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第4話 負の感情
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ランク決定戦も終了し、生徒達も落ち着きを取り戻してきた頃、エルトは自身に配られた『それ』を一瞥し、はぁと深い溜息を吐いた。
『黒織エルト。ランク決定戦の結果、貴公をランクDに格付ける』
別に、その結果に関して問題がある訳ではない。言ってしまえば計画通りだ。
だが、あのラミアと言う少女が放った言葉が、嫌なほどに脳裏をループしている。
『なんでアンタは隙があったのに攻撃しなかった訳? 舐めてるの?』
侮蔑でもなく挑発でもなく、ただただ憤怒の形相をあらわにし、言われたその言葉。自身でも理解しているはずなのに、何故か胸を抉られるような違和感を覚える。
「俺は……駄目なんだよ……怖いんだよ。この力が……」
呟くも、喧騒に包まれた教室の中である。それは誰の耳に届く事もなく消えてゆく。
と、その時。こちらにやってきた三人組の男子は、ニタニタと嫌な笑みを浮かべながら口を開く。
「よぅ、エルト。お前、またランクDなんだよなぁ。だっせぇよなぁ」
「あはははっ! 言えてるわっ! おい最弱ぅー」
「まぁ弱いだけが取り柄だからなぁ!」
挑発をかけてくる三人組をエルトは特に気にすることもなく、鞄に教科書等を詰め込み、肩にかけ、教室のドアを開けようとすると、
「何でお前みたいな奴が魔法騎士目指してんだよぉ。ダッセェんだよ!」
その態度が気に入らなかったのか、三人組の中の一人がエルトの胸ぐらを激しく掴み、壁し勢いよく押し当てる。
クラス達が騒然とする中、エルトは平然とした顔で口を開く。
「どいてくれないかな? 帰れないんだけど」
「あぁ⁉︎」
「どいてくれって言ってる。言葉分かる?」
「ッ! てっめぇ!」
瞬間。ゴッ! という鈍い音と共にエルトの?茲が殴られる。口の中が切れたのか、口の端からは血が垂れ流れた。
これ以上相手にするのも面倒臭いので、殴られる際解放されたエルトは口の端を腕で拭い、踵を返し、歩を進める。
「その態度が気に入らね――ガハッ!」
と、その時。後方で先程まで罵倒暴言を吐いていた男が、途中で言葉を途切らせた。続いて、ゴスッ! という音と共に後方を振り向いたエルトの足元に先程の男が力なく転がってくる。
「何でやり返さない訳……?」
「……え」
「何でやり返さないのかって聞いてるのよ……!」
そしてエルトは、その光景に目を見開く。何故ならそこいたのは、前回エルトに決闘を挑んだ――ラミアだったのだから。
「面倒臭いからだよ……なんか文句でもあんのか?」
「あるわよッ! 馬鹿にされて悔しくないの⁉︎ やり返そうと思わないのッ⁉︎ なんでアンタはそう無機質なのよッ!」
「……無機質?」
「えぇ! とびっきりね。感情を出してるようで全く出ていない。アンタは無機質なのよ!」
エルトははぁ、溜息を吐き口を開く。
「言うが、俺は悔しくなんかない。煽られても殴られても、俺は何もしない……俺にとって負の感情は、爆弾にも等しいものだからな」
「……もういいわ」
「そうか。話が早くて助か――」
瞬間。ラミアが刹那の速度で顕現させた《朱撃剣》の腹がエルトの脇腹を激しく打った。
脳の整理が追いつかないエルトは無様に廊下を転がり、曲がり角の壁に衝突し吐血。周囲がざわっと騒ぎ出す。
「お前……ッ。何すん、だ……」
「力があるのに……ッ。力があるのにッ!」
間合いを詰め、続いて強烈な右ストレートがエルトの?茲向かって放たれ、エルトは階段を転げ落ちる。
さすがに事態を重く見たのか、教師達がラミアを止めようとするも、その迫力に皆が皆?茲に汗を垂らしその場で硬直状態を続けていた。
「何でよッ! 何で! アンタには力があるのにッ! 何でそれを使おうとしないの⁉︎ 私に喧嘩を売ってんの⁉︎」
「な……ん、だよ」
「私は努力して手に入れた! この力を! だから……みんなの力になろうと惜しむことなくこの力を使うの! なのに何でアンタは、使わないの⁉︎ 《ディヴァス》が襲ってきたら、アンタはどうするのよ!」
涙でくしゃくしゃになりながら叫ぶラミアに、エルトはギリッと歯噛みをし、もう縁はないだろうと思っていた『負の感情』を曝(さら)け出した。
「ふざ、けんなよ……」
「……え」
「ふざけんなって言ってるんだッ! テメェこそ人のこと分かった気になりやがって……テメェが俺の何を知ってるんだよッッ! 適当なことだけ言いやがって! テメェの努力なんて知ったことねぇ! 俺は俺の道を歩む! 他人に口出しされる権限はねぇッ!」
言い切ったその刹那。謎の悪寒がエルトを襲い、目を見開く。
そうだ……これは、似ていた。
あの時の、感覚に。
「……くそ」
エルトはそれを理解すると同時、ブレスから《魔装砲剣》を顕現させる。
「アンタ、何してッ⁉︎」
瞬間。その場にいた全員が驚愕に目を見開く。
――エルトが、自身の武器を腹に突き刺したのだから。
「あ……がッ!」
激しく吐血し、エルトの意識は闇に消えていった。
『黒織エルト。ランク決定戦の結果、貴公をランクDに格付ける』
別に、その結果に関して問題がある訳ではない。言ってしまえば計画通りだ。
だが、あのラミアと言う少女が放った言葉が、嫌なほどに脳裏をループしている。
『なんでアンタは隙があったのに攻撃しなかった訳? 舐めてるの?』
侮蔑でもなく挑発でもなく、ただただ憤怒の形相をあらわにし、言われたその言葉。自身でも理解しているはずなのに、何故か胸を抉られるような違和感を覚える。
「俺は……駄目なんだよ……怖いんだよ。この力が……」
呟くも、喧騒に包まれた教室の中である。それは誰の耳に届く事もなく消えてゆく。
と、その時。こちらにやってきた三人組の男子は、ニタニタと嫌な笑みを浮かべながら口を開く。
「よぅ、エルト。お前、またランクDなんだよなぁ。だっせぇよなぁ」
「あはははっ! 言えてるわっ! おい最弱ぅー」
「まぁ弱いだけが取り柄だからなぁ!」
挑発をかけてくる三人組をエルトは特に気にすることもなく、鞄に教科書等を詰め込み、肩にかけ、教室のドアを開けようとすると、
「何でお前みたいな奴が魔法騎士目指してんだよぉ。ダッセェんだよ!」
その態度が気に入らなかったのか、三人組の中の一人がエルトの胸ぐらを激しく掴み、壁し勢いよく押し当てる。
クラス達が騒然とする中、エルトは平然とした顔で口を開く。
「どいてくれないかな? 帰れないんだけど」
「あぁ⁉︎」
「どいてくれって言ってる。言葉分かる?」
「ッ! てっめぇ!」
瞬間。ゴッ! という鈍い音と共にエルトの?茲が殴られる。口の中が切れたのか、口の端からは血が垂れ流れた。
これ以上相手にするのも面倒臭いので、殴られる際解放されたエルトは口の端を腕で拭い、踵を返し、歩を進める。
「その態度が気に入らね――ガハッ!」
と、その時。後方で先程まで罵倒暴言を吐いていた男が、途中で言葉を途切らせた。続いて、ゴスッ! という音と共に後方を振り向いたエルトの足元に先程の男が力なく転がってくる。
「何でやり返さない訳……?」
「……え」
「何でやり返さないのかって聞いてるのよ……!」
そしてエルトは、その光景に目を見開く。何故ならそこいたのは、前回エルトに決闘を挑んだ――ラミアだったのだから。
「面倒臭いからだよ……なんか文句でもあんのか?」
「あるわよッ! 馬鹿にされて悔しくないの⁉︎ やり返そうと思わないのッ⁉︎ なんでアンタはそう無機質なのよッ!」
「……無機質?」
「えぇ! とびっきりね。感情を出してるようで全く出ていない。アンタは無機質なのよ!」
エルトははぁ、溜息を吐き口を開く。
「言うが、俺は悔しくなんかない。煽られても殴られても、俺は何もしない……俺にとって負の感情は、爆弾にも等しいものだからな」
「……もういいわ」
「そうか。話が早くて助か――」
瞬間。ラミアが刹那の速度で顕現させた《朱撃剣》の腹がエルトの脇腹を激しく打った。
脳の整理が追いつかないエルトは無様に廊下を転がり、曲がり角の壁に衝突し吐血。周囲がざわっと騒ぎ出す。
「お前……ッ。何すん、だ……」
「力があるのに……ッ。力があるのにッ!」
間合いを詰め、続いて強烈な右ストレートがエルトの?茲向かって放たれ、エルトは階段を転げ落ちる。
さすがに事態を重く見たのか、教師達がラミアを止めようとするも、その迫力に皆が皆?茲に汗を垂らしその場で硬直状態を続けていた。
「何でよッ! 何で! アンタには力があるのにッ! 何でそれを使おうとしないの⁉︎ 私に喧嘩を売ってんの⁉︎」
「な……ん、だよ」
「私は努力して手に入れた! この力を! だから……みんなの力になろうと惜しむことなくこの力を使うの! なのに何でアンタは、使わないの⁉︎ 《ディヴァス》が襲ってきたら、アンタはどうするのよ!」
涙でくしゃくしゃになりながら叫ぶラミアに、エルトはギリッと歯噛みをし、もう縁はないだろうと思っていた『負の感情』を曝(さら)け出した。
「ふざ、けんなよ……」
「……え」
「ふざけんなって言ってるんだッ! テメェこそ人のこと分かった気になりやがって……テメェが俺の何を知ってるんだよッッ! 適当なことだけ言いやがって! テメェの努力なんて知ったことねぇ! 俺は俺の道を歩む! 他人に口出しされる権限はねぇッ!」
言い切ったその刹那。謎の悪寒がエルトを襲い、目を見開く。
そうだ……これは、似ていた。
あの時の、感覚に。
「……くそ」
エルトはそれを理解すると同時、ブレスから《魔装砲剣》を顕現させる。
「アンタ、何してッ⁉︎」
瞬間。その場にいた全員が驚愕に目を見開く。
――エルトが、自身の武器を腹に突き刺したのだから。
「あ……がッ!」
激しく吐血し、エルトの意識は闇に消えていった。
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