上 下
3 / 52

頼み事

しおりを挟む
 一通り買い物を済ませると既に時間は昼を過ぎていた。

「あの、もう昼を過ぎてしまったので今日はチョコレートは諦めようと思います。危ない所を助けて頂いた上に買い物にまで付き合ってくださってありがとうございました」

「それはいいが、俺たちはまだ君の名前も聞いてない」
「あっ! すみません私ったら自分の事でいっぱいいっぱいで。申し遅れました、石井沙耶といいます」

「俺は五瀬馨、こっちは池田涼だ。それで・・俺は君の命も救ったし買い物にも付き合ったわけだから、こちらの頼みも聞いてくれないだろうか?」

「頼み‥ですか。私に出来る事でしたら何でも協力します。でも先に荷物を部屋に持って行ってもいいでしょうか? 景子が・・連れがバスグッズを待っているんです」

 涼が軽い調子で尋ねた「石井さんのホテルはどこ?」

「ベラージオなんです」
「へぇ~奇遇だね、僕達もベラージオなんだよ」
「それなら涼、ホテルのコンシェルジュに頼んで荷物を彼女の部屋へ届けてもらってくれ。俺たちは先に部屋に戻ってる」

 ベラージオのロビーで涼と別れた馨と沙耶はエレベーターに乗り込んだ。

 エレベーターはどんどん上へ上がっていく・・。二人の他に乗っているのは2組のカップルだった。
 ボタンは最上階のひとつ下の35階、18階、6階が押されている。若い欧米人のカップルが6階で降りた。18階で扉が開いた時沙耶は降りかけたが、馨が沙耶の腕を掴んで止めた。

「35階だ」と一言言った馨は沙耶の腕を離した。

 35階の部屋はスイートルームだった。独立した広いリビングの窓はコモ湖のちょうど真ん中あたりに位置していた。

「わあ~広いですね。コモ湖もラスベガスの街並みも一望できますね! 私たちの部屋からは山しか見えないんです」
「俺たちは仕事で来ているからこんな部屋は必要なかったんだがな。さてと昼をここで食べながら話をしよう」
「頼みごとの件ですね」

(こんな部屋に泊まれる人の頼み事って何だろう? ここって1泊何十万とかする部屋よね・・)改めて部屋を見渡した沙耶は思った。

「食べられない物はあるか?」
「いえ、好き嫌いはないです」

 ちょうどそこへ涼が帰ってきた。馨はお昼のルームサービスを涼に任せて沙耶をリビングのソファに座らせた。

「喉が渇いたな。水でいいか?」そう言って馨は冷たいミネラルウォーターをグラスに注いで沙耶の前のテーブルに置いた。

 喉は乾いてカラカラだった。砂漠の乾燥した空気と外に長時間居たせいかもしれない。沙耶はゴクゴクとグラスの水を飲み干した。すると馨はすぐグラスにおかわりを継ぎ足してくれた。

 気のせいかグラスに水をそそぐ馨の口元が微笑んでいるように見える。

 馨は沙耶の向かい側に座ってサングラスを外した。涼やかな目元のイケメンだ。サングラスをしていてもかっこ良かったが、外すと思ったより若くて、それこそモデルか俳優のようだった。

 料理が来るまでの間、馨は沙耶の事を色々と聞いて来た。年齢、住まい、結婚しているかどうか。

「歳は7月で25になりました。家は荒川区です、景子の両親と住んでます。結婚はしていません」

 馨の隣に座っている涼が訝し気に馨を見ている。沙耶もなんだか仕事の面接でも受けているみたいな気がしてきた。とうとう涼が話に割り込んで来た。

「じゃあ石井さんの仕事は?」
「私は・・高野景子のマネージャーをしてるんです。ベガスにも景子の仕事で」

「高野景子って、あの女優の高野景子?」
「はい、私と彼女は同級生で幼馴染なんです」

 それから少し雑談を交わしているとルームサービスが届いた。

 イタリアンと地中海料理が合わさった献立で昼からこんなに沢山食べるのか、といった量だった。が、さすが一流ホテルの食事は味も一流で3人はほぼ食べつくしてしまった。

 デザートにフルーツが添えられたジェラートを口に運んでいると、食事の間はあまり話さなかった馨が口を開いた。

「さて、頼みごとだが」
「はい」

「俺と結婚してほしい」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【完結】王子妃教育1日無料体験実施中!

杜野秋人
恋愛
「このような事件が明るみになった以上は私の婚約者のままにしておくことはできぬ!そなたと私の婚約は破棄されると思え!」 ルテティア国立学園の卒業記念パーティーで、第二王子シャルルから唐突に飛び出したその一言で、シャルルの婚約者である公爵家令嬢ブランディーヌは一気に窮地に立たされることになる。 シャルルによれば、学園で下級生に対する陰湿ないじめが繰り返され、その首謀者がブランディーヌだというのだ。 ブランディーヌは周囲を見渡す。その視線を避けて顔を背ける姿が何人もある。 シャルルの隣にはいじめられているとされる下級生の男爵家令嬢コリンヌの姿が。そのコリンヌが、ブランディーヌと目が合った瞬間、確かに勝ち誇った笑みを浮かべたのが分かった。 ああ、さすがに下位貴族までは盲点でしたわね。 ブランディーヌは敗けを認めるしかない。 だが彼女は、シャルルの次の言葉にさらなる衝撃を受けることになる。 「そして私の婚約は、新たにこのコリンヌと結ぶことになる!」 正式な場でもなく、おそらく父王の承諾さえも得ていないであろう段階で、独断で勝手なことを言い出すシャルル。それも大概だが、本当に男爵家の、下位貴族の娘に王子妃が務まると思っているのか。 これでもブランディーヌは彼の婚約者として10年費やしてきた。その彼の信頼を得られなかったのならば甘んじて婚約破棄も受け入れよう。 だがしかし、シャルルの王子としての立場は守らねばならない。男爵家の娘が立派に務めを果たせるならばいいが、もしも果たせなければ、回り回って婚約者の地位を守れなかったブランディーヌの責任さえも問われかねないのだ。 だから彼女はコリンヌに問うた。 「貴女、王子妃となる覚悟はお有りなのよね? では、一度お試しで受けてみられますか?“王子妃教育”を」 そしてコリンヌは、なぜそう問われたのか、その真意を思い知ることになる⸺! ◆拙作『熊男爵の押しかけ幼妻』と同じ国の同じ時代の物語です。直接の繋がりはありませんが登場人物の一部が被ります。 ◆全15話+番外編が前後編、続編(公爵家侍女編)が全25話+エピローグ、それに設定資料2編とおまけの閑話まで含めて6/2に無事完結! アルファ版は断罪シーンでセリフがひとつ追加されてます。大筋は変わりません。 小説家になろうでも公開しています。あちらは全6話+1話、続編が全13話+エピローグ。なろう版は続編含めて5/16に完結。 ◆小説家になろう4/26日間[異世界恋愛]ランキング1位!同[総合]ランキングも1位!5/22累計100万PV突破! アルファポリスHOTランキングはどうやら41位止まりのようです。(現在圏外)

私、自立します! 聖女様とお幸せに ―薄倖の沈黙娘は悪魔辺境伯に溺愛される―

望月 或
恋愛
赤字続きのデッセルバ商会を営むゴーンが声を掛けたのは、訳ありの美しい女だった。 「この子を預かって貰えますか? お礼に、この子に紳士様の経営が上手くいくおまじないを掛けましょう」 その言葉通りグングンと経営が上手くいったが、ゴーンは女から預かった、声の出せない器量の悪い娘――フレイシルを無視し、デッセルバ夫人や使用人達は彼女を苛め虐待した。 そんな中、息子のボラードだけはフレイシルに優しく、「好きだよ」の言葉に、彼女は彼に“特別な感情”を抱いていった。 しかし、彼が『聖女』と密会している場面を目撃し、彼の“本音”を聞いたフレイシルはショックを受け屋敷を飛び出す。 自立の為、仕事紹介所で紹介された仕事は、魔物を身体に宿した辺境伯がいる屋敷のメイドだった。 早速その屋敷へと向かったフレイシルを待っていたものは―― 一方その頃、フレイシルがいなくなってデッセルバ商会の経営が一気に怪しくなり、ゴーン達は必死になって彼女を捜索するが――? ※作者独自の世界観で、ゆるめ設定です。おかしいと思っても、ツッコミはお手柔らかに心の中でお願いします……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。 そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。 それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。 さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

側室は…私に子ができない場合のみだったのでは?

ヘロディア
恋愛
王子の妻である主人公。夫を誰よりも深く愛していた。子供もできて円満な家庭だったが、ある日王子は側室を持ちたいと言い出し…

処理中です...