眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

文字の大きさ
上 下
78 / 116

ゲームのバグ・騎士視点

しおりを挟む
異変にはすぐに気付いた。

アルトは誰にも必要とされず、ゲームでも捨て駒のように扱われていた。
なのに急に周りは態度を変えアルトに優しくした。

これはゲームにはなかった、英雄ラグナロクが捕まった事によりなにかゲームが変な方向に変わってしまったようだ。
俺がアルトを追いかけ持ち場を離れた時になにかあったと考える方が自然だろう。

ゲームを正しい道に繋げる、バグを排除する…それが俺の役目だった。
アルトと共に死ぬ、それが俺の願いだった。

ゲームが変わったというならバグを排除してまた導けばいい…一先ずアルトを泳がせる事にした。
急に態度を変えたんだ、すぐに企みを現すだろう。

俺はこの状況を知ってるであろう人物のところに向かった。

ガリューという男、アイツならアルトについてなにか知っているだろう。
いつも自室か屋敷の研究所にいる。

勘はあまり好きではない、時間を無駄にする。
適当に歩いていた使用人を呼び止めて吐かせた。
少々手荒な真似をしてしまったが仕方ない。

ガリューは今忙しいと言っていた口を無理矢理開かせて研究所にいるという情報を聞き出した。
研究所がある場所に向かう。

「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた看板を無視してドアを開けた。
薬品の嫌なにおいと肌寒い冷気に眉を寄せる。

数人の研究者は驚いた顔をしてこちらを見る。
追い出そうとする者がいたから暴力で黙らせた。
一度それをやるともう止める者はいなかった。

研究者は戦場に立たない弱い奴らが多いからビビらせるのが楽でいい。
奥でなにか薬品を調合していたガリューは俺を見て眉を寄せた。

「関係者以外立ち入り禁止って見えなかったのか?」

「知らねぇよ、それより…どういう事か説明しろ」

ガリューは俺の言葉を無視して薬を作り始めた。

コイツ、ずっとここにいて異変に気付いていないのか?
アルトの味方だと思っていたが違ったのか?

熱心に何かをノートにメモしていて後ろから盗み見た。
研究バカのノートなんてまともに見れたもんじゃねぇが、魔力放出剤と書かれたそれはとてもいいもののように思えなかった。
魔力を放出なんてしたら魔法使いは死ぬ、何のためにそんな薬が必要なんだ。

「何故突然使用人がアルトへの態度を変えたんだ?」

アルトの名前を出した時、一瞬手を止めたがまたノートに何かを書き出した。
俺はバグを早く取り除かなくてはならない、じゃないと今までしてきた事が水の泡だ。
ノートを閉じて床に投げ捨てる。

ガリューはこちらを睨んでいるがノートを拾う気はないようだ。
まともに会話が出来る。

しかし、この男も使用人同様なにか変だと感じた。

「…邪魔をするな、シグナム様が早く作るように言われているんだ」

「俺の質問に答えろ」

「はぁ…………坊っちゃんはシグナム様に認められてシグナム家の長男となったんだ、それだけだ」

そう言ってガリューはノートを拾い、再び研究を始めた。
認められた?何故だ?失敗したのはアルトで英雄ラグナロクを殺す事は出来なかった。

シグナムはいらない魔法使いは排除してシグナム家にとって利用出来る魔法使いは大切にする。
……アルトが利用出来るという事か?

ガリューはもう何も答える気がなさそうだから、シグナム本人に聞くかと研究者を後にした。
しかし、魔力放出剤とはなんだったのか。

……ゲームに関係ないなら気にする必要もない、か。






※ガリュー視点

「…何やってるんだ、俺は」

ノートを書く手を止めた。

俺は英雄ラグナロク殺害計画に負傷者が出た場合の治癒のためだけに参加していた。
現場には直接向かってはいない、何人か研究者が同行していたようだけど…

医務室で皆の帰りを待っていた。
それで帰ってきた研究者達から作戦失敗を聞かされた。
誰も怪我をしていなくて、俺の出番はなさそうだなと思っていた。
しかし、いつもは冷静な研究者が興奮気味だったのが不気味だった。

