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違う結末・トーマ視点
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「………ま、とーま………トーマ!」
「…ん、あれ?」
真っ暗だった視界が開けて目の前が明るくなった。
鳥の囀りが耳に届く、そして俺を呼ぶ声。
目の前にいるのはずっと抱きしめたかったが、もう手が届かない場所に行ってしまった愛しい人がいる。
「生きてる?」と聞くと何を言ってるんだと不思議そうな顔をされた。
あれは全て夢?俺は夢を見ていたのか?
これが現実だと確かめるようにアルトを抱いてる手に力を込める。
「と、トーマ…あのね…俺の力は魔力を補給するだけのものだから魔力を使ってないトーマは何度もキスする必要はないんだよ?」
頬を赤らめてアルトはそう言った。
あれ?…この話前にも聞いた事があった。
周りをチラッと見ると倒れているノエルと英雄ラグナロクがいた。
そうだ、この場面は俺が英雄ラグナロクを捕まえた時だ。
確かこの後アルトはアイツに連れてかれた。
そしてアルトは……
もう一度俺が間違った行動をした場所からやり直すという事か。
……ここで俺はアルトの手を離した、それが間違いだったんだ。
「えっと、トーマ…さっきからなんか変だよ?怒ってる?」
「…怒ってる………そうだな、自分に腹立たしい…この手を離してしまうなんて」
アルトの手を取り、手の平に口付けた。
驚いたアルトは固まった。
今度は絶対に離さない、誓いの口付けだ。
俺はアイツが来る前にとアルトの手を引いた。
しかし、その前に茂みから黄金に輝く砲口を見つけてアルトを引き寄せて避けた。
その砲口から地面を揺らすほどの大きな音を立てて近くの木に当たった。
木は抉れて倒れた。
アルトは茂みから出てきた人物を見て目を見開いた。
黄金の大砲を持つ男は無言でこちらにやって来る。
俺はアルトを背にして立った。
大剣を構えて今度こそ守ると男と向き合った。
二度はないチャンス、無駄にはしない!
「トーマ、ダメだよ!さっきの戦いで疲れてるんだから!」
「大丈夫だ」
「…なんで」
「俺を信じろ」
俺はアルトの方に目線を向けて笑った。
アルトは何も言わず俺の目をまっすぐと見ていた。
何も考えなしで言っているわけではない。
夢の出来事を全て信じるのはなんか嫌だが、試してみる価値はありそうだった。
実際俺は今こうしてもう一度やり直しているんだから…
俺は目線を男に戻してアルトに声を掛けた。
「…アルト、お願いがあるんだ…騎士団の寄宿舎に行って誰でもいいから呼んできてほしい」
「え…?」
「寄宿舎にアルトをよく思わない奴がいるのは分かってる、でもアルトに好意的な奴もいる…アルトの知り合いとかな、俺はさすがにノエルとラグナロクを担いで行けないから頼んだ」
「だ、だったら俺がいなくなればきっと」
「それじゃあ意味がないんだ!」
俺が声を荒げるとアルトは目を丸くした。
ごめん、だけどもう俺は後悔したくないんだ。
君を守る、そう誓ったんだ。
もう一度アルトに「頼む」と言うと「分かった」と後ろから声が聞こえた。
目の前の男はアルトに向かおうと動き出すから俺が立ちはだかり止めた。
草を踏み走り去る音が聞こえてホッとする。
「退け、じゃないと殺すぞ」
「…やってみろよ」
「随分な自信だな、体力消耗してるんじゃないのか?」
男は表情を変えずそう言った。
…確かにまともに戦えるほどの力はないだろう。
寝ずに起きている今の状況は奇跡に誓いだろう。
でもここを通すわけない、夢の通りならきっとコイツは…
砲口をこちらに向ける男を眺める。
俺は大剣を下ろした……でも、通す気がない強い瞳で男を見た。
「やる気あるのか?やってみろと言ったわりにはもう終わりか?」
「…お前に俺は殺せない、そうだろ?」
「…………何だと?」
「俺とリンディを幸せにするのがお前の役目なんだろ?ゲームの通りに…」
そこで初めて男の顔が変わった。
驚いた、そんな顔だ。
それが全てを物語っていた。
……やはりあれは夢であって夢じゃなかった。
この世界は決められた展開を辿るだけのつまらない世界なんだ。
俺は今、その決められた世界をぶち破り自分の世界作るんだ。
「なんでお前がゲームの事を知ってるんだ?アルトから聞いたのか?」
「………アルトも知ってるのか?」
そういえば夢でもそんな事言っていたような…
この場を切り抜けられたら本人に聞いてみよう。
「…ん、あれ?」
真っ暗だった視界が開けて目の前が明るくなった。
鳥の囀りが耳に届く、そして俺を呼ぶ声。
目の前にいるのはずっと抱きしめたかったが、もう手が届かない場所に行ってしまった愛しい人がいる。
「生きてる?」と聞くと何を言ってるんだと不思議そうな顔をされた。
あれは全て夢?俺は夢を見ていたのか?
