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初めての看病.

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3俺は今、とても困っていた。

俺の目の前で顔が赤くて高熱でうなされているカインがいた。

俺が17歳、カインが11歳の時に起きた出来事だった。

今までこんな事なかった、原因は何となく分かっている…昨日の大嵐だろう。

この世界は滅多に嵐や吹雪なんて訪れない10年に一度くらい珍しいものだ。
昨日の朝は天気が良かったのに、突然大嵐がやって来た。

俺は木の実を取るのを止めてカインの元にやって来た。
天気を予測できたら良かったが俺には森の移り変わりが激しい天気を予測する事が出来なかった。

カインがいつも決めて魚を狩る場所に急いで向かった。
川に入って狩っているから何が起こるか分からず危ない。

そして激しく流れる川を見つめて、一気に血の気が引いた。

カインが攫おうとする川の流れに抵抗するようにもがいている。
いつものように浅くない、雨で水量が増えた川はカインの小さな体を丸飲みする勢いだ。

俺は急いで風魔法でカインがいる場所まで川を開いた。
カインのところに走っていき、倒れるカインを抱き抱えて川から出て洞窟に急いだ。

服を脱がして自分の服とカインの服を急いで乾かす。
その間カインの濡れた体を拭いて、予備の服を着せて寝かせる。

頬が赤くなって息が荒く苦しそうで、変わってやれるなら変わってやりたいと手を握りしめた。

濡れたタオルを搾り、カインの額に当てて熱を冷ます。

風邪、だよな…ここに医者はいないしどうやって治せばいいか分からない…どうしよう。

俺は風邪を引いた事はないし、この世界の風邪薬を知らないし持っていない。
生前は病院に行けば良かったが、今はそうもいかない。
こほっとカインは辛そうに咳をする。

俺は森を出れない、森が出れない事が今ほど不自由だと思った事はない。
とりあえず火魔法でいつもより暖かな光を出してカインの体を暖める。

栄養があって消化にいいものを洞窟内に保存してある食材を探す。
嵐の中探しに行って俺まで風邪引いたら大変だから予備の食料が確かあった筈だ。

この木の実をすり潰して果物を搾って飲み物にすればカインも食べられるのではないだろうか。

カインは眠っているから、今はバレないと早速魔法で料理を作る。

最近覚えたての重力魔法で木の実を粉々にして果物を風魔法で切り重力魔法で潰した。
するとあらかじめ余っていた木材で作った器に果物の汁が入った。
このままだと味が濃すぎるかと水魔法で埋めて木の実を入れた。

栄養がある材料で作ったからとりあえず大丈夫だろう。
明日嵐が止めばもっと栄養があるものを取ってこれる。

寝ているカインを起こすのは胸が痛いが何も食わなかったら治るものも治らないだろう。
カインを軽く揺すると、目蓋を震わせながらこちらを見つめてきた。

「カイン」

「…ぁ、ルーエンさん」

「栄養があるもの作ったんだけど、食べれるか?」

「…ん」

カインは頭がくらくらするのに一生懸命立ちあがろうとするから支えた。
俺は器を持って、カインの口にゆっくりと持っていった。

小さく開いた口に流して喉を上下させて、飲む…口から少し溢れたら布で拭った。

飲み終わると再び寝かせて、暖かくして額を覚ましていたタオルを持つ。

タオルが温くなったな、また濡らさないと熱が冷めない。
まだ外は雨が降っているから、外で雨水で濡らそうと立ち上がった。

しかし俺の一歩は前に進む事が出来なくて、下を見た。

ギュッと服の袖を掴む、小さな手があり力は強くないが離すまいとした強い気持ちは感じる。
後ろを振り返るとカインが不安そうに瞳が揺れていた。

「…ルーエンさん、何処に行くの?」

「ちょっと外に…すぐに戻ってくるよ」

「いや、だ…ルーエンさん」

風邪で弱っているからか心細いのだろう、カインは泣きそうだ。
俺だってカインが心配でカインの傍を離れたくない。
だけど、タオルを濡らさないとカインの熱が治らない。

ここは心を鬼にして、カインの袖を掴む手を離してギュッと握る。

大丈夫、俺はカインを置いてどっかに行ったりしない。
ちょっと洞窟の外に行ってすぐに帰ってくるだけだ。

「大丈夫、ほんの数分だ」

「ん…」

カインは怠くて俺の言葉を聞く前に目蓋を閉じて寝てしまった。

カインが寝たが心配で心配で温くなったタオルを握りしめて全速力で駆け出す。
入り口付近で手を伸ばしタオルを雨水で濡らしすぐに帰った。

カインの額に当てると冷たくて気持ちいいのか俺の手にすり寄ってきた。
それが可愛くて、頭を撫でながら早く治って一緒に遊びに行こうと願いを込めて看病する。
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