32 / 52
景子の告白
しおりを挟む
景子はマスクをしていたが更にその上からマフラーを巻いて顔を隠した。そして急ぎ足で大きな通りへ向かいタクシーを拾い、自宅の住所を告げた。
ガチャンと大きな音を立てて後ろ手にドアを閉めた景子は真っ蒼な顔をしてリビングに入って来た。
「あらお帰りなさい景子、早かったわね。話は済んだの?」
バラエティ番組を見ながらタバコをふかしていた父の敦司も振り向いた。「なんだ、何の話だ」
「お、お父さん・・私大変な事をしちゃったわ」景子はガクガクと震え出した。
取り乱したままドアの前で立ちすくむ景子をリカは立ち上がってソファまで連れて来て座らせた。
「どうしたの? 沙耶には会えたの?」
「そ、その沙耶を・・私・・こ、殺しちゃったかもしれない」
「なっ、何だってぇ」敦司は手にしていたタバコを落として慌てている。
「き、きちんと話なさい、景子の勘違いじゃないの?」
「でも・・沙耶、動かなくなってた。頭から血が流れていたし・・」
景子は先ほどの出来事を両親に話した。
「〇〇橋の下だな・・俺が様子を見てくる」
「わ、私も行くわ・・」
もし死んでいたら・・死体を片付けなければ。この人ひとりには荷が重いわ、私がちゃんとしないと。コートを羽織りながら、そうリカは心を決めていた。
______
高野夫婦が○○橋の下に着いた時にはもう人だかりが出来ていた。パトカーが2台止まっていて周辺には立ち入り禁止の黄色いテープが引かれいる。
リカは人だかりの中に混じり、隣に立っていた主婦に声をかけた。
「何かあったんですか?」
「橋の下でね、女性が倒れていたんですって。さっき救急車で運ばれて行ったわ」
「亡くなってたんですか?」
「いえ、多分死んでないと思うわ。『お名前言えますかー?』って言ってるのが聞こえたから」
「そうですか、無事だといいですわね」
家に戻ってきたリカ達夫婦は景子に状況を説明した。
「じゃあ死んでないかもしれないのね?」
「そうだけど・・無事なら無事で景子に突き飛ばされたって言われたら・・」
「大丈夫よ、沙耶は私に背中を向けていたわ。私がわざと突き飛ばしたって沙耶には分からないわ。周囲には誰もいなかったし。ぶつかったって言えばいいのよ」
沙耶が無事だったのを聞いた景子は俄然強気になった。
「そうよ、死んでたとしたって誰にも見られてないから平気だったんだわ。嫌だわ、私ったら取り乱したりして。落ち着いたらお腹が空いてきちゃったわ、お母さん何か作って」
リカはため息をつきながら返事した。「分かったわ、座って待ってて」
______
翌日の学校帰りに結花が沙耶の病室を訪れた。馨の指示でこの病院で空きがある一番いい個室に沙耶は移されていた。
「池田さん、沙耶さんは?」
「こんにちは、結花ちゃん。沙耶さんはまだ眠ってる」
「頭を打ったから目を覚まさないの? このままずっと目を覚まさなかったらどうしよう・・」
「そんな事考えちゃだめだよ結花ちゃん。沙耶さんは絶対元気になるから」
「うん・・」それでも結花の顔からは不安な表情が消えなかった。
すると後ろで声がした。「う・・うぅぅん」
結花と涼、同時に振り返ると沙耶が薄目を開けていた。「沙耶さん!」結花は沙耶の顔を覗き込んだ。
「僕は医者を呼んできますね」涼はすぐさま病室を出て行った。
沙耶は目を開けたり閉じたりしていたが、徐々に意識がはっきりしてきている様だった。
医者は到着すると沙耶の脈を測ったりして状態を確認しにかかった。
「五瀬沙耶さん、分かりますか? ここは病院ですから安心してくださいね。どこか痛い所とか吐き気はありませんか?」
「頭、頭が痛いです」
「吐き気は?」
「ありません・・喉が・・水を頂けませんか?」
沙耶は水を飲むために上半身を起こそうとした。「無理しないで下さい。吸い飲みがありますから起きなくても大丈夫ですよ」
「大丈夫・・です」沙耶は支えられてゆっくりと体を起こした。そして水を少し飲んだ後、自分が今いる病室をぐるっと見回した。
「私、どうして病院に?」
「倒れているところを発見されたんだですよ、意識が戻って本当に良かった」涼がそう言いながら沙耶に微笑みかけた。
「あたなが私を病院へ?」
「いえいえ、僕じゃないですけど・・大丈夫ですか?」きょとんとしている沙耶を見て不安になった涼は医者の顔を見た。
「目が覚める前の事は覚えていますか?」医者が質問した。
