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春休みのアレコレ

第20話 朝の儀式をしてみた

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 佐藤が吐き出したものを手のひらに着けて、藤崇はそれを眺めている。
 確認する。とは、言っていたけれど、そんなものを見たところで何が分かるというのだろうか。
 分かるわけが無い。
 佐藤が黙って見つめていると、藤崇は嬉しそうに微笑んだ。

「嘘だろっ!」

 藤崇が、舐めた。

 手のひらを舐めたのだ。

 舌を思いっきり出して、手首の辺りから指先までを一気に舐めたのだ。
 衝撃的すぎる光景に、佐藤は思わず叫んでいた。

(ないないないないない)

 アレは口にするもんじゃない。

 苦いとか不味いとか聞く。

 口にしたことがない佐藤にだって分かる。そもそも匂いだって変だ。
 なんで、こんな匂いなのか知らないけれど、絶対に美味しいはずがない。
 佐藤の頭に浮かぶのは、『性癖』だ。
 藤崇はやっぱりおかしい。そう思わざるを得ない。

「うん」

 藤崇は満足そうに微笑んだ。
 無理だ、もはや理解ができない。

「あ…あ…な、舐めるとか…舐めっ」

 逃げたいけれど、前も後ろも藤崇だ。
 そもそも藤崇の太腿の上に座らされる様な格好で、左脚どうしが絡んでいる。で、目の前に藤崇の顔と自分の吐き出したもので汚れた藤崇の手のひらだ。

「朝の儀式しようか」

 藤崇から謎ワードしか出てこない。もう、何を言っているのか分からなくて、佐藤は藤崇を凝視した。
 藤崇はあっさりと腰を浮かして自身をさらけ出してきた。他人のモノなんて、ましてこんなになった状態のモノなんて初めて見た。
 藤崇が腰を浮かせた時に、佐藤の座る位置を変えられて、あろうことか藤崇とくっつけられてしまった。

「っく……」

 別に比べたくて比べたわけでは無いけれど、結果的に比べることになっている。

(大人と子どもじゃん)

 大きさも色も、とても、同じく体の部位とは言えないぐらいに違っていた。何が、どうなるとああなるのか教えて欲しいけど、あえて知りたくはない。

「裕哉もいっしょに、な」

 藤崇に右手を取られて握らされた。そこに上からボトルの中身が落ちてくる。

「っ……なぁ…あ…ひゃ…っあ」

 温められていないそれは、かなりの刺激で、多分一番敏感な箇所に容赦なく叩きつけるように降ってきた。

「ほら、動かして」

 藤崇の手が佐藤の手の上から被さり、ゆっくりと動き出した。

「っ…んっ……んん…んぅ」

 知らない刺激がやってきて、対処ができない。
 ソコから何かがじわじわと這い上がるように、自分の身体の中をゆっくりと上がってくる。それがなんなのか、理解する前に口が勝手に開いて息が漏れる。

「はぁ…あぁ」

 自分が思う以上に深く吐き出すと、熱が出過ぎたのか一瞬身震いした。

「気持ちイイ?」

 耳元で藤崇かいつもより低い声で聞いてきた。その響さえ刺激になる。

「んんっ」

 身動ぎをして、藤崇から離れようとしたら、藤崇の左腕が佐藤を、しっかりと抱きとめてきた。完全に藤崇の腕の中、胸に背中が密着する。
 右耳に水音がして、生温かい柔らかなものが入ってきた。

「ひゃ…っあ…あぁ」

 全身が痙攣するように一度跳ねると、その後も腰の辺りが小刻みに震えてしまう。右手は相変わらず藤崇と手と一緒に緩やかに動いていた。

「なんで、そこっ」

 完全に油断していたら、藤崇の左手が胸を触っていた。中指が強く押し込むように動いて、痛いぐらいの刺激を与えてきていた。

「もっ…もっ、む、りぃ…」

 話が違うとか、聞いてないとか、普段なら言えたはずなのに、いまは全くそんな余裕はなかった。

「んっんっ…ん」

 込み上げてくるものを耐えていたら、藤崇の舌が佐藤の首筋を大きく舐めてきた。

「あぁっ…あ…あ、はぁ…」

 一度大きな波が来たが、それはそのままどこかへと流れていく。口から大きく息を吐き出していると、藤崇に塞がれた。
 若干酸欠状態なのに、補給を奪われるとどうにも苦しくて仕方がない。鼻で息を吸うことなんて、この際頭から抜け落ちている。

 口内からする水音は、響いて頭の中を駆け抜けるように聞こえてくる。
 ぬめった舌の感触が、熱い息と共に口内を蹂躙してくると、佐藤は為す術なくそれを享受し続けた。
 口の端から飲み込めていない涎が垂れるけれど、それを気にできるほどの余裕はない。知らないことを、一度に教えられればそれを処理しきれずに思考は停止する。

「ふっ…ん……ん…んぁ…あぁ」

 息を吸いたくて更に口を開けると、無防備になった舌を藤崇が、強く吸ってきた。同時に藤崇の親指が付け根から一気に上へと擦りあげるように移動した。
 それに耐えきれなくて、弾かれたように左手で藤崇の腕を押しやった。けれど、まったくかなっていなくて腰が痙攣するようように動いている。

「可愛い」

 藤崇が佐藤のこめかみに軽く唇を落とした。
 佐藤の左手は藤崇の腕を掴んだままだ。
 荒い息遣いのまま、佐藤の身体から力が抜けていく。流石に自分の意思ではなく立て続けに二回は消耗が激しい。
 藤崇は、佐藤をゆっくりと横にした。

「風呂、用意するからな」

 口呼吸しか出来ていない佐藤は、目線だけを藤崇に向けて、ゆっくりと瞬きをした。
 それを了承と捉えて、藤崇は部屋を出ていった。

 ───────

「俺、これから帰るんだけど」

 朝ごはんでも昼ごはんでもない時間になって、それでもお腹が空いているから何か食べたい。その一心で佐藤は台所に立った。
 とりあえず、シャツにズボンという軽装ではあるけれど、服を着た。が、隠せてない。

 首すじは覚えている。

 右の首筋に藤崇が食いついたのはちゃんと覚えてる。が、だが、腕とか知らない。長袖を着れば隠れる。首筋、ギリギリ見えるのだ。

「裕哉はお嫁さんなんだから、いいじゃん」

 カウンターから顔をのぞかせる藤崇は、コーヒーを飲みながら呑気なことを言う。

「俺学生」

「あの学園、そーゆーの割といるだろ?」

「・・・・・」

 佐藤は黙ってココアを飲んだ。色々足りなくて倒れそうだ。

「俺、ノンケで通してきたのに」

「新学期にまとめてカミングアウトすれば?」

「ふじくんは楽しそうだよな」

 佐藤はヤケになってホットケーキを焼いていた。
 何段も積み重ねて、上からメープルシロップをダバダバかけて食べてやる。そんな気分だった。
 めんどくさいけど、バナナとオレンジを向いて別皿に盛ってみた。ついでにヨーグルトをかければ何とか見栄えは成立したようだ。

「ココア飲んで、染み込むほどのメープルシロップかけてホットケーキ食べるのか?」

「美味いよ?」

 佐藤はホイップクリームがなくてガッカリしているぐらいなのに、藤崇は何もかかっていないホットケーキにヨーグルトを添えて食べていた。

「太らなければいいけどな」

 藤崇はそう言うけれど、甘いものは佐藤の精神安定に欠かせない。

「甘党とか言うと、またチワワとか言われるんだ」

 佐藤はチワワ呼ばわりされるのが気に入らなかった。だから、余計に見た目を変えることに気合が入ったのだ。

「うん、まぁ、チワワね」

 藤崇としては、お嫁さんになったんだからチワワでいいと思う。でも口に出したら絶対に殴られる。

「俺が泊まりに行ってもいいんだよな?」

「うん」

「久しぶりに母校を訪問ってのも楽しそうだ」

「俺一人部屋だから問題はないよ」

 佐藤は最後の一切れを口にして、ココアを流し込んだ。甘いものに甘いもの、ヨーグルトも酸っぱかったのか蜂蜜をかけていた。

「糖尿病とか気をつけろよ」

「チワワって言われるから、人前じゃ食べない。最近は買うのも大変だよ」

 学園内の購買で買い物も、やたらと見られていて落ち着かない。チョコの、まとめ買いもやりにくいのだ最近は。

「会長は大変だな」

「生徒会室ではゆっくり食べられるから、いいけどね。お茶飲みながらお菓子が食べられる」

「親衛隊から差し入れか」

「下総の親衛隊は和菓子ばっかり持ってくる」

「副会長の子ね。和菓子似合いそうだな」

 藤崇は生徒会役員の写真をひらいて、下総の顔を拡大してみた。

「和服とか似合いそうだな」

「下総のやつ、俺より10センチ以上でかいんだ」

「それはまた、チワワが加速するな」

「ちょっと、ふじくん」

 佐藤が軽く睨みつけると、藤崇は慌てて立ち上がり食器を片付け始めた。

 ───────

「じゃあ、またな」

「気をつけてな」

 佐藤はバイクに跨り軽く手を振った。
 エンジン音が多少うるさいけれど、会話を邪魔するほどではない。大人しめのバイクに乗っていれば絡まれることもなくスムーズに走れる。
 走り去る佐藤が見えなくなるまで藤崇は立っていた。

「大きくはなったんだよな」

 佐藤がもう少し大きくならないと、抱きにくいよな。というのが藤崇の本音である。
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