眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

文字の大きさ
上 下
99 / 116

夢からの目覚め

しおりを挟む
真竜はトーマに好みが似ているから俺の中に入ったとルカは言っていた。
……でも、俺は違うと思う。

きっとそれは俺がシグナムの血を引いていたから、俺に救いを求め…きっと解放して欲しかったのだろうと思う。
ずっと囚われていた、だから俺は真竜を解放してあげなくてはならない。
どうやってか今は分からないが、いつか必ず……それがシグナム家の最後の罪を償うという事だろう。

それまでは、よろしくね…真竜さん。

どこか遠くでグルル…と唸るような声が聞こえた。






「……う、んんっ」

頭を撫でる優しい手つきが気持ちよくて顔が緩む。
もう少し寝ていたい、でも…そろそろ…起きなくては…

誰かの声が聞こえる、内容は分からない。

2、3…なんかどんどん増えてないか?
騒がしくなる周りに眉を寄せる。
すると短い悲鳴が聞こえたと思ったら急に静かになった。
再び頭を撫でられてなにが起きたのか目を開ける。

「…起きたか」

「トーマ…?」

優しく微笑まれて起きて最初に見たのがトーマで安心して微笑む。
ふわふわした思考の中でトーマの頬を触り確かめる。

そしてふと周りを見て呆然とした。

……あれ?なんで皆床で寝てるの?

トーマに膝枕をされていたらしく重くなかっただろうかとすぐに起き上がろうとするが肩を掴まれまた寝かされる。
トーマに頭を撫でられてまるで猫になった気分で目を閉じた。

「トーマ」

「寝てていい、疲れただろ?」

そう言われたら確かに疲れたかもしれない。
あの世界はトーマも同じものを見たのだろうか。
でもトーマの温もりは確かに感じていた。

あれはきっと、俺達の現実だ。

床から「あ、アルト様に膝枕とか…羨ましい!」とか聞こえるんだけど、グラン……大丈夫だろうか。
トーマはため息を吐き冷たく床に寝転がる人を見つめた。

「姫が寝てる傍でうるさくするからだ」

「……団長だけ、ズルい」

「というかなんでお前ら俺の部屋にいるんだ?」 

瞳がより鋭くなり、皆目を逸らした。
どういう状況かよく分からないが、うとうとと瞼が重くなる。

力が抜けて再び瞳を閉じた。






※グラン視点

アルト様には何も言われていないが部屋の外で待機していた。
なにかあったらトーマ・ラグナロクを殺そうとそう思った。

あの純真無垢で愛らしい僕の天使、それを汚す奴は神の裁きを受けるがいい!
…と、アルト様のファーストキスを奪った自分の事は棚に上げてそんな事を思っていた。
アルト様は全然気付いていないんだろうなぁ…ファーストキスがまだだと今でも思っているのだろう。
そこもとても魅力的だ。

それにしても…とチラッと隣を見る。

まさか自分がヴィクトリア様といた時アルトの傍にいたのはこのガリューだなんて…
アルト様から離れた時アルト様の情報をいっさい聞こえてこなかったから迂闊だった。

「…おいガリュー」

「あ?…なんだよ」

「僕が離れてる間アルト様になにかしてないだろうな」

「子供の頃の話か?………ショタコンのお前じゃあるまいし、そういう事はアルト様が物事を理解できる大人になってからだろ」

誰がショタコンだ、僕はアルト様以外に興味はない。
それに、なにが大人になってからだ!大人になってもアルト様は渡さない!

威嚇する僕にガリューは哀れんだ顔をしていた。
なんだその顔は、言っとくがガリューなんかより僕の方がアルト様の好みを熟知してアルト様の愛らしい姿を知ってるんだ!

「ゼロの魔法使いの事知らない奴は幸せでいいよな」とガリューは呟いていた。
……ゼロ?何の話かさっぱり分からない。

すると部屋で微かに音が聞こえた。
ガリューは聞こえなかったのか平然としていた。

もしかしてアルト様がトーマ・ラグナロクに襲われ…

急いでドアを開けた、幸い鍵は掛けていなかった。

「アルトさ…まぁぁぁ!!!???」

「うるさいぞグラン、というか勝手に入ったら坊っちゃんに嫌われ………あ」

僕とグランは固まった。
トーマ・ラグナロクがアルト様に覆い被さっていた。

僕はトーマ・ラグナロクを殺そうと一歩一歩近付いた。
手を振り上げた僕を止めたのはたまたま僕の大声を聞き付けた副団長(名前は忘れた)だった。

くっ、チャラチャラしてそうで意外と力強い。
こいつもトーマ・ラグナロクの味方だろうと睨む。

「貴方もこのハレンチ男の味方ですか!?」

「ハレンチ…って、トーマ見てみろよ…寝てるだけだ」

チラッとトーマ・ラグナロクを見る。
パッと見アルト様に覆い被さっているだけだけだが、確かに二人分の寝息が聞こえる。

だとしても、だとしてもだ。
なんでこの体勢で寝るんだ!アルト様が重いだろうが!
トーマ・ラグナロクの肩を掴み揺さぶる。
副団長の止める声など一切聞かない。

「うっ…」

眉を寄せたトーマ・ラグナロクはゆっくりと瞼を開ける。
起き上がり僕達を一瞬見てからまだ寝ているアルト様を抱きしめて寝ようとするから慌てて止める。
仕方なさそうに起き上がる。
アルト様と寄り添って寝ていたくせになんでお前がそういう顔をするんだ!アルト様と一緒に寝るのは当たり前だと!許せん…

アルト様はまだ愛らしいお顔で眠りの世界に旅立っていて少し身じろぎする。
ソファで寝ていたからか転げ落ちそうになっていた。

すると何を思ったのかトーマ・ラグナロクがアルト様をひ、膝枕なんてしやがった!
僕のアルト様なのに!!

「ちょっと!何してるんですか!」

「おい落ち着けって、ただの膝枕だろ?」

「ただ…今貴方ただって言いましたか!?アルト様に膝枕をするのは私だけの特権だったのに!!」

「うるせぇな、ヒステリックな男は坊ちゃんに嫌われるぞ」

「誰がヒステリックな男ですか!!ガリュー表に出なさい!!」

終わりがない言い合いを続けていたら騒ぎを聞きつけた、リカルドが部屋に入ってきてどうしたんだと言っていた。
野次馬のような人も集まり、見世物ではないぞと睨むと去っていった。

わいわいがやがやと賑やかになった部屋で一人だけ頭を抱えていた。

僕は男の直感で理解した、ここにいる男達は皆アルト様に好意を抱いていると…
アルト様は僕だけのアルト様だったのに!!

こんな事になるならアルト様の傍を離れなければ良かったと後悔が押し寄せる。

「……お前ら、うるせぇ…アルトが起きるだろうが」

さっきまで黙っていたのに地を這うような聞いた事がないトーマ・ラグナロクの声にピタリと声を止めて固まる。
この中では一番付き合いが長い筈の副団長でさえ顔を青くしていた。

トーマ・ラグナロクがどんなに強かろうと僕はアルト様を毒牙から守る!

そう思っていた、1分前の僕だった。

殴られ床に倒れ、他に騒いでいた奴もノックアウトされた。
くっ…魔力を使わなくても強いのか。

これが僕が床で倒れていた真相だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

BL
公爵家の長女、アイリス 国で一番と言われる第一王子の妻で、周りからは“悪女”と呼ばれている それが「私」……いや、 それが今の「僕」 僕は10年前の事故で行方不明になった姉の代わりに、愛する人の元へ嫁ぐ 前世にプレイしていた乙女ゲームの世界のバグになった僕は、僕の2回目の人生を狂わせた実父である公爵へと復讐を決意する 復讐を遂げるまではなんとか男である事を隠して生き延び、そして、僕の死刑の時には公爵を道連れにする そう思った矢先に、夫の弟である第二王子に正体がバレてしまい……⁉︎ 切なく甘い新感覚転生BL! 下記の内容を含みます ・差別表現 ・嘔吐 ・座薬 ・R-18❇︎ 130話少し前のエリーサイド小説も投稿しています。(百合) 《イラスト》黒咲留時(@black_illust) ※流血表現、死ネタを含みます ※誤字脱字は教えて頂けると嬉しいです ※感想なども頂けると跳んで喜びます! ※恋愛描写は少なめですが、終盤に詰め込む予定です ※若干の百合要素を含みます

【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。 よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。 お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい 最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。 小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。 当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。 小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。 それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは? そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。 ゆるっとした世界観です。 身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈… タイトルもしかしたら途中で変更するかも イラストは紺田様に有償で依頼しました。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

処理中です...