「ええと・・ええと・・景子の・・景子の撮影でアメリカに行く準備をしてました。そうだわ、早く帰らないと景子の機嫌が悪くなっちゃう」
涼の表情が固まった。結花は意味が分からず涼と医者と沙耶の顔を代わるがわる見ている。
「あの、私はいつ退院出来るんでしょうか?」
「五瀬さん、まだ当分は無理ですよ」
「先生、私石井と言います。いつせじゃありません」
一呼吸置いて、医者は結花を示して質問した。
「では石井さん、この女性は誰かご存じですか?」
「いいえ、知りません」
ガチャンと大きな音を立てて後ろ手にドアを閉めた景子は真っ蒼な顔をしてリビングに入って来た。
「あらお帰りなさい景子、早かったわね。話は済んだの?」
バラエティ番組を見ながらタバコをふかしていた父の敦司も振り向いた。「なんだ、何の話だ」
「お、お父さん・・私大変な事をしちゃったわ」景子はガクガクと震え出した。
取り乱したままドアの前で立ちすくむ景子をリカは立ち上がってソファまで連れて来て座らせた。
「どうしたの? 沙耶には会えたの?」
「そ、その沙耶を・・私・・こ、殺しちゃったかもしれない」
「なっ、何だってぇ」敦司は手にしていたタバコを落として慌てている。
「き、きちんと話なさい、景子の勘違いじゃないの?」
「でも・・沙耶、動かなくなってた。頭から血が流れていたし・・」
景子は先ほどの出来事を両親に話した。
「〇〇橋の下だな・・俺が様子を見てくる」
「わ、私も行くわ・・」
もし死んでいたら・・死体を片付けなければ。この人ひとりには荷が重いわ、私がちゃんとしないと。コートを羽織りながら、そうリカは心を決めていた。
______
高野夫婦が○○橋の下に着いた時にはもう人だかりが出来ていた。パトカーが2台止まっていて周辺には立ち入り禁止の黄色いテープが引かれいる。
リカは人だかりの中に混じり、隣に立っていた主婦に声をかけた。
「何かあったんですか?」
「橋の下でね、女性が倒れていたんですって。さっき救急車で運ばれて行ったわ」
「亡くなってたんですか?」
「いえ、多分死んでないと思うわ。『お名前言えますかー?』って言ってるのが聞こえたから」
「そうですか、無事だといいですわね」
家に戻ってきたリカ達夫婦は景子に状況を説明した。
「じゃあ死んでないかもしれないのね?」
「そうだけど・・無事なら無事で景子に突き飛ばされたって言われたら・・」
「大丈夫よ、沙耶は私に背中を向けていたわ。私がわざと突き飛ばしたって沙耶には分からないわ。周囲には誰もいなかったし。ぶつかったって言えばいいのよ」
沙耶が無事だったのを聞いた景子は俄然強気になった。
「そうよ、死んでたとしたって誰にも見られてないから平気だったんだわ。嫌だわ、私ったら取り乱したりして。落ち着いたらお腹が空いてきちゃったわ、お母さん何か作って」
リカはため息をつきながら返事した。「分かったわ、座って待ってて」
______
翌日の学校帰りに結花が沙耶の病室を訪れた。馨の指示でこの病院で空きがある一番いい個室に沙耶は移されていた。
「池田さん、沙耶さんは?」
「こんにちは、結花ちゃん。沙耶さんはまだ眠ってる」
「頭を打ったから目を覚まさないの? このままずっと目を覚まさなかったらどうしよう・・」
「そんな事考えちゃだめだよ結花ちゃん。沙耶さんは絶対元気になるから」
「うん・・」それでも結花の顔からは不安な表情が消えなかった。
すると後ろで声がした。「う・・うぅぅん」
結花と涼、同時に振り返ると沙耶が薄目を開けていた。「沙耶さん!」結花は沙耶の顔を覗き込んだ。
「僕は医者を呼んできますね」涼はすぐさま病室を出て行った。
沙耶は目を開けたり閉じたりしていたが、徐々に意識がはっきりしてきている様だった。
医者は到着すると沙耶の脈を測ったりして状態を確認しにかかった。
「五瀬沙耶さん、分かりますか? ここは病院ですから安心してくださいね。どこか痛い所とか吐き気はありませんか?」
「頭、頭が痛いです」
「吐き気は?」
「ありません・・喉が・・水を頂けませんか?」
沙耶は水を飲むために上半身を起こそうとした。「無理しないで下さい。吸い飲みがありますから起きなくても大丈夫ですよ」
「大丈夫・・です」沙耶は支えられてゆっくりと体を起こした。そして水を少し飲んだ後、自分が今いる病室をぐるっと見回した。
「私、どうして病院に?」
「倒れているところを発見されたんだですよ、意識が戻って本当に良かった」涼がそう言いながら沙耶に微笑みかけた。
「あたなが私を病院へ?」
