俺です…カインです…ただいま戻りました」

「………カイ…ン」

目蓋を開きこちらを見た。
俺は必死に頷き涙を堪えた。

母は力のない顔で小さく微笑み、俺の頬に触れた。
存在を確かめるようにゆっくり、ゆっくりと撫でられる。
もっと早く帰ってくれば良かった……いや、もしかしたら俺が誘拐されたからだ気を病んでしまったのかもしれない。

俺は椅子に座り、母にいろいろ話した。
ほとんどルーエンさんの話だけど、母は俺の話をとても楽しげに聞いてくれた。

「それで俺、狩りが出切るようになったんです!お母様にも俺が取ってきた魚を食べさせたいです」

「…それは楽し……ごほっ!ごほっ!」

「お母様!」

突然激しい咳払いをして俺は心配で身を乗り出す。

すると俺と一緒に部屋にやってきてずっとドアの前にいたランドがこちらにやってきた。
そっと俺の肩を叩いた。

母にこれ以上無茶をさせてはいけない、そういう事だろう。
俺はまた来ると母に言い部屋を出た。

俺が国王になるって言ったら母は安心出来るのだろうか。
父は厳しい人だったから苦手意識は強いが行かなくてはいけないよなとため息を吐いた。

父は部屋にいるらしく通された。

部屋に入り驚いた。

いつも厳しく眉を寄せて怒っていた父が今では眉を下げて、父らしからぬ威厳も何もない顔をしていた。
驚き固まる俺の代わりにランドが「カイン様をお連れしました」と父に知らせる。
父はすぐにこちらに顔を向け驚いていた。

ランドに軽く背中を押されて二、三歩前に出る。

「カイン、本当にカインか?」

「…お父様」

俺が口にすると父は転げ落ちるように椅子から降りた。
床に倒れる椅子には目もくれずまっすぐとこちらにやってきて俺を抱き締めた。

痛いくらい抱き締められる。
指からは父の震えが伝わる。

こんなに心配されるなんて思わなかった。
父の事だから俺の事なんて何とも…
両親の愛を感じてポロッと涙が溢れてきた。

俺はここに帰ってきたんだ、そう実感した。

「カイン、よくぞ無事で帰ってきた」

「……お父様、心配かけてごめんなさい」

父の背中にしがみつき抱き締めあった。

何分くらいそうしていたのだろうか、離れると父は「大きくなったな」と俺の頭を撫でた。
俺は自分のように誇らしげにルーエンさんのおかげだと話した。
やっぱり両親にはルーエンさんの事を知ってほしかった。

ルーエンさんにサバイバル術を教えてもらった事を父に話したらしばらく父は考えていた。
どうかしたのだろうかと首を傾げる。

「…最近は森の入り口が塞がっていたから被害はなかったが、入り口が開いた今…また無謀にも森に入る民が増えるだろうな」

それは拐われる前から父がずっと言っていた事だった。

森には悪い魔女がいるから立ち入り禁止にしても、それを潜り抜けて入ってしまう。
何度注意警告を口にしても耳を貸さない者は何を言っても無駄。
もしかしたらルーエンさんもそんな理由で森にいたのかもしれない。

しかしルーエンさんは森の珍品に興味がなさそうだったが、趣味で自給自足をしてるとか?
ルーエンさんが森にいる理由を聞いた事がなかった、それが当たり前だと無意識にそう思っていた。

森にまだいるのだろうか、俺がいなくなった事にまだ気付いていないのかもしれない。
お別れの挨拶をしていないから俺を探してるかもしれない。

急いでルーエンさんを連れ出さないと…

「ルーエンさん、きっとなにか理由があって森にいるかもしれない!俺みたいに拐われたかもしれない…俺、ルーエンさんを助けにいく!」

「……待ちなさい」

俺は父に言って森に戻ろうとしたら腕を掴まれ止められた。

今までは奇跡的に無事だったが今後もそうだとは限らない。

だから早くルーエンさんを助け出したいのに父は首を横に振った。
…まさか、ルーエンさんを見捨てるなんて言わないよね……もしそうならいくら父でも許さない。

父を睨むと父は困ったような顔をしていた。
……父の気持ちが分からないわけではないが…俺は…

「お前はまだ幼い、もし魔女に会ったらどうするつもりだ」

「……に、逃げる」

「魔女はそんな甘くない、魔女と戦えるのは我がシュヴァリエの一族のみだ…だからランド達を連れていっても被害が増えるだけだ…魔女は長い爪で人間を突き刺し生命を吸収する」

父の言葉は俺を怖がらせるためだけではなく、事実だと話した。

俺はまだ幼い、戦う力はまだないのだろう。
そして父は老いていて戦うほどの力はもうないのかもしれない。
俺が魔女と戦えるまで森に行くのはダメだと父は言った。

そんな…俺が強くなるまでルーエンさんを助けられないなんて…

俺が迎えに行くまでルーエンさん、魔女に見つからないように祈るしか出来ない。

ポケットを探り、取り出す。
ルーエンさんがくれた青い宝石をギュッと握りしめる。

「お父様、どうしたら力って付けられるんですか」

「…私の後を継ぎ国王になる事だ、そして魔女討伐部隊である王立騎士団の騎士団長になる事が力の近道だ」

「…………分かりました」

俺は父を見つめて決意した。
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