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高野家の養女

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 私と景子は予定通り撮影を終えて5日後に帰国した。

 帰国して高野の家に帰ってきた翌日、私はこの家を出ることになったと報告した。
 リビングで家族揃ってお茶を飲んでいた時だった。(私はお茶を淹れる方だったが)

「一人暮らしするって事なの?」リカ叔母さんが真っ先に口を開いた。
「あら、私は初耳だわ。いつ家探ししたのよ?」

 ベガスで買ったチョコレートを頬張りながら景子も驚いていた。

「いいんじゃないのか、景子ちゃんのマネージャーは続けるんだろう?」

 この人は高野修二さん。景子のお父さんの敦司さんの弟だ。高野和菓子店の副社長でもある彼はこの家で同居している。

「はい、マネージャーは続けます。でもあの・・」

 どうしよう、結婚すると言った方がいいのだろうか。偽装の結婚、契約結婚だとしても最低1、2年は結婚生活を送ることになる。何も言わない訳にはいかないだろうな。もしかしたら祝福してくれるかもしれないし!

「あの‥一人暮らしじゃなくて結婚するんです」
「「「「ええええええっ」」」」

 高野の叔父様はお茶を吹いていた。

「沙耶って彼氏いったっけ?」
「いえ、この間のラスベガスで知り合ったんです」
「じゃ外人なの?」リカ叔母さんが興味を示した。

「日本人です。ビジネスでアメリカに来てたみたいです」
「それで、出会って1日もしない内に結婚してくれって言われたの? アハッ、沙耶あんた騙されたのよ」
「そうだな、お金とかせびられたんじゃないのか? 結婚詐欺だよそれは」

 確かに信じがたい話かも。当然よね契約結婚なんだから。でもそれは言えないわ。

「そうねえ、景子ならまだしも沙耶が求婚されるなんて有り得ないわね」
「まさか沙耶を通じてうちの財産を狙ってるんじゃないだろうな! 金の話が出たら絶対に応じるなよ!」

 叔父さんは社長だから会社の心配をするのは当たり前ね。でも多分そうはならないと・・。

「それならあんた、子供もよ! 妊娠してからお金だけ取られて、捨てられたからってこの家に戻って来られても困りますからね! うちじゃあんた一人でも迷惑なのに赤ん坊なんて面倒見切れないわ。絶対に避妊してちょうだいよ!」

 そうだ。私はこの家に引き取られた養女だ。成人してから籍を抜かれたが、この高野家に貰われてきたのは小5の時だった。

 私は母一人子一人の母子家庭で育った。物心ついた時には既に父はいなかった。一度か二度、母に父の事を訪ねたが曖昧な返事しかしてもらえなかった。
 
 私は高野景子と同級生だった。景子は昔から座の中心で女王様だった。

____


「今日のカバン持ちは沙耶ね!」
「あれ、でも私は土曜もやったよ」

「今日は月曜じゃない、また初めからやるのよ」
「そっか! 新しい週になったからだね!」

「クスクス・・景子ちゃんって沙耶の扱いが上手いよね」
「沙耶って単純なんだもん。それに沙耶のお母さんは私の会社で働いてるのよ。従業員の子が社長の子の言う事聞くのって当たり前じゃん!」

「日曜にみんなで遊んだ時も沙耶にみんなの分のアイスとお菓子、買いに行かせてたもんね。沙耶は景子ちゃんの従業員なんだね。アハハハハ」

 宿題を忘れたら沙耶のノートを取り上げる、体操着を忘れたら沙耶の体操着を持っていく、夏休みの自由課題は全部沙耶にやらせる。そんなのは日常茶飯事だった。


 小5のある日、沙耶の母が働いている工場で火災が起きた。その火災で母親は亡くなった。他にも従業員が二人死ぬという大きな事故だった。その和菓子工場の社長が高野敦司だった。

「大変な事になった。わが社のイメージがダウンして菓子の売り上げが落ちてきている、何件かの取引先からも取引を止めたいと申し出があった」

「逃げ遅れたのは本人の責任じゃないのよ。どうしてうちのイメージが悪くなるわけ?!」

 高野リカは敦司より一回り年下の若い妻だった。高野の会社の事務員だったのだが、金目当てで社長を誘惑したのだった。

「いや・・それが・・」

 高野は基本的にケチだった。工場の設備投資を渋って避難誘導灯の数を減らし、電球が切れても放置。非常出口は定期点検を怠った為、肝心な時にうまく開かずに避難が遅れてしまったのだ。

 こういった事情が露呈し、全国に支店を多く抱える老舗和菓子屋の高野はマスコミからも激しく非難された。

「お父さん、石井さんとこの沙耶は私の同級生なの。沙耶をうちの養女にできない?」

「・・あなた、それよ! 亡くなった従業員の子供を養子に迎えたら少しはイメージの回復になるんじゃないかしら?! さすが景子は私に似て頭がいいわ!」

「石井さんの子供か。彼女は確か母子家庭だったな、他に親類もいないと聞いたことがある。それならいけるかもしれんな」

 こうして沙耶は高野家の養女になった。この出来事は美談として伝えられ和菓子屋の高野はなんとか持ちこたえることが出来たのだった。


 
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