これが現実だと確かめるようにアルトを抱いてる手に力を込める。
「と、トーマ…あのね…俺の力は魔力を補給するだけのものだから魔力を使ってないトーマは何度もキスする必要はないんだよ?」
頬を赤らめてアルトはそう言った。
あれ?…この話前にも聞いた事があった。
周りをチラッと見ると倒れているノエルと英雄ラグナロクがいた。
そうだ、この場面は俺が英雄ラグナロクを捕まえた時だ。
確かこの後アルトはアイツに連れてかれた。
そしてアルトは……
もう一度俺が間違った行動をした場所からやり直すという事か。
……ここで俺はアルトの手を離した、それが間違いだったんだ。
「えっと、トーマ…さっきからなんか変だよ?怒ってる?」
「…怒ってる………そうだな、自分に腹立たしい…この手を離してしまうなんて」
アルトの手を取り、手の平に口付けた。
驚いたアルトは固まった。
今度は絶対に離さない、誓いの口付けだ。
俺はアイツが来る前にとアルトの手を引いた。
しかし、その前に茂みから黄金に輝く砲口を見つけてアルトを引き寄せて避けた。
その砲口から地面を揺らすほどの大きな音を立てて近くの木に当たった。
木は抉れて倒れた。
アルトは茂みから出てきた人物を見て目を見開いた。
黄金の大砲を持つ男は無言でこちらにやって来る。
俺はアルトを背にして立った。
大剣を構えて今度こそ守ると男と向き合った。
二度はないチャンス、無駄にはしない!
「トーマ、ダメだよ!さっきの戦いで疲れてるんだから!」
「大丈夫だ」
「…なんで」
「俺を信じろ」
俺はアルトの方に目線を向けて笑った。
アルトは何も言わず俺の目をまっすぐと見ていた。
何も考えなしで言っているわけではない。
夢の出来事を全て信じるのはなんか嫌だが、試してみる価値はありそうだった。
実際俺は今こうしてもう一度やり直しているんだから…
俺は目線を男に戻してアルトに声を掛けた。
「…アルト、お願いがあるんだ…騎士団の寄宿舎に行って誰でもいいから呼んできてほしい」
「え…?」
「寄宿舎にアルトをよく思わない奴がいるのは分かってる、でもアルトに好意的な奴もいる…アルトの知り合いとかな、俺はさすがにノエルとラグナロクを担いで行けないから頼んだ」
「だ、だったら俺がいなくなればきっと」
「それじゃあ意味がないんだ!」
俺が声を荒げるとアルトは目を丸くした。
ごめん、だけどもう俺は後悔したくないんだ。
君を守る、そう誓ったんだ。
もう一度アルトに「頼む」と言うと「分かった」と後ろから声が聞こえた。
目の前の男はアルトに向かおうと動き出すから俺が立ちはだかり止めた。
草を踏み走り去る音が聞こえてホッとする。
「退け、じゃないと殺すぞ」
「…やってみろよ」
「随分な自信だな、体力消耗してるんじゃないのか?」
男は表情を変えずそう言った。
…確かにまともに戦えるほどの力はないだろう。
寝ずに起きている今の状況は奇跡に誓いだろう。
でもここを通すわけない、夢の通りならきっとコイツは…
砲口をこちらに向ける男を眺める。
俺は大剣を下ろした……でも、通す気がない強い瞳で男を見た。
「やる気あるのか?やってみろと言ったわりにはもう終わりか?」
「…お前に俺は殺せない、そうだろ?」
「…………何だと?」
「俺とリンディを幸せにするのがお前の役目なんだろ?ゲームの通りに…」
そこで初めて男の顔が変わった。
驚いた、そんな顔だ。
それが全てを物語っていた。
……やはりあれは夢であって夢じゃなかった。
この世界は決められた展開を辿るだけのつまらない世界なんだ。
俺は今、その決められた世界をぶち破り自分の世界作るんだ。
「なんでお前がゲームの事を知ってるんだ?アルトから聞いたのか?」
「………アルトも知ってるのか?」
そういえば夢でもそんな事言っていたような…
この場を切り抜けられたら本人に聞いてみよう。
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