上 下
19 / 39

リリベル・ウェリタスの屈辱

しおりを挟む
結局、待てど暮らせどジェネラルは戻ってこなかった。

『水辺』への道を進みながら、ノイマンはもう不満を隠せもしない。共犯者がいるならともかく、ひとりでローガンの案内を放り出す度胸はない。一応学術院長直々のお達しなのだ。

この暑苦しいほど煌びやかな男を、うちのリリベルに紹介するのはしゃくに障るが仕方ない。リリベルにまで抱き着かないよう目を光らせていなくては。

ノイマンは扉が開いたままの『水辺』の談話室へ、声をかけながら入った。

「失礼、新しい入学者をお連れしましたよ」


----------


想像以上に魅力的な男性だと、リリベルは内心喜ぶと同時に苦々しくも思った。

授業では遠目にしか見えなかったが、人によってはクラージュ殿下たち以上に好まれるかもしれない。線の細い聖フォーリッシュ王国の男性陣とちがい、凛々しく野生的で、なんとなくまとう『危険な雰囲気』が箱入り娘にはたまらないだろう。

こんな人が、何故姉を助けるような真似をしたのか。

火柱のインパクトが大きすぎて誰もそこに注目しないが、結局彼は姉を助けに現れたように思う。恥をかいて泣き寝入りするはずだった負け犬に、思いがけない手助けをして救った。あれは姉の魔法ではなく、きっと彼の魔法だ。姉が自分より優れているはずがない。どちらにせよ、ローガン王子の登場で光魔法はすっかりかすんでしまった。おもしろくない。

さらに気に入らないのは、あのときすでにふたりが名前を呼びあう仲だったこと。実技授業の前にどこかで会っていたのだ。自分が先に会っていれば、と心底腹が立つ。

黒い内面をひた隠し、リリベルはノイマンに紹介されるより先に、ローガンの前に走り寄った。いかにも待ちきれなかったふうに。これはどんな相手にも有効だ。

実際待ちきれなかった。
このあとはさっさとノイマンを追い払い、ふたりだけでランチといきたいところだ。そこで姉との出会いに探りを入れよう。殿下はルーザー国を相手にする気がないのか午後の授業まで出てこないらしいし、年齢は上だろうがローガン王子はリリベルと同じ1回生になるのだ。仲良くなって損はない。

なにより、この華やかな男を隣に連れて歩いているところを、学術院の連中に見せびらかしたかった。特に姉に。きっといつもの陰気な顔でうらやましそうにするに違いない。考えるだけでワクワクした。


「ローガン・ルーザー王子殿下!リリベル・ウェリタスと申します!」

リリベルは優雅に膝を折ってお辞儀し、とっておきのとろけるような微笑みを見せた。両手を胸の前で組み、ぐっと押し上げると白い胸元がリボンの隙間からのぞく。

「お会いできて光栄ですわ!昨日の実技授業のときお姿を拝見してから、お話をしてみたいと思っていたんです」

ノイマンは、さりげなくリリベルとローガンの間に立った。

「彼女は、我が国でも珍しい光の精霊の加護を得ているんです。王妃様と同じ聖なる力で、大聖堂は彼女の卒業を今か今かと待ち構えていますよ」

「ああ、君の光魔法は見た!素晴らしかった!」

「まあ、うれしい!」

ローガンは晴れやかに笑った。

「ピカピカと光って、蛾を集めるにはちょうどいい!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。 ※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)  

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。

ふまさ
恋愛
 伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。  けれど。 「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」  他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~

岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。 「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」 開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

最後に笑うのは

りのりん
恋愛
『だって、姉妹でしょ お姉様〰︎』 ずるい 私の方が可愛いでしょ 性格も良いし 高貴だし お姉様に負ける所なんて ありませんわ 『妹?私に妹なんていませんよ』

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。

蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。 「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」 王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。 形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。 お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。 しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。 純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...