上 下
27 / 37
2年生始まりました

第27話 正解とその答えと

しおりを挟む
「はーい、今開けますね」

 遠山がそう言って扉を開けると、そこには予想通りの人物が立っていた。

「いらっしゃい、二階堂くん」

 名前を呼ばれて二階堂は少し驚いた顔をした。

「新入生代表挨拶をしたんだから、顔を知ってて当然だよね」

 遠山が笑いながら言うので、二階堂は少し緊張を解いた。が、中にいる人物を見て直ぐに眉間に皺がよる。

「お前しか来ないと思ってた、風紀になったんだって?」

 下総の膝の上から佐藤が声をかけると、二階堂は目を見開いて立ち止まった。

「な、なんなの?」
「見ての通り、歓談だ」
「そうじゃなくて」

 二階堂はしばらく黙って部屋の中にいる人たちを見渡したが、誰も何も言わないので受け入れることにした。

「これで、どうでしょう?」

 訳ししたノートを佐藤に見せる。佐藤は下総の膝の上に座ったままそのノートを見た。
 学ランの胸ポケットから用紙を取り出して、二階堂のノートと見比べる。後ろにいる下総にも見せていた。暗にお前も確認しろと言われていることを、下総は理解した。

「なかなかのヒアリング能力だな……訳し方も演説になってて、なかなかいい」

 佐藤は至極ご満悦な表情をした。こんな顔、滅多にするものではないから、藤崇がスマホを取り出して連写を始めた。

「ふじくん、何してんの?」

 目線だけで佐藤が牽制するも、藤崇は涼しい顔で楽しそうにスマホを向けたままだ。

「いい顔してたから、ね。それと愛人くんとの記念写真」
「愛人?」

 そこだけ拾って二階堂が呟く。

「そうなんだ、俺、公認の佐藤くんの愛人」

 下総が嬉しそうに言うものだから、二階堂はゆっくりと下総を見て、藤崇を見たあとに佐藤に目線を戻した。

「残酷な現実を伝えると、その人が俺の旦那でこの学園の卒業生で元風紀委員長」

 それを聞いて二階堂はもう一度藤崇を見て、何故か元会長である兄を見た。

「最悪」

 小声だったけど、しっかり聞こえたそのつぶやきに神山が爆笑した。

「いいね、弟くん素直で」

 隣に座る元会長はだいぶ不機嫌そうな顔になった。

「風紀委員の方がそっちの知識を持ってないと対処出来ないよ」

 藤崇がやんわりと告げると、二階堂は一瞬泣きそうな顔をして、直ぐに戻った。

「新歓の説明と注意事項を聞いていたんだろう?嫌なら後処理をしなくて済むように、同級生を守ってやるんだな」

 元会長でもある兄に言われて、二階堂の肩が小さく跳ねた。

「新歓は、風紀の一年が一番狙われるよ」

 下総がノートを二階堂に返した。二階堂が書き込んだ下によく出来ました。と赤ペンで書き込まれている。
 佐藤が膝から降りて、パソコン机に置かれたノートの束を持ってきた。

「俺が去年作ったテスト対策まとめノート」

 全教科あるだけに、なかなかの厚みだ。

「明李、その紙袋くれよ」

 言われて相葉が、神山の持ってきた菓子折が入っていた紙袋を持ってくる。

「お菓子、オマケね」

 佐藤がノート入れた上に、相葉がお菓子を一つ乗せた。

「S組は去年と教師が同じだから、これで問題ないはずだ」
「教師が同じ?」
「知らないのか?この学園の教師は学年固定されてるだろう?」

 佐藤が意外そうな声を出すと、相葉以外が首を横に振っていた。

「俺らみたいに小等部から居ないとわかんないみたいだね」

 相葉が笑いながら言うと、佐藤も笑った。

「エスカレーターだから、担任が成績とか生活態度を気にしてないんだよ」

 とは言っても、この学園しか知らなければ外の学校の事情など分かるはずもない。

「俺はあのヤリチンみたいなマネはしなから安心しろよ。ただ、風紀には貸しがあるからデカい態度とるけどな」

 また貶されて元会長の、眉間に皺がよる。

「やだなぁ、佐藤くん。元会長の二階堂くんは風紀は乱してなかったよ」

 神山がフォローを入れると、佐藤が軽く笑った。

「ああ、そうだった。ちゃんと部屋に連れ込んで防水シーツも使ってたもんな」
「防水シーツ?」

 二階堂が聞き返す。

「お前さぁ、自分の出したヤツ、シーツだけで受け止めきれんの?」

 佐藤が真面目な顔で聞くけれど、内容はエグい。ハッキリとは言わなかったけれど、風紀なら分かるだろう。という言い方だ。

「えっ?ええ?」

 二階堂は狼狽えて、何故か自分の兄を見た。こんなタイミングで頼られても困る。

「…洗濯機ぐらいまわせるからな、俺は」

 返答がこれだ。

「案外マメだよな。だからモテたのか」

 佐藤はそう言いながら藤崇を見る。目が合うと藤崇はニヤリと笑った。

「同意じゃなかった連れ込みが発覚した時は、俺か榊原がロック解除するから」
「聞きました」
「新歓の合同打ち合わせがあるから、またそんときな」

 そう言って、佐藤は二階堂の隣に立って、まじまじと見つめた。

「お前、背ぇ伸びたな」
「え?なに?」

 理不尽に睨みつけられて、二階堂が慌てると、下総が笑いながら教えてくれた。

「佐藤くんはね、身長気にしてるの」
「うるせぇ、俺だって大きくなったよ」
「うん、170センチになってるといいね」
「お前、やっぱりバカにしてるだろ」

 上からきた下総の手を払い除けて、佐藤か吠えた。

「だって俺、佐藤くんに勝ってるの身長だけだし」
「ムカつく、愛人のくせに」
「愛人……」
「深い意味は無いから」

 二階堂のつぶやきに相葉が突っ込む。

「会長と副会長が仲が良くていいだろう?」

 佐藤がそう言うと、二階堂は素直に頷いた。

「文彦もたまには俺の部屋に泊まりに来いよ、お前の兄貴にベッド貰ってるから」

 そう言って佐藤が笑ったので、二階堂はそこで気がついた。

「だから防水シーツ…」

 そのつぶやきを聞いて、神山が盛大に笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

その学園にご用心

マグロ
BL
これは日本に舞い降りたとてつもない美貌を持った主人公が次々と人を魅了して行くお話。 総受けです。 処女作です。 私の妄想と理想が詰め込まれたフィクションです。 変な部分もあると思いますが生暖かい目で見守ってくれるとありがたいです。 王道と非王道が入り混じってます。 シリアスほとんどありません。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

BlueRose

雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会 しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。 その直紘には色々なウワサがあり…? アンチ王道気味です。 加筆&修正しました。 話思いついたら追加します。

処理中です...