「いえいえ、僕じゃないですけど・・大丈夫ですか?」きょとんとしている沙耶を見て不安になった涼は医者の顔を見た。
「目が覚める前の事は覚えていますか?」医者が質問した。
「ええと・・ええと・・景子の・・景子の撮影でアメリカに行く準備をしてました。そうだわ、早く帰らないと景子の機嫌が悪くなっちゃう」
涼の表情が固まった。結花は意味が分からず涼と医者と沙耶の顔を代わるがわる見ている。
「あの、私はいつ退院出来るんでしょうか?」
「五瀬さん、まだ当分は無理ですよ」
「先生、私石井と言います。いつせじゃありません」
一呼吸置いて、医者は結花を示して質問した。
「では石井さん、この女性は誰かご存じですか?」
「いいえ、知りません」
2
お気に入りに追加
188
あなたにおすすめの小説
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
俺様系和服社長の家庭教師になりました。
蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。
ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。
冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。
「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」
それから気づくと色の家庭教師になることに!?
期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、
俺様社長に翻弄される日々がスタートした。
ある日、憧れブランドの社長が溺愛求婚してきました
蓮恭
恋愛
恋人に裏切られ、傷心のヒロイン杏子は勤め先の美容室を去り、人気の老舗美容室に転職する。
そこで真面目に培ってきた技術を買われ、憧れのヘアケアブランドの社長である統一郎の自宅を訪問して施術をする事に……。
しかも統一郎からどうしてもと頼まれたのは、その後の杏子の人生を大きく変えてしまうような事で……⁉︎
杏子は過去の臆病な自分と決別し、統一郎との新しい一歩を踏み出せるのか?
【サクサク読める現代物溺愛系恋愛ストーリーです】
Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~
北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!**
「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」
侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。
「あなたの侍女になります」
「本気か?」
匿ってもらうだけの女になりたくない。
レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。
一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。
レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。
※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません)
※設定はゆるふわ。
※3万文字で終わります
※全話投稿済です
警察官は今日も宴会ではっちゃける
饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。
そんな彼に告白されて――。
居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。
★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。
★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。
アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚
日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる