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過激な侍女と小悪魔な執事

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本当に一体だれだろう。
初めてみる女の人だ。

褐色の肌、うねった豊かな黒髪、黒曜石のような瞳、目鼻立ちのはっきりした綺麗な人。お仕着せの侍女服を着ているが、豊満な胸元やがっしりした腕周りが窮屈そう。彼女は、尖った犬歯が目立つ歯並びを剥きだして笑う。

「見たらわかんだろォ!アタシはおまえ付きのメイドだ!」

「はえ!?は、初耳ですけども!?」

「そりゃそうさ、さっき採用されたばっかだからよ!なあチビ」

「アバリシア、ライラお嬢様が怖がってるじゃん。もうちょっと品よくしなよ」

気が付かなかったが、部屋にはもうひとりいた。机に座っていた小さな後姿が、こちらを振り返る。

アバリシアと呼ばれた女性とは正反対に、透けるような白い肌、ガラス細工を思わせる銀髪、アーモンド形の目は大きく灰色の瞳が賢そう。目の覚めるような美少年だ。執事っぽい燕尾服だけど下はサスペンダー付きの半ズボン。白い膝小僧がまぶしい。

美少年はキュルルンと擬音でもつきそうな微笑みを浮かべ、わたしにすり寄ってきた。

「こんにちは、ライラ・ウェリタス侯爵令嬢サマ!ボクはホロウ・ピアット!今日からライラお嬢様の執事なんだ!こっちの狂犬みたいなのはアバリシア・ボアダム!ヨロシクね!」

アバリシアさんが、かわいこぶる(実際かわいい)ホロウくんを靴底にはりついたキャンディーでも見るような目で眺めている。「……ンだよ、そのうぜェキャラ設定」

「し、執事?侍女?わたし専属の?」

「そのとーり!そもそもね、今までだーれも付いてなかった方がおかしいんだよ!だってライラお嬢様は侯爵令嬢で、未来の王太子妃様で、ボクらの――」

言いかけ、ホロウくんはペロリと舌を出した。

「おっといっけない!おしゃべりはあとにしなくちゃ!アバリシア、お嬢様も起きたことだし急いでお引っ越しの準備すませちゃおう!」

よく見れば、元々物の少ない部屋が荷造りでもされたようにさっぱりしている。あんなに大量にあった花輪がない。ちょっとのつもりだったけど、一週間くらい眠ったままだったのだろうか。状況にまったく付いていけない。

「あの、ひょっとして、わたし野外とかに追い出されるの?」

「寝ぼけてンのか?」と、アバリシアさん。キュルルンスマイルのホロウくんが彼女の足をさりげなく踏んづける(アバリシアさんは全くダメージを負っていなさそうだ)。

「学術院中央棟にもっと近くて、もっと広い上級寄宿舎に移るんだよ!ライラお嬢様って本当はそっちのお部屋を使っていいんだって!間違ってこのお部屋になっちゃってたみたいなの!侍女頭さんが大急ぎで用意してくれたよ!」

なるほど、とわたしは頷いた。

(そういえば、リリベルやクレデリア様の姿を近辺で見かけたことがない。みんなは別の寄宿舎を使ってたのかあ)

寝起きの頭でボーッとしているわたしをよそに、ふたりは的確に迅速に荷造りを進めている。

ふつう上級家庭の令息令嬢には、学術院もしくは各々で用意した部屋付きの使用人がいる。でも、わたしにはちっとも縁がなく、だから食堂までごはんを自分で取りに行き、服にアイロンをあてようにも道具がなかった。なぜ急にふたりも来てくれたんだろう。わたしがあんまりにもダメだから、お義母様が手配してくださったのだろうか。

(それとも学術院の方針かな。わたしの専属なんかイヤだから、だれも来てくれないんだと思ってた。アバリシアさんもホロウくんもすごくフレンドリーだし、ひょっとして依願してくれたのかなあ……えへへ)

「なにニヤついてんだよ。なあ、おまえさ服こんだけしかねェの?」

「『おまえ』じゃなくて『お嬢様』でしょ、アバリシア。『おまえ』呼び禁止ね」

「だって侯爵令嬢のくせに少なすぎだろ。貴族の飼ってる犬コロのほうがまだ服持ってるぞ」

「犬コロも禁止」

「あいつらな、犬のケツ穴にレースの目隠しまで被せてるンだぜ」

「ケツ穴禁止」

空っぽのクローゼットを前に、アバリシアさんがぼやく。

「ババアか喪服みてェな服ばっかじゃん。ドレスとか持ってねェの?」

「ドレス……」

しまった。やっぱりわたしは予想以上に舞い上がっていたんだ。彼を探していた一番の理由をすっかり忘れてサンドイッチ食べてたんだもの。

「あ、あります……昨日いただいたものが別の部屋に……」
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