そしてゼロの魔法使いの事を聞いた、すぐに坊っちゃんだと気付いた。
まさかこんなに早くバレるとは思わなかった。
いい研究材料が手に入ったと喜ぶ研究者に嫌悪感を感じながら坊っちゃんが心配で急いで医務室から出ようとしたがまだ坊っちゃんは帰っていないと聞かされた。

そして医務室に滅多に入ってこないシグナム様が入り、突然で緊張で顔が強張った。
シグナム様からとある薬を至急作ってくれと言われた。

「魔力放出剤」名前だけで全て分かった自分が嫌になる。
きっと坊っちゃん用の薬だろう。
坊っちゃんのゼロの魔法使いの発動条件は口付けだ。
しかし、いちいち一人ずつ口付けするのは時間が掛かるし効率が悪い…多数に与える場合は特にそうだ。

だから魔力放出剤で坊っちゃんの魔力を常に出して多数に浴びせれば、キスをする必要がない。

……作りたくなかった、そんな事をしたら坊っちゃんは…きっと…

でも俺は逆らう事が出来なかった、弱かったんだ…シグナムを裏切り坊っちゃんを連れ出す事が出来ない。
絶対に失敗すると分かってても大切な子を守る勇気がなかった。

トーマ・ラグナロクが羨ましかった…命懸けで坊っちゃんを守るあの男が…

いや、きっとグランがここに居ても坊っちゃんを守っただろう…俺はシグナム様の言いなりになるしかなかった。
一番怖いのは坊っちゃんなのに、俺は自分の命を守った。

臆病者の俺を許してください、坊っちゃん。

せめて、せめて副作用がない薬を作ろう。
俺は心が黒く染まる感覚に蝕まれながら研究を続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヴェリテ〜賢竜帝様の番は過ちを犯し廃嫡されて幽閉されている元王太子で壊れていました

ひよこ麺
BL
賢王と慕われる竜帝がいた。彼が統治してからの500年の長きに渡りポラリス帝国は繁栄を極めた。そんな素晴らしい竜帝にもひとつだけ問題があった。 彼は妃を迎えていなかった。竜人である竜帝には必ず魂の伴侶である番が存在し、歴代の竜帝も全て番と妻として迎えていた。 長命である竜人であるがゆえにそこまで問題視されてはいなかったが、それでも500年もの長い間、竜帝の番が見つからないのは帝国でも異例な事態だった。 その原因を探るために、数多手を尽くしてきたが、番の行方はようとしてしれなかった。 ある日、ひとりの男が竜帝の元を訪れた。彼は目深にローブを被り、自らを『不死の魔術師』と名乗るとひとつの予言を竜帝に与えた。 『貴方の番は、この1000年不幸な運命に翻弄され続けている。それは全て邪悪なものがその魂を虐げて真実を覆い隠しているからだ。番を見つけたければ、今まで目を背けていた者達を探るべきだ。暗い闇の底で貴方の番は今も苦しみ続けているだろう』 それから、ほどなくして竜帝は偶然にも番を見つけることができたが、番はその愚かな行いにより、自身の国を帝国の属国に堕とす要因を作った今は廃嫡されて幽閉されて心を壊してしまった元王太子だった。 何故、彼は愚かなことをしたのか、何故、彼は壊れてしまったのか。 ただ、ひたすらに母国の言葉で『ヴェリテ(真実)』と呟き続ける番を腕に抱きしめて、竜帝はその謎を解き明かすことを誓う。それが恐ろしい陰謀へつながるとことを知らぬままに……。 ※話の性質上、残酷な描写がございます。また、唐突にシリアスとギャグが混ざります。作者が基本的にギャグ脳なのでご留意ください。ざまぁ主体ではありませんが、物語の性質上、ざまぁ描写があります。また、NLの描写(性行為などはありませんが、元王太子は元々女性が好きです)が苦手という方はご注意ください。CPは固定で割と早めに性的なシーンは出す予定です、その要素がある回は『※』が付きます。 5/25 追記 5万文字予定が気づいたらもうすぐ10万字に……ということで短編⇒長編に変更しました。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

ゲイ体験談集

BL
色んな男達から聞いた話を書いておこうと。 部活もの多いかもですが、それぞれの競技の人ほど詳しくないのは大目に見て欲しいです。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

処